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画家ロセッティは詩人でもあった

 ヴォーン・ウィリアムズ歌曲 「Silent Noon」  ーD.G.ロセッティの詩集「生の家 The House of Life 」19番目の詩

D.Gロセッティ(1828 -1882)はヴィクトリア朝時代英国で活躍したラファエル前派の画家として有名ですが、実は詩人でもあります。

 ミレーの「オフィーリア」やロセッティの「ベアータ・ベアトリクス」に面影をとどめる妻エリザベス・シダルが「事故死」して自責の念にかられたロセッティは、亡き妻への贖罪として棺に詩の草稿ノートをおさめますが、1780年の「詩集」を刊行中、墓を暴いて草稿を回収しました。その草稿をもとに創作された1881年詩集「生の家」(final version)は、第一部「青春と変化」59篇、第二部「変化と宿命」42篇の全百一篇からなり、そこに描かれる恋のありようは、若々しくまっすぐな思いから次第に屈折を増して、悔恨や死の影に侵されるようになっています。

 英国の作曲家ヴォーン・ウィリアムズは、そんなロセッティ詩集「生の家」の第一部「青春と変化」の19番目にあたる「真昼の静寂(しじま)Silent Noon」に曲を付けました。私は去年ベジュン・メータの「20世紀英国歌曲集」というアルバムでその歌を聴いてとても心に響きました。去年一番繰り返し聴いたアルバムなんです。もしよかったら聴いてみてくださいね♪いろんな歌手で聴き比べましたが、カウンターテナーの声が詩のイメージに合うように思います。

●藤木大地(カウンターテナー)
https://www.youtube.com/watch?v=Pq9GWl4HuNI

Your hands lie open in the long fresh grass,—
The finger-points look through like rosy blooms:
Your eyes smile peace. The pasture gleams and glooms
'Neath billowing skies that scatter and amass.
All round our nest, far as the eye can pass,
Are golden kingcup fields with silver edge
Where the cow-parsley skirts the hawthorn-hedge.
Tis visible silence, still as the hour-glass.
Deep in the sun-searched growths the dragon-fly
Hangs like a blue thread loosened from the sky:—
So this wing'd hour is dropt to us from above.
Oh! clasp we to our hearts, for deathless dower,
This close-companioned inarticulate hour
When twofold silence was the song of love.

君の手は、丈高い青草に埋もれて開き
指先は薔薇色の花のように透けて見える。
君の目は穏やかに微笑む。牧場は煌めきまた陰る、
高波のようにかつ散りかつ集う雲の下で。
僕等の巣のまわり、目が届く限り、
金色のきんぽうげの野原が広がり、
山査子の生垣を小杓が囲む辺りで銀色に縁どられる。
それは目に見える静寂、砂時計のような静けさ。
日差しが探りあてた茂みの中深く、蜻蛉が
空からほつれたひとすじの青糸のように浮かぶ
 この翼もつ一刻は天から僕らのもとに落ちてきた。
あぁ、僕らは胸にしかと抱こう、不死の賜物として、
親しい人とともに過ごす、言葉にならぬこの刻を、
二重の沈黙が愛の歌となるこの刻を。

注)2018年6月10日過去記事の投稿です。

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