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最近の記事

『禁忌の子』山口 未桜

話題になるのも頷ける。 デビュー作にしてハイクオリティ。 物語は、身元不明の溺死体が救急医・武田の元に搬送されて来た場面から始まる。 死体は武田と瓜二つの顔を持っていた。 冒頭から一気に引き込まれた。 旧友で医師の城崎と共に調査を進める中で見えて来る真実に声を失う。 巧みなミスリードと緻密に張られた伏線、後半は息を詰める展開で犯人と動機が判明した瞬間は驚愕のち慟哭。 思いもよらぬ真相に切なさが込み上げた。 生殖医療の意義を問いながらミステリーとしても秀逸。 医療×

    • 『処方箋のないクリニック 特別診療』仙川 環

      「ストロング系女史」 「アンチスイーツ」 「悩める港区女子」 「スマホ首ゲーマー」 「理想の最期」 「アメリカから来た親子」 六話収録の連作短編集でシリーズ第二弾。 今回もハーフパンツがトレードマークの青島医師が患者の心に真摯に向き合い前へ進みだす力をくれる。 本作の最も惹かれる部分は病院メインの内容ではなく、人の心に巣食う問題に重点が置かれている所。 それがとても身近で共感を呼び、いかに心と身体が密接に繋がっているかを思い知らされる。 青島先生の様な医師が実在すれば

      • 『スターゲイザー』佐原 ひかり

        「サマーマジック」 「夢のようには踊れない」 「愛は不可逆」 「楽園の魔法使い」 「掌中の星」 「スターゲイザー」 6話収録の連作短編集。 『人間みたいに生きている』を読んで以来、大注目している佐原さんの最新作。 最高に良かった。 メジャーデビューを目指す6人の通称「リトル」達の物語。 それぞれの人物の書き分けが秀逸。 彼等が見せる笑顔も、人知れず苦悩する姿も、全て脳内映像で再現された。 青春×アイドル小説に関心がない人達にも刺さる言葉がたくさん散りばめられている。

        • 『アイアムハウス』由野 寿和

          上流家庭が集まる高級住宅地・十燈荘で起きた一家惨殺事件と16年前に起きた「十燈荘妊婦連続殺人事件」。 二つの事件の真相を「死神」の異名を持つ静岡県警の深瀬が追う。 登場人物の誰も彼もが怪しく最後まで犯人を見極める事が出来なかった。 SNSで見せる顔と現実とのギャップ、現代社会の闇を織り交ぜながら物語は展開していく。 家から出る事なく住人だけが使えるコミュニティサイトのみでの交流に薄ら寒さを感じる。 住民間で渦巻く見栄やプライドなど人間の持つ様々な負の感情に心が冷えてい

          『地獄の底で見たものは』桂 望実

          「五十三歳で専業主婦をクビになる」 「五十一歳でこれまでの働きぶりを全否定される」 「四十六歳で教え子の選手に逃げられる」 「五十二歳で収入がゼロになる」 四話収録の短編集。 タイトルにある『地獄の底』は言い過ぎだが、窮地に陥ったアラフィフ女性達の再生物語を面白く読んだ。 落とし穴に落とされても、一発逆転を狙い、諦めず這い上がる彼女達の逞しさに元気と勇気を貰える。 最も痛快だったのは第一話。 あまりにも図々しい要求をして来た元夫をやり込めるさまは爽快。 分かりやすく悪

          『地獄の底で見たものは』桂 望実

          『あさ酒』原田 ひ香

          『空腹時は読まないでください』の注意書きが欲しい飯テロ本。 食べ物の描写に定評がある原田ひ香さんだけあって、お酒と共に登場する料理の美味しそうなこと。 イラストや写真が添えられているわけではないのに行間から香りが漂って来そう。 『ランチ酒』シリーズの新章となる本作では、水沢恵麻を軸として物語が展開していく。 祥子との出逢いがきっかけで「見守り屋」の仕事に就いた恵麻。 見守りを依頼する人達が抱えている事情はそれぞれだけど、共通する寂しさに共鳴する。 人間関係のほろ苦さ

          『あさ酒』原田 ひ香

          『わたしたちは、海』カツセ マサヒコ

          「徒波」 「海の街の十二歳」 「岬と珊瑚」 「氷塊、溶けて流れる」 「オーシャンズ」 「渦」 「鯨骨」 海辺の街を舞台にした7話収録の短編集。 カツセさんの文章は心地いい。 海辺の街が舞台だからと言うわけではなく、どの物語も波間にゆらゆらと揺られている感覚に陥る。 時に人の弱さや愚かさも描かれているが、それすらも静かに包み込み、流れに身を委ね生を営んでいる彼等に安心感を覚える。 波の音や子ども達の声、珈琲の香りまでが漂い五感を刺激する。 透明感と静けさ、カツセさんの描

          『わたしたちは、海』カツセ マサヒコ

          『だめになった僕』井上 荒野

          井上荒野さんが描く恋愛小説というだけで一筋縄ではいかない事は予想がつく。 案の定、切なさとやるせなさで胸が痛んだ。 音村綾と祥川涼。 互いに想いを寄せながら別の道を歩んで来た二人のラブストーリー。 物語は現在から始まり、一年前、四年前、八年前、十年前、十二年前、十四年前、そして二人が出会った十六年前までへと遡りラストで再び現在へ戻る。 もし、どこかのタイミングで、何か一つでもきっかけがあれば、違った人生を送れただろう。 過ぎ去った時間を巻き戻すことは出来ないけれど、

