真梨幸子「ふたり狂い」ネタバレあり考察
本作は、現代社会のストレスにやられた人物たちが繋がっていく連作短編集です。友人からお借りした小説です。
創作大賞の応募も終わったので早速一読。
おもしろかったのですが、複雑すぎて私の頭では一回読んだだけでは全体像を把握できませんでした。いや、私の応募作も全然人のこと言えない難解さになってしまっているのですが、本当に構成がややこしいです。
この話、何が複雑かって、ほとんどの登場人物が強い思い込みにかかっていて、誰が言う何が真実なのか判然としない点です。作中は終始、事実と妄想が入り混じっているので、全容を理解するには、これを読み解いていく必要があります。
ということで、本を貸してもらっている間に、読解力と構成力を高めるためのお勉強として、本作の紐解きを試みたく思います。
あらすじ
小説の内容
エロトマニア
■登場人物
麻衣子:孝一の妻として証言台に立つ。
川上孝一:榛名ミサキの小説に自分のことが書かれていると思い込んでいる。26歳。お咲いピン芸人。容姿端麗。
榛名ミサキ:今が旬の作家。孝一に刺されて重傷。32歳。常識的で社会的。化粧が濃い。
田中:榛名ミサキの担当編集者。検察側の証人。オカマっぽい。
渡辺:孝一のアルバイト先「北海道屋」の上司。弁護側の証人。好青年風。
■メモ
2006年 秋
麻衣子視点
川上孝一の公判シーン
孝一は職場の同僚から勧められた榛名ミサキ著「あなたへの愛」を読んで、作中に登場する同姓同名の登場人物を自分のことであると思った
孝一は榛名の他の作品にも登場していて、彼は榛名に愛されていると思っている
孝一は出版に多数回の問い合わせをしていた(田中の証言)
出版社と榛名ミサキは何者かからファクス攻撃を受けた(田中の証言)
田中はこの攻撃を孝一によるものだと思っている
麻衣子の証言では、榛名へのファクスは麻衣子が送ったもの
孝一は最初週3勤務だったが、途中から週5のフルタイム勤務になった(渡辺の証言)
麻衣子の証言にある、ストーカー攻撃で芸人を休業したことが理由
孝一は以前女性からもらったプレゼントの中に盗聴器が仕込まれていたことがあった(渡辺の証言)
麻衣子の証言にある、ストーカー攻撃のひとつ
事件当日、孝一は1時間遅刻して出勤した(渡辺の証言)
孝一は榛名が出演しているテレビ番組を見て、その足で撮影現場に向かい、榛名を刺した(渡辺の証言)
麻衣子は孝一の代理で彼のホームページの管理をしている(麻衣子の証言)
孝一はバラエティ番組の前説などをしていて、彼目的の女性ファンもいた(麻衣子の証言)
熱狂的なファンによるストーカー攻撃があった(麻衣子の証言)
孝一はストーカー攻撃で神経をやられて芸人業を休業していた(麻衣子の証言)
榛名と思われる人物から孝一に熱狂的なファンであるかのようなメールが届いている(麻衣子の証言)
そのメールは麻衣子だけが確認していて、それに記載されていたファクス番号に麻衣子がファクスした(麻衣子の証言)
孝一の言っていることは妄言ではなく、榛名こそが孝一のストーカーだった(麻衣子の証言)
撮影現場は孝一のアルバイト先の近くの公園で、近くに初恋の人が働いているという榛名の発言に孝一は反応し、彼女を刺しに行った(麻衣子の証言)
事件の後、榛名から孝一のホームページに「刺したのは愛の証」というような旨のメールが届いた(麻衣子の証言)
法定が終わり、孝一が去る際に麻衣子を見て、「っていうか、あんた誰?」と言う
■雑感
この時点では、川上孝一と榛名ミサキのどちらがストーカーなのかわからない
麻衣子は孝一のストーカーであるかのように描かれる
だが、彼女は妻として証言台に立っているので、「妻だと思いこんでいる」わけではなさそう
最後のシーンで、麻衣子は勝手に婚約届を出したことを孝一に語っている
