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#21「立ち合いにはストーリーが必要」は本当か ~昇段審査の都市伝説

昇段審査には、「合格のためのコツ」とか「極意」というように、これができれば合格だという切り札のようなものは存在しないというのが、経験から得た私なりの結論です。
もしかすれば、切り札もあるのかもしれませんが、それは恐らく合格できる実力がある人が目立てる要素がそこにあったからにすぎないのです。

キツイ言い方ですが、合格できるほどの力量が備わっていない人が本番で切り札を出そうとしてもまず上手く行きません。それに「切り札」を出しても、実力があったから出たものなのか、ラッキーパンチなのかは審査員にはわかるのだそうです…という話を審査員を務められた先生から聞いたことがあります。

■切り札を出すのに必死になっていないか

切り札というのは、たびたび述べている「初太刀の有効打突」や「特定の技」を指します。
摺り上げ面が決まれば合格の可能性が上がるとか、返し胴が良い機会に出せれば合格できる…というような決定打の必要性を説く教え方が確かに存在します。

切り札がうまく出せて合格できるのならそれでいいのです。
しかし、最も危険なのは、切り札を出そうとするがために、自分の普段の剣道が崩れることです。

以前、全国審査になかなか合格できないという方の奮闘の記録をつづったブログが目に留まりました。
そこには不合格だった審査の動画がアップされていました。
おそらく、初太刀を許さず、自分が初太刀を取らなくては合格できない!という強い気持ちがあったのでしょう。
それが良い方向に出ればよいのですが…初太刀を打たれたくないからと構えが定まらず、自分は初太刀を取らねばという思いから十分に攻め切らないまま斜めに面を打ちに行く、という内容でした。
そしてブログの文章には「初太刀を取らなくては」という趣旨のことが延々と述べられていました。
余程コメントしようかとも思ったのですが、直接のつながりもなく、急に上からの指摘をするような格好になることはあまり良いことではないなと思い、そのページを離れました。
その後、合格されていると良いのですが。

■たった数十秒の間にストーリーを描けますか?

はい、私には不可能です。
例えば1分30秒の立ち合いの時間を、いくつかの時間帯にわけて捉えるべきという教えがあります。
起承転結のストーリーを描きなさい。
序盤で攻め上げ、中盤で打ち込み、終盤は動じずに捌きなさい…というような教え方です。

否定はしません。
それが完璧にできれば、良い結果がついてくるのかもしれません。
ただしこれは、終わってみればストーリーができていたくらいのものであり「最初からストーリーを完成させるために立ち合う」というのは、はっきり言って本末転倒です。
ストーリーを組み立てるために、わずか60~90秒の間に、悩み考えながら相手と向き合って自分の力を出し切ることができるのでしょうか。

昇段審査の都市伝説は、不合格を繰り返し、トンネルにはまってしまっている人に特に読んでもらいたいと願い、書いています。
トンネルにはまって苦しんでいる方は、ストーリーを組み立てる余裕があるのでしょうか?

■みんなホントにストーリーを組み立てているの?

ここまで読み進めて、どうなんだろう??と思った方は、何でもよいのでYoutubeの六段以上の審査動画を複数見てみましょう。

どうでしょうか。
合格になっている受審者の立ち合いに「ストーリー」ができている動画がどのくらいあったでしょうか。

そもそも、ストーリーって何でしょうか。

合格する人の立ち合いは勢いがあります。縁を切ることなく、最後まで自分が主体となって立ち合っている自信のようなものを感じます。
これもおそらく、最高に気迫がこもった立ち合いができているからです。
そして、それができていればどんな内容であってもあとから「ストーリー」はついてくるものです。

序盤で攻め上げて中盤で打ち込み、最後は打たせないストーリーもあれば、最初はガマンの内容だったけれど、尻上がりに調子を上げ、最後はガンガンに打ち込んだというストーリーもあるでしょう。

■「日ごろの稽古の一部分が切り取られている」と考える

普段、審査など意識しない稽古をしているなかで、ストーリーなど意識する人が果たしてどのくらいいるでしょうか。
普段、確かに時間で区切って稽古する人もいるでしょうが、どちらかといえば時間を決めずに上手(うわて)に懸かっていく稽古だったり、同等の相手と心行くまで立ち合うことのほうが多いはずです。
そこでストーリーなどは組み立てようがありません。

しかしそのストーリーのない稽古を積み重ね、人は総合力を高めているはずです。

せっかくの審査です。普段、総合力を高めるべく、必死で稽古しているその姿をそのまま見てもらいましょう。
時間帯なんて気にする必要はありません。
受審者全員の立ち合いをみるために時間を区切っているだけのことであって、時間の使い方を見ているわけではないのです。
90秒を組み立てるのではなく、「自分の普段の剣道を90秒切り取った」という発想に切り替えることをオススメします。

■自己評価せずに一気に駆け抜ける

審査の場で立ち合いながら、自己評価をする人がいます。
「初太刀を外したからマイナスになってしまった。どうしよう」
「今相手に打たれてしまってマイナスだったから挽回しなくては」
というように、何かアクションがあるたびに都度その結果を真に受けてしまい、段々と自分を追い込んでしまい力が出せず、結果不合格。

そんなパターンが少なくありません。

審査で問われるのは総合力であり、審査するのは自分自身でもなければ一緒に会場に来た友人でもありません。
審査するのは審査員なのですから、少し失敗したくらいで気にせず、最後まで息継ぎせずに駆け抜けるつもりでいきましょう。

■実は完璧な立ち合いは少ない

立ち合いの動画をたくさん見てみることをお勧めします。
参考になる要素がたくさんあるのと同時に、あなたがイメージしている完璧な受審者は思いのほか少ないことに気づくはずです。
これは審査員が受審者の総合力を見ているからであり、時間内にストーリーを楽しもうとしているわけではないことの表れともいえます。

さあ、余計な雑念は捨てて、自信を持っていきましょう。
とりあえず、今日はこの辺で。

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