猪瀬直樹(2020)『公〈おおやけ〉:日本国・意思決定のマネジメントを問う』ニューズピックス
非凡な著者の伝記的な一冊であり、読んでいて非常に痛快かつ国家の課題について考えさせられる良著。ただ最後が少し尻切れトンボな感があるのは、作家の常なのか不可避な制約によるものなのか。
本書を通して訴えられていることは、我が国の「公」の欠如であり、それは例えば私小説のような感情機微を味わうだけの生き方への警鐘である。公と私は否応なく繋がっているにも係わらず、官僚機構などの公の一時的保全管理者に全て委ねて私的時空を満喫していては未来は無いものと思えと。
氏のいう広義の作家しかり、社会活動家などの大層な名前をつけなくても、本来であれば全ての市民が参加型の民主主義的生き方でもって公を担うべきであった。曰くメディアも批判するだけではなく、ソリューション・ジャーナリズムを具備すべきであるとの主張はもっともなことである。
問題意識と課題の分析は明晰だが、本書に処方箋は示されていない。広義の作家になるためのヒントは散りばめられている。現場をみて風景を感じること、私と公を接続させた物語が真に売れること、公開し万人の眼に晒すことが正解(公正)をもたらすこと。一つ一つ参考にして、後行く者は努力していけばいいだろう。