クレーマー
■登場人物
渡辺拓也:「北海道屋」Gデパート店の店長。事なかれ主義。
上野由香里:「北海道屋」Gデパート店売り場の派遣で来ている女性。
■メモ
2006年 秋
渡辺視点
幽霊マンション落札の噂
超常現象付きの物件としてオークションサイトに出ている
夜な夜な真っ赤なジャンパーの女の霊が現れると重要事項に書かれている
駅近で4LDK90平米で築6年のデザイナーズマンションなのに900万で売られている
付近の相場は4,000万円ほど
渡辺は右人差し指を負傷して絆創膏を巻いている
「北海道屋」の名物はメンチカツ
隣の店(さがみ本舗)で売られていたコロッケに人間の指が混入していた事件が起こる
この事件は「指入りコロッケ事件」として報道される
報道の際、「指入りコロッケ」のテロップの裏に「北海道屋」と渡辺が映ってしまう
事件を受けて、「北海道屋」はGデパートから撤退することになる
上野がテレビの取材に応じる場面があり、このときもバックに「北海道屋」が映り込む
「指入りコロッケ事件」は悪質なクレーマーによる自作自演として報道される
渡辺がミーティングで店を離れている間に、メンチカツを20個ほど買っていった老紳士がいた
渡辺は自分の指に巻かれているはずの絆創膏が消えていることに気付き、メンチカツに混入した可能性を考え、動揺する
老紳士が購入したメンチカツについて話があると言って店を訪れる
渡辺は老紳士をバンに乗せ、外に連れ出す
老紳士はメンチカツに何かが混入していたと言う
ニュースで指混入事件は、さがみ本舗の製造過程で従業員の指が切断され混入したことが判明したと報じられる
メンチカツを購入した老紳士はデパートでは有名なクレーマーであることが食堂で話題になる
渡辺がバンの中で老紳士を絞殺する
上野のエプロンのフリルのヒダから、渡辺が失くした絆創膏が見つかる
■雑感
幽霊マンションや指入りコロッケ事件は後の話にも出てくる要素
渡辺は思い込みで老紳士を殺害するが、この小説では思い込みから極端な行動に出る人物が多く、彼もそのひとりである
カリギュラ
■登場人物
田中玄太郎:2003年に留美子の職場(学術書の出版社)から編集プロダクションに転職。名のある出版社の文芸部に派遣される。
留美子:田中の先輩。潔癖症。男の趣味が悪い。被害妄想が強い。
■メモ
2008年 秋
田中視点
田中と留美子の長電話
留美子が手帳を落とし、その中には田中の住所や連絡先も記されている
田中と留美子は前の職場の同僚である
留美子の家の給湯器が故障する
留美子は榛名ミサキの「あなたの愛へ」の大ファンだと語る
田中は10人の作家に短編を書いてもらうホラー特集に取り組んでいて、そのお題の候補としてキーワードになる単語を50個集めている
ホラーの話題になり、渡辺の事件について少し話題になる
渡辺は死体をバラバラにしてスーツケースに詰め込み、アパートの天袋に隠して、引っ越した
事件の半年後次の住人が死体を発見した
スーツケースは都市伝説的なものだが、死体が見つかったのは事実
田中が住んでいるのは例の幽霊マンションで、購入時(昨年)は2,000万円だった
事故物件は1回誰かが購入して転売した場合は事件を告知する必要がないので値上がった
「あなたと留美子さんはどんな関係なんですか?」という謎の電話がかかってくる
インターホンを鳴り、見知らぬ男がモニターに映る
田中がオカマっぽいのは、留美子がキモかわいい女子キャラを演じるように入れ知恵したからである
田中はうたた寝し、買い物に行きそびれる
起きると、停電している
給湯器が故障する
田中の部屋には不自然なシミや風呂場に血しぶきみたいな汚れがある
田中が自身のPCの中から留美子の恋人の写真を見つけるが、その男は先程モニターに映った男だった
留美子の恋人は一目してヅラである
