HAPPY DAIRY COWS 100年先も酪農を日本で
青沼光の生い立ち-酪農との出会い-
高校受験を控えた中二の私は将来の働き方に悩んでいました。共働きの両親は朝早くに出勤して21時過ぎに帰宅、休日は基本的に日曜日だけでした。親の仕事に興味はありましたが、その働き方を40年間続ける会社員という生き方に疑問がありました。家とは何なのか。家族とは何なのか。人生って何なのかを考えていました。
そんな私の目に飛び込んできたのはTVに映った白黒の牛でした。広い草原を群れで走る牛を見て、酪農という仕事の存在を知りました。家族で牛を飼う事で生活することが出来る。そんな生き方が日本にある事に衝撃を受け、農業高校への進学を目指しました。
高校、大学と酪農を学ぶ中で、職業として酪農を選択し従事するだけではなく、仕事と生活が一体化した営みとしての生き方を実現するために、「酪農家になりたい」と思うようになりました。大学卒業後は長野県の牧場で2年、富山県の牧場で4年の合計6年間従事しました。富山の牧場で妻と出会い結婚したことが富山で開業を目指すきっかけになりました。第三者継承を目指し、県内の牛舎を探し回ること2年。高岡市農協青年部員の紹介で、2015年に居ぬきでclover farmを開業しました。
酪農で事業承継
当時、築40年以上を経過した牛舎と7頭の乳牛を引き継ぎ、国の制度資金3700万円を借り入れて小さく酪農業をスタートさせました。初日の朝の搾乳は過去に経験した事がないくらいに緊張して手が震えていたのを今でも覚えています。
HAPPY DAIRY COWS
乳牛の幸せとは何でしょう。快適性?健康的な管理?それらはもちろん重要な事だと思います。しかし、もっと大切なことがあると私は考えます。それは「人間に必要とされ続ける事」です。乳牛は家畜であり、牛乳や牛肉が人間に必要ないと判断された場合、野生に還すことは出来ず淘汰されます。乳牛自らが人間に対して、有用性や必要性をアピールする事はできません。なので、酪農家がしっかりと美味しい牛乳を搾り、酪農現場の情報を発信し、乳牛が社会で必要とされ続けるための取り組みをしていく事こそが、乳牛の幸せに繋がると考えています。clover farmでは酪農教育ファームの認証を受け、地域の保育園や学校、農協や学生の研修などを積極的に受け入れるだけでなく、SNSやポッドキャストなど幅広い方法で理解醸成活動を行っています。 これが功を奏し、1月1日に発生した能登半島地震の際には、目と鼻の先で大きな被害を受けた仲間の窮地を伝え、支援に繋げる事に私のアカウントを使う事が出来ました。また、今も復旧作業が続く中、全国から数多くの支援を継続的に頂けている事をこの場を借りて御礼申し上げます。
100年先も日本で酪農が続くために
高岡市の農業は米が非常に強く、果菜や畜産が弱い事で耕畜連携の文化が殆ど無く、その部分が伸びしろと感じていました。飼料を地域で生産し、堆肥を還元。輸入のエサや化学肥料の量を減らし、可能な限り地域資源で農産物を生産することこそ、一次産業としての本質的な役割が果たせると考えています。
開業した当初は飼料生産を行うための機械はなく、開業資金的にも機械の導入は困難でした。機械設備が無くとも地域資源を活用できる方法として、エコフィードの利用を進めてきました。おからや野菜のカット工場で出る残渣から始まり、農協青年部員の生産する飼料米や出荷できない規格外野菜。酒粕やウイスキー粕。ビール粕などを購入して利用しています。
そして2023年。開業から9年目。ついに新築の牛舎と堆肥舎、加えて自給飼料生産に必要な機械一式の利用が始まりました。搾乳牛は100頭まで増やし、完熟たい肥を農地に還元します。今年は稲わらを合計10haほど回収して飼料として利用しています。来年以降、地元農家と連携しWCSの生産、耕作放棄地や転作田を畑地化し牧草の生産も始めていきたいです。飼料生産のみで事業が成り立つように成長させ、地域産飼料を活用したTMR工場を誘致し、飼料の生産製造を行える流通拠点として成長させていきたいです。
高岡市の農業を変えたい
富山県下には乳牛が2000頭程度しか居ない現状から、乳業や集乳、獣医療、飼料供給などのインフラの維持のために、乳牛頭数をこれ以上減らさない事も大きな課題だと考えています。大規模化による一拠点集中ではなく、高岡市内に点在するように小中規模の第二、第三牧場の計画を行う事で環境的な負担を抑えつつ、自身の牧場で育成した人材や新規参入希望者を場長としてのれん分けも視野に配置し、乳牛頭数を維持、増進する事で、地域の生乳需要に応え、20年後のインフラの維持や耕畜連携の拡大を目指していきます。
地域の増え続ける空き家を活用した農業シェアハウスの開設も目指します。シェアハウスに住む方には地域の農作業を常に紹介できるようにして、従事時間も作目も自由に選択し農業に関わってもらいます。地域が気に入れば、そのまま他の空き家をリフォームして定住することも可能で、農村の農業関係人口を増やすきっかけになればと思います。
高岡市は市の中心部に街や居住地があり、その周囲を囲うように農振地が広がります。市民17万人の食を満たすには十分な面積の農地を流通上最適な位置関係で有します。この農地を活用して米や飼料だけでなく、高岡市民の食のニーズに合わせた食料生産を行うことができれば、高岡市に生活する人の食生活はとても豊かになります。また、古い街並みや伝統工芸、国宝などの観光資源を数多く有するため、訪れる観光客に対しても、地元で採れた新鮮な食材が豊富にあれば最高のおもてなしも可能になると思います。さらに富山市、金沢市、高山に能登と東西南北に街や観光地を有する立地を活かした近隣での消費も可能です。
日本の農業を未来へ
全てを今すぐに変える事はできません。
しかし、今出来る取り組みの積み重ねが次世代の農業の礎となります。
適当な取り組みをしていては苦労するのは誰でしょうか。
全国の盟友が取り組む日々のチャレンジに負けじと、
私は、私に出来る精一杯を積み上げて次世代へ胸を張って託せる日本の農業を高岡から作っていきます。
100年先も日本で酪農が続くために、酪農家として、今できる事を精一杯考え実行していきます。
clover farmの取り組みに共感・応援して下さる場合は、ぜひサポートをお願いします。今後の取り組みに有効活用させていただきます。