夏と一年

一年前、何をしていましたか。この一年間で、何がありましたか。

また同じ季節がやってきて、一つ前のこの頃がとても心に刻まれる時代だったから、大気の匂いや街の色合いが深く記憶に染み付いている。いやおうなしに思い出す。あの頃、私たちの周りにあった未来。

君は夢への道が閉ざされて、まるで大海原に投げ出された気分だと言っていた。私は夢なんてものは抱けずに、うまく人と付き合えず悩んでいた。

大きな夢は抱けていなかったけど、それでも何にでもなれるような気はしていて、この線路の先の未来を別に苦しみながら目指す必要なんてないと思っていた。大海原に投げ出されたと言う君の、「自由」みたいなものに少し憧れてもいた。

君はとても落ち込んでいるんじゃないかと思っていた。案外元気そうだったので、私も平然と向き合っていたけれど、
たぶん君が落ち込んでいても、私は平然と向き合っていたかも。
気丈な君に少し感心もしたけれど、それ以上に、君とそれから私のこんな定めにとてつもなく悲しくなった。線路って、いつの間にか敷かれていて、車窓から外を眺めただ頭だけを使って生きなければいけないことに疲れていたのかもしれない。それと、これから何年も同じ生き方をするだろうという事実にも。

君にはどうしてか私のことを何でも話せる。全部ではないけれど、こんなに話が出来る人は珍しい。他には彼氏くらいだって言うと君はいつも何も言い返さない。帰り道、お互いすごい回り道をするかもしれないけどそれでもいいじゃないか、何になっているか楽しみにしているよと言って歩いていた。「空が綺麗」だとわざわざ口にするのは綺麗なことを強く噛みしめるためだよと言っていた君の、回り道を描く手の暴れように、少し飽きれながらも勇気をもらったあの夏。

それから一年。

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