留美子は男を見る目がない
田中は再び訪れた留美子の恋人に刺されて亡くなる
留美子からの電話
給湯器の故障は恋人の仕業であったことが判明する
留美子の手帳は恋人が盗んだことも判明する
留美子の恋人はその手帳から田中の情報を得た
留美子の転職先が決まり、フレンジーの担当になったことが語られる
フレンジーは「あなたの愛へ」を掲載しているファッション誌である
田中の死後、周囲の人間から、彼の部屋が507号室であったことが語られる
507号室では以前にも殺人事件が起こっていた
■雑感
507号室の事件と、留美子の存在は後の話にも出てくる
留美子の最初の長電話で「あなたの愛へ」の話になった際、以前榛名ミサキの担当をしていた田中に直接的な言及がないのは違和感がある
単純に考えれば、ここに隠された意味があるのか、単なる記載ミスか、私の解釈違いかのどれかだが、おそらく隠された意味はないと思われる
ゴールデンアップル
■登場人物
益田奈々子:派遣会社「パワーヒューマン」の社員。36歳。既婚者。
山口聡美:「北海道屋」埼玉工場に派遣されているスタッフ。評価は並。フレンジー読者。
鈴木:奈々子の同僚。
戸田麻衣子:「北海道屋」埼玉工場に派遣されているスタッフ。評価は高い。
■メモ
2008年 秋
奈々子視点
冒頭、派遣社員がマイコから髪型について触れられ、強いストレスを感じるシーンがある
派遣会社に務める奈々子のもとに、「北海道屋」の埼玉工場の管理部に派遣されている山口聡美からやめさせてほしいという旨の連絡が入る
派遣会社の中の聡美の評価は、可もなく不可もなく、トラブル経験なし、エキストラタイプ
聡美は職場で人間関係のトラブルがあり、即刻辞めたいと言う
「北海道屋」の埼玉工場の管理部と購買部はトラブルが多い
奈々子の同僚である鈴木が、同工場に派遣されている戸田というスタッフに状況を尋ねる
戸田は、奈々子の派遣会社から出しているスタッフがボスになり、問題が起こっていると鈴木に話す
奈々子は以前、「北海道屋」が「指入りメンチカツ事件」を起こしたと思っているが、鈴木はそれを知らないと言い、ネットでも情報が見当たらない
奈々子は「北海道屋」が事件を隠蔽していると考える
事件当時の報道で、「北海道屋」が映り込んでいたことから、奈々子は誤った情報を記憶していたと考えられる
奈々子は美容院でフレンジーを手に取る
フレンジーに掲載されている「あなたの愛へ」に、「光こそが、愛。光の正解こそが、あなたへの愛」というセリフがある
早乙女というセンスが悪そうなアートディレクター(美容師)が奈々子の担当になる
フレンジーのカリスマモデル、ウニちゃんのトレードマークである「ウニちゃんヘア」が女性の間ではやっている
このとき奈々子が手にしていたフレンジーには、お姫様のような巻き髪のウニちゃんが載っている
早乙女に不信感を抱いた奈々子は、イメチェンを諦めて、毛先だけ切ってもらう
奈々子は待ち時間の間に渡された女性週刊誌を見て、表紙の「Tマンション殺人事件」というコピーが気にかかる
奈々子の回想から、幽霊マンションはTマンションであり、犯人(留美子の恋人)は小さな会社の派遣社員であったこと、今月に入りその犯人が自殺したことが明かされる
奈々子の夫は番組制作会社で働いていて、バラエティや報道番組を手掛けている
Tマンションでは、2003年3月に別の殺人事件が起こっていたことが雑誌に載っている
その事件では、男性2名、女性1名が殺害され、赤いジャンパーを着ていた第一発見者が自殺した
帰宅後、奈々子はイライラをブロクにぶつけるが、夫は不満を口にしながらブロクの書き込みをする奈々子を恐れる
奈々子は掲示板に「北海道屋の指入りメンチカツ事件」はあったと自作自演の書き込みをし、次第に賛同者が現れる
奈々子は聡美に会うために「北海道屋」を訪問することになる