          『だめになった僕』井上 荒野

          『生殖記』朝井 リョウ

          待ち焦がれた朝井リョウさんの最新作。 2021年に読了し衝撃を受けた『正欲』の更に上をいく衝撃作。 いやこれはぶっとんでいる。 一行目でハテ?となり、語り手の正体が判明した瞬間、目が点、口あんぐり状態に。 ウイットに富んだ朝井流言い回しは健在。 随所にユーモアを織り交ぜながら、本質に近づいて行く感じは、エッセイのようでもあり、哲学書のようでもある。 語り手を通して、自分の内面と向き合い、己の存在意義や生きる意味を考えさせられた。 個人的には『正欲』の方が好みだが朝井

          『生殖記』朝井 リョウ

          『赤羽せんべろ まねき猫』坂井 希久子

          義理と人情あふれる人間ドラマを堪能。 物語の舞台は飲兵衛の聖地『赤羽』。 お酒を飲まない私だが、次々と登場する美味しそうな料理と、ざっくばらんで温かな心根を持つ人達に触れるたびに一緒に飲みたくなった。 主人公は42歳の篠崎明日美。 折り合いが悪く疎遠だった父親が脳出血で倒れた事で、再び人生が交差する。 家庭を省みなかった父へのわだかまりが解けない明日美の気持ちに共感しつつも、父・時次郎の情け深さに胸がジンとする。 つくづく人間の多面性を感じる読書時間だったが、一期一

          『赤羽せんべろ まねき猫』坂井 希久子

          『おひとりさま日和 ささやかな転機』アンソロジー

          「アンジェがくれたもの/大崎梢」 「友だち追加/岸本葉子」 「リフォーム/坂井希久子」 「この扉のむこう/咲沢くれは」 「リセット/新津きよみ」 「セッション/松村比呂美」 2023年に発売された『おひとりさま日和』に続くシリーズ第二弾。 今回も粒ぞろいの作品集で全話楽しめた。 中でも一番共感出来たのは坂井さんの「リフォーム」。 約1770度の温度で結婚指輪を溶かし、新たな形に作り替える決意をした主人公を心から応援した。 破壊の後に待ち受ける再生にこちらまで気分爽快。

          『おひとりさま日和 ささやかな転機』アンソロジー

          『二人一組になってください』木爾 チレン

          教師が無自覚に発する「二人一組になってください」の言葉に嫌悪感を抱いた経験があるのは私だけではないだろう。 イヤミス小説だと思い頁を捲ると、想像以上に残酷なデスゲームが幕を開ける。 10代という年代ならではの傲慢さや承認欲求、嫉妬心など様々な感情が入り乱れる中、一人また一人と命を落としていく。 物語の根底に流れるテーマ『無自覚の悪意』にメスをいれた本作は文中から作者の強いメッセージが痛い程伝わる。 この究極の生き残りゲームを通して、想像する事の大切さを知って欲しいと切

          『二人一組になってください』木爾 チレン

          『ナチュラルボーンチキン』金原 ひとみ

          これぞ金原ひとみ。 毒もあるが愛と救いもあって読後の爽快感は半端ない。 ルーティンを愛する45歳事務職・浜野文乃が、ホスクラ通いの20代パリピ編集者・平木直理と出逢った事で生まれる化学反応から目が離せない。 クセ強めの人物も登場するし、なんなら主人公の文乃が発する辛辣な言葉に眉を顰めたくなる場面もあるが、それを上回る超強力ボキャブラリーの数々に圧倒される。 刹那的に生きて来た文乃、心の奥深い部分に隠していた彼女の苦悩を知ると、その生き方を全肯定したくなった。 ロックだ

          『ナチュラルボーンチキン』金原 ひとみ

          『富士山』平野 啓一郎

          「富士山」 「息吹」 「鏡と自画像」 「手先が器用」 「ストレス・リレー」 平野氏の魅力が詰まった五話収録の短編集。 まず、本に使用されている紙質の手触りに感動する。 これは紙本ならではの味わい。 本作のテーマは『有り得たかもしれない人生』。 作中に何度も登場する『たまたま』のフレーズが重い。 人生がいかにたくさんの偶然で成り立っているのかを思い知らされる。 一話から強烈なインパクト。 男性の末路を思うと何とも言えない気持ちになった。 最終話の「ストレス・リレー」は

          『富士山』平野 啓一郎

          『君に選ばれたい人生だった』メンヘラ大学生

          「あぁ、もう。」 「煙」 「シンデレラボーイ」 「ナイトクロージング」 「ノンフィクション」 5話収録の連作短編集。 『さようなら、かつて大好きだった人』も良かったけれどこちらもいい。 繊細で透明感のある文章がとても好み。 各話が緩くリンクしている構成も好き。 登場人物達の真っ直ぐな気持ちや、誰かを想い葛藤する心の揺れが伝染して来て切なさで胸が締め付けられた。 シンプルな文体で描かれているが刺さる言葉が随所に。 『何かを選ぶということは、同時に他に存在したかもしれな

          『君に選ばれたい人生だった』メンヘラ大学生

          『世界のすべて』畑野 智美

          生きづらさを抱えた人達に寄り添った作品だった。 多様性の時代と言われ、それまで大まかに捉えられていたセクシャリティに名前が付くようになった。 LGBTQ、アロマンティック、アセクシュアル、デミロマンティック、ポリアモリーなど、知識はあっても、本作を読むと自分の無理解に気付かされる。 周囲からの偏見や、性別による無意識の思い込みに日々、心を削られ、葛藤しながら生きる彼らへ切なさが募った。 マイノリティゆえの不安や孤独はどれ程のものだろう。 一人として同じ人間なんていな

          『世界のすべて』畑野 智美