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#34 生地胴=ジーンズ論 vol.9
■16 拭き漆の隆盛から
拭き漆の生地胴がすっかり市民権を得るようになると同時に、生地胴について見聞を広めていくと、「これは本当は生地胴ではない」ということにもどかしさを感じるようにもなりつつあった。
何も手が加わっていない素地の胴台こそが生地胴だという元の考えに立ち返ってみようかと、立ち寄った剣道具店で問い合わせても「今はそのまま胴台として使えるよい革がない(から拭き漆のものしかない)」という答えが返ってくるばかりであった。この時点ではむしろ素地の胴台が懐古となりつつあった。生地胴といえば拭き漆で仕上げられた、柿の色を思わせるものを指すことに大半の愛好家は慣れていたのである。
■17 色彩豊かに
柿色の拭き漆の次の展開は、漆器にみられるような色のバリエーションであった。
茶の濃いめのもの、赤の強いものなど、様々な拭き漆の胴台は、これまで逆説的に高くなっていた生地胴のハードルを低くすることにつながった。
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このころから既に生地胴の定義がどこにあるのだろうという声を上げるユーザーも出始めていたが、おそらく誰も明確な答えを出すことはできなかった。拭き漆の胴台が生地胴として定着している以上、どこかで線を引くということが既に困難になっていたからである。
生地胴はこの時点で、今後バリエーションを増やし、より親しみのある剣道具のひとつとしてカテゴライズされることが約束されていたのではないだろうか。
現在、生地胴愛好家は右肩上がりに増え続けているが、それでも全剣道人口からの比率で言えば数%に過ぎないと思われる。微々たる数字でしかないわけだが、生地胴には同じものが存在しないという特徴がある。
その特徴がますます「定義」することを難しくさせていたが、筆者は定義には拘り過ぎることなく、拡がる可能性を選択したいと考えている。
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■18 紺生地胴、赤生地胴の登場
竹胴台に貼られる牛革は基本的には透明である。もちろん完全な「クリア」ではなく、白けがあったり、毛根が残ってはいる。その革と竹の間に布が挟まれている。更に布と竹の間に何かを挟み込んだり、布に文字や柄を施すことで模様が浮かび上がる。
紅葉や銀杏の葉の柄が映し出された生地胴は筆者がターニングポイントとして掲げた約30年前には既に存在しており、それはお洒落なものだった。挟み込まれた布を紺地や赤地のものにすることで生まれたのが、今や生地胴のバリエーションのひとつであり人気の高い紺生地胴や赤生地胴である。
とある胴台職人の話では、紺生地胴は十数年ほど前、赤生地胴は7~8年前から力を入れて作り出したとのことで、その歴史は比較的新しい。
■今回のあとがき
しばらく拭き漆の話題が続きました。生地胴において、拭き漆の存在はそれだけ大きなものでしたが、時が流れれば人とは違うものを求めるようになるのは当然の流れです。そしてここ数年では当たり前になった色のついた生地胴が多く出回るようになると「生地胴」がひとつのジャンルとなっていきます。
稽古用の胴台からはじまり、一度絶滅寸前までいった生地胴がひとつのジャンルとして成立するまでになった…結構すごいことだと思いませんか??