鈴木から、「北海道屋」に行くのなら、情報通である戸田に会ってみるよう勧められる
このとき、戸田の下の名前が麻衣子であること、結婚後の姓が川上であることが判明する
派遣会社における戸田麻衣子の評価はAマイナス
工場へ移動中のバスの中で、奈々子は「北海道屋」の社員と同席する
奈々子は社員たちの会話から、「指入りコロッケ事件」で炎上が起こっていることを知り、実際に起った事件は「さがみ本舗の指入りコロッケ事件」であったことに気付く
奈々子が会った聡美は、髪型が激変していた
以前はウニちゃん風の内巻きセミロングだったが、モヒカンに変わっている
聡美から詳しい話を聞く前に戸田が訪れ、聡美は去ってしまう
聡美は戸田麻衣子を「マイコさん」と呼ぶ
奈々子は麻衣子から、「指入りメンチカツ事件」の火元探しが始まっていて、情報の発信元が奈々子たちの派遣会社であると知られていることを聞く
麻衣子は妊娠している
■雑感
詳細は後述するが、聡美がフレンジー読者であり、麻衣子を「マイコ」と呼ぶことが多分重要
麻衣子の名字は、派遣会社登録時点では「戸田」、本作時点では「川上」である
本編には大きく絡まないが、留美子の恋人が自殺したのも印象深い…というか、後味悪い
ホットリーディング
■登場人物
益田稔:テレビ局の下請け番組制作会社のプロヂューサー。奈々子の夫。
天照ヒミコ:超能力者として稔の番組に出ているが、実は裏に優秀なブレーンがいる。
新城:ディレクター。弥生の浮気相手。
前田晴彦:弥生の夫。
前田弥生:晴彦の妻。植物状態。相当な美人。
■メモ
2008年 冬
稔視点
物語開始時点で、奈々子は逮捕され留置所に入れられている
奈々子と面会した稔は、フレンジーの最新号を持ってくるよう頼まれる
稔はTマンションの住人に2003年3月の事件を取材する
これは山岡純一である
田中の前の507号室の住人も出版社関係の人間であり、ベートーベンのような髪型をしている
Tマンションの事件から、眠り続ける妻の声を聴くという番組内容に変更する旨の連絡が入る
稔はデイレクターの新城から変更後の番組の内容を聞く
稔と新城は今回の番組に出る前田晴彦を訊ね、弥生が植物状態になった経緯を聞く
稔は晴彦から弥生との出会いと2002年に2人が再会したことを聞く
弥生の病院で、看護婦から弥生がフレンジー読者であったこと、晴彦が眠り続ける弥生に読み聞かせていることを聞く
前田夫婦の近所に住む主婦から、晴彦は亭主関白であったこと、浮気をしていたことが語られる
番組の再現ドラマの映像が完成し、新城から天照ヒミコにビデオと資料を送られた
本番当日、ヒミコの霊視で晴彦は弥生の尊厳死の見送りを決める
今回の番組は晴彦から番組に依頼したのではなく、新城から取材依頼があったことが明かされる
ディレクターから、ヒミコのブレーンは主婦の集団だという噂を聞く(冗談半分)
後日、稔は以前話を聞いた主婦を訊ね、浮気をしていたのは晴彦ではなく弥生であることを聞く
稔はヒミコの助手が返してくれた再現テープと資料を受け取る
助手は普通の中年女性であり、ヒミコ自身も数年前までは普通の主婦だったという噂がある
再現テープを確認した稔は、それが放送されたものではなく、全然別の内容の没テープであったことを知る
弥生の浮気相手が新城であったことが仄めかされる
■雑感
晴彦がヒミコの霊視を信じたのは、ヒミコが事件現場にいなければ知ることができない弥生のエプロンの柄を言い当てたからであり、ヒミコがエプロンの柄を知ったのは、新城が送った再現テープからである
晴彦が弥生の尊厳死を取りやめたのも、ヒミコがそうする方向に持っていったからであり、ヒミコがそうしたのは新城が送った「晴彦から弥生に送った手紙」に感動したからである…が、稔はこの手紙の存在を知らなかった
デジャヴュ
■登場人物
絵美:「ジャパン光」営業所の所長代理。
派遣嬢:フレンジーのモデルと似た化粧をしている。25歳未満。
前田晴彦:本社の営業部長。1年前にベンチャー企業から引き抜かれた。社長よりも発言力がある。
内山:営業所の若い男性社員。ベートーベンの奥さんと浮気している。
ベートーベン:Tマンション507号室に住むクレーマー。
奥さん:ベートーベンの妻。内山と浮気している。
■メモ
2003年 春
絵美視点
赤いジャンパーは光回線サービス会社「ジャパン光」の制服
前田晴彦が「ジャパン光」のやり手の営業部長であることが明かされる
絵美はフレンジー読者であり、「あなたの愛へ」のファンである
絵美は2年前に離婚している
絵美は喫煙者
内山が契約を取ってきた、ベートーベンのような銀髪の客からクレームを受ける
赤いジャンパーは晴彦の案で、本人は気に入って自宅でもこのジャンパーを着ているらしい
絵美は契約を取ることに積極的ではなかったが、内山がベートーベンの妻と話し、契約を取り付けてきた
夜、ベートーベンから本社にまでクレーマーがあり、部長がマンションを訊ねることになり、絵美も同行するようメールが来たが、それを読んだときには既に間に合わないような時間だったため、絵美は急いでマンションに向かう
絵美は自転車でマンションまで移動し、ベートーベンが住む507号室を目指す
607号室の奥さんにばったり会う、絵美は先日彼女からチーズケーキを振る舞ってもらっている
これは美津子のことである
507号室に入った絵美は異臭を感じ、死体を発見する
絵美はインターホンの警報ボタンから警備会社に通報する
絵美は鏡を見て、自分が怪我をしていて、見知らぬ寝間着を着て、出血していることに気付く
リビングのテレビから、このとき日曜日の朝であることが判明する
絵美は前日事故に遭って入院し、朝に行方をくらませていたことが病院の看護婦から語られる
絵美は交通事故の影響で、一過性健忘症になっていたことがわかる
記憶喪失になった絵美は、リピート行動を取っていた…つまり、絵美は507号室を2日連続で訪問している
絵美の病室に派遣嬢が訪れ、ユリを花瓶に生けて、最近のフレンジーはつまらないと語る
1回目の507号室訪問時、絵美はベートーベン、奥さん、内山の三角関係を目にする
ベートーベンは奥さんの浮気に気づいていたから、「ジャパン光」にクレームを入れていた
奥さんはベートーベンと内山の争いを止めようとナイフを突き出すが、ふたりの間に入った絵美が刺される
2回目の507号室訪問時に絵美が見つけた死体は奥さん
ベートーベンと内山の依頼も発見される
警察は絵美を犯人だと疑っている
だが、絵美は赤いジャンパーを見て、事件当日に"あの人"を見たのだと心の内で言うが、言葉にできない
ベートーベンは出版関係?
■雑感
受付嬢の正体が不明。聡美?
事件当時の前田晴彦の所在や行動が不明。
絵美が見た"あの人"の正体が謎。前田?
ゴールデンアップルで「赤いジャンパーを着ていた第一発見者が自殺した」ことが記されているので、絵美はこのあとに自殺したと見られる
ギャングストーキング
■登場人物
益田奈々子:稔の妻。留置所にいる。
A:牢名主。「あなたの愛へ」のファン。
B:Aに気を付けるよう奈々子に忠告する。
C:Aにいじめ抜かれて自殺した。
榛名ミサキ:Aと入れ替わりで留置所に入る。
益田稔:奈々子の夫。美津子が起こした507号室事件の再現ドラマを作る。
小暮:構成作家。
ひとりでヤルモン:ピン芸人。川上孝一のもうひとつの顔。
木村:美津子が住むマンションの班長。
山岡美津子:口下手で引っ込み思案。同じマンションの主婦グループの付き合いに強いストレスと感じている。
山岡純一:美津子の夫。商社に勤めている。元々はよく喋る性格。
山岡友理:美津子の娘。故人。
山岡翔:美津子の息子。故人。
■メモ
2008年 秋 および 2003年 春
2008年
奈々子視点
Aが奈々子にフレンジーの最新号を取り寄せるよう脅迫する
稔は奈々子に頼まれてフレンジーを買ってくるが最新号ではなかった
それをAに渡す前に、Aは拘置所に移される
Aに代わり、30代半ばの髪が長い女性が入ってくる
女性は榛名ミサキと名乗る
榛名は奈々子を「マイコ」と呼ぶ
榛名にとって、マイコは自分と川上孝一(コウたん)の間を邪魔する存在である
コウたんはエロトマニアで麻衣子が証言台に立ったときに提示したメールに記載されていた呼び名
マイコのせいで、コウたんは濡れ切れを着せられて刑務所に送られたと榛名は言う
榛名はコウたんを救うために留置所に入ったらしい
2003年
稔視点
稔と小暮との会話で、欠陥マンションとして業者に訴えたい住人と資産価値が下がるため反対している住人の間でマンション構想が起こっているという情報が語られる
ヤルモンが自分のファンであり派遣社員のマイコと結婚すると話す
ヤルモンはあっちこっちに女がいる
ヤルモンは以前グルーピーの女性に手を出し、業界を干されていた
この女性が榛名かは不明
2003年
美津子視点
最近マンションの前によく黒いワゴン車が停まっているという話が出る
507号室の住人は出版関係者で、黒いワゴンもその関係かと他の住人から疑われている
美津子はマンションに来た赤いジャンパーを着たセールスの女性に会っている
これは絵美のことである
最初に欠陥マンションのクレームを言い出したのは507号室の住人である
上の階の音が信じられないほどうるさいというクレームであり、607号室は美津子の部屋である
2008年
奈々子視点
榛名は集団ストーカーに遭っていると言う
榛名はすれ違い様に特定のキーワードを囁くバイトがあると言う
榛名は奈々子は本物のマイコにハメられてここにいるのだと言う
榛名の好物はメンチカツ
榛名は稔が奈々子の敵だと言う
あなたには本当に旦那がいるのかと聞かれ、奈々子は稔の存在を疑い始める
2003年
美津子視点
「じじじじじ」という耳鳴りのような音がたまに聴こえる
美津子は木村に空気が読めないから疲れると思われていると翔が言う
マンションに盗聴器がしかけられているという噂
美津子はエレベーターで赤いジャンパーの男と一緒になる
美津子は赤いジャンパーの女を家に上げてから「じじじじじ」という音が聴こえ出したことに思い至る
マンションの管理人もフレンジーの読者である
エレベーターで一緒になった608号室の奥さんがメンチカツと囁く
メンチカツを作ろうと買い物をしてきた美津子は、それを言い当てられたことで、自分の部屋に盗聴器がしかけれていると強く思う
美津子はベランダから先程エレベーターで一緒になった赤いジャンパーの男、ベートーベンと彼の妻の3人の姿を見る
美津子は非難ハッチから507号室に入り込み、赤いジャンパーの人間が横たわっているのを見つける
奥さんが507号室に戻ってきて、男性2名が自首を勧めてきたため、殺害したことを明かす
美津子は自分を刺そうとしてきた奥さんを先に刺して殺害する
2003年
純一視点
管理人との会話の中で、盗聴器をしかけたのは純一であったことが判明する
子供ふたりが6年前に他界していたことも判明する
2008年
稔視点
美津子は純一に付き添われて出頭したことが語られる
純一は最初美津子の犯行の証拠を隠滅しようとしていた
2003年時点のマンション抗争は取材の準備をしていたがその前に不採用になった
2003年時点で元々稔がレジュメを書くきっかけになったタレコミの手紙は、除き趣味がある608号室の住人からのものであり、そこには各住人の家庭環境なども事細かに書かれていた
ヒミコの助手?
美津子の事件と田中の事件は偶然同じ部屋起こっただけで繋がりはないとされている
奈々子は不起訴になりそうだが、稔の顔を見て「あなた、誰ですか?」と言う
奈々子が掲示板で自作自演したきっかけを作ったのは稔だったことが判明する
■雑感
2003年と2008年を行き来するし、再現ドラマとかも入るので、なかなかにわかりにくいが、基本的にはデジャヴュの謎部分が明かされる話
榛名ミサキの精神状態が正常ではないことがわかる
奈々子が洗脳されたように、榛名ミサキには何かそういう力がある
フォリ・ア・ドゥ
■登場人物
川上麻衣子:孝一の妻。
榛名ミサキ:34歳。2003年から「あなたの愛へ」を連載開始。
小暮:放送作家。7年前から川上孝一と仕事をしていた。
上野由香里:孝一の元同僚。
鈴木美穂:「パワーヒューマン」のコーディネーター。
早乙女桃子:アートディレクター。
大林留美子:榛名ミサキの担当編集者。「あなたの愛へ」の熱狂的過ぎるファン。
■メモ
2009年 冬
榛名のもとに誰からかのファクスが届く
川上孝一はその翌日に榛名に刺されて、生死を彷徨う
麻衣子は孝一を「こうちゃん」と呼ぶ
榛名ミサキの公判シーン
「あなたの愛へ」は実際に実際の恋人である川上孝一と榛名ミサキを描いていると裁判で語られる
それはまったくの嘘で孝一は榛名なんて知らない、ただの妄想だと麻衣子は思う
2006年、喧嘩の末、孝一は恋人の榛名を刺したと裁判で語られる
榛名は恋人ではなく、孝一は榛名にストーキングされていたせいで精神衰弱に陥っていたせいだと麻衣子は思う
孝一は執行猶予がつき、榛名は一命を取り留めたが、孝一の熱狂的なファンであるマイコのせいでふたりの仲は邪魔されていると裁判で語られる
自分は孝一の妻なのだから、おかしなファンから彼を守るのは当然だと麻衣子は思う
マイコが「私は妊娠した。もうこれ以上付きまとうな」と榛名にファクスを送ったことがきっかけで、榛名は孝一を訊ね、あの世で彼と結ばれるために彼を刺す
このファクスは実際に麻衣子が送っている
傍聴席にいるフレンジーを持った女性ファンたちは感動に涙する
榛名を刺した事件で孝一は業界から干されていた(小暮の証言)
孝一の最初の結婚は望んだものであったが、再婚は不本意なものだった(小暮の証言)
孝一は心療内科に通っていた。彼を支えてくれた人がいるらしいが、小暮もそれが誰だかはわからないと言う
麻衣子が孝一と離婚したのは、榛名との浮気が疑ったことが原因だったが、彼を支えるために裁判中に復縁した
2年前の事件は孝一の心神喪失で決着した
かつて、投稿サイトに孝一と榛名が一緒に写っている写真が投稿されたことがある
麻衣子はその写真を見て激怒したが、今の麻衣子はそれを榛名が自作自演した合成写真だと思っている
小暮はその写真を見て、孝一と榛名を恋人同士だと思った
「あなたの愛へ」を孝一に勧めたのはデパートの社員(上野の証言)
「あなたの愛へ」に登場する孝一は、Gデパートでメンチカツを上げているという、そのまんまの設定(上野の証言)
2年前の事件の少し前、榛名ミサキが売り場に来て、孝一と会った(上野の証言)
そのとき孝一が何と言ったか上野は思い出せないが、「ミサキ」と呼び捨てにしたと証言するよう、弁護士に強要され、上野はそのとおりだと答える
マイコに邪魔される孝一と榛名が思い出のメンチカツ屋で運命の再開を果たすのは、「あなたの愛へ」と同じで、傍聴人は感動する
山口聡美をいじめていたのは、戸田麻衣子だった(鈴木の証言)
麻衣子はいじめのボスは聡美だったと心の中で言う
傍聴人はマイコが小説通りの性悪女だったと話し始める
早乙女はヤルモンの掲示板を管理していたマイコに嫌なニックネームを付けられて貶められたと言う(早乙女の証言)
麻衣子が体調不良で法定を出ると、白いブラウスの女に「あなた、マイコさんですよね?」と話しかけられる
白いブラウスの女こと留美子が麻衣子を刺し、物語は幕を下ろす。
■雑感
証人、弁護士、裁判官、傍聴人と誰もが「あなたの愛へ」の設定を現実であるかのように思っている
時系列の整理
まずは時系列順に事件を整理していきます。
1997年
山岡美津子と山岡純一の子供、友理と翔が交通事故で他界する。
2003年
榛名ミサキ、「あなたの愛へ」連載開始。
Tマンションで、欠陥をめぐる住人トラブルが勃発。
純一が盗聴器を仕掛けて、美津子の言動を探る。
美津子はふたりの子供が生きていると錯覚していて、子供たちの騒音が下の507号室の怒りを買い、住人トラブルの原因となったクレームに繋がったと思っている。
美津子はセールス訪問に来た絵美にチーズケーキを出した日から、頭の中で「じじじじじ」という音が鳴り響くようになる。
3月15日。絵美が交通事故を起こし、入院する。
同日。Tマンションの507号室にて、絵美が奥さんに刺される。その後、駐車場でベートーベンと内山も奥さんに殺害される。奥さんはその後、507号室で美津子に刺されて死亡する。
前田部長が現場に現れなかった理由が不明。
絵美はその後、乗ってきた車で営業所に戻る途中で事故に遭う。
3月16日。絵美は病院を抜け出して、リピート行動で再び507号室を訪れる。そこで、奥さんの死体を発見、警備会社に通報する。
絵美が刑事から取り調べを受ける。彼女は少しずつ記憶を思い出していく。
派遣嬢が絵美のお見舞いに来る。外見的特徴から、ウニちゃん風ファッションの聡美かも?
美津子は純一に付き添われて出頭する。
608号室の住人が蓑田稔の会社に手紙と資料を送る。
孝一とマイコが結婚する(時期不明)。
2006年
Gデパートの社員が川上孝一に「あなたの愛へ」を勧め、孝一はその小説に自分のことが書かれていると思うようになる。
投稿サイトに孝一と榛名ミサキが一緒に写っている写真が投稿され、孝一は芸人の仕事を控えて、北海道屋のバイトを増やす。また、写真を見た麻衣子は孝一の浮気を疑い、離婚届を出す(時期不明)。
早乙女桃子が孝一のファンサイトに書き込みをする。サイトを管理している麻衣子が返事をする。
榛名ミサキが孝一のファンメールを送る。メールを管理している麻衣子が、榛名にファクス攻撃をする。
榛名ミサキが北海道屋を訪れ、孝一と会ったという、上野の証言がある。
榛名ミサキが孝一のアルバイト先近くの公園でテレビ撮影。それを見た孝一はその足で現場に向かい、榛名を刺す。全治2ヶ月の重傷。
孝一の裁判。田中、渡辺、麻衣子が裁判台に立つ。
裁判は孝一の心神喪失で決着し、彼には執行猶予がつく。
Tマンションの507号室が900万円でオークションサイトに出される。
Gデパート地下食品売り場で、「指入りコロッケ事件」が起こる。
さがみ本舗のコロッケに人間の指が混入していたという事件だが、報道の際は北海道屋がバックに写ってしまう。初日は渡辺が映り、後日取材を受けた上野がモザイク付きで映る。
Gデパートのミーティング開催。
渡辺が人差し指に巻いた絆創膏を失くし、メンチカツに混入したかもしれないと不安に怯える。
ミーティング中にメンチカツを20個購入した老紳士から、何かが混入していたという話がされる。渡辺は老紳士を連れ出し、絞殺する。死体は渡辺のアパートに隠される。なお、この老紳士はデパートでは有名なクレーマーだった。
絞殺事件の半年後、渡辺のアパートから死体が見つかる。
2008年
Tマンションの507号室に住む田中が、留美子の彼氏に刺殺される。留美子の彼氏はその後、自殺する。
留美子が転職し、フレンジーで榛名ミサキの担当編集者になる。
ここの流れは都合が良すぎるので、何か意図的なものがあるのかもしれない。
北海道屋の埼玉工場で人間関係のトラブルが起こり、パワーヒューマンから派遣されている山口聡美が辞めたいと言い出す。
パワーヒューマン社員の益田奈々子が、その話を聞いて、過去に起こった北海道屋の指入りメンチカツ事件を思い出すが、これは上野が取材された際に北海道屋ののぼりが映っていたことにより、奈々子の中でさがみ本舗のコロッケと北海道屋のメンチカツが混ざってしまった結果の誤解。
奈々子が美容院に行き、早乙女と出会う。
奈々子が掲示板に北海道屋の指入りメンチカツ事件の情報を書き込む。
北海道屋の埼玉工場にて奈々子が聡美と麻衣子と面談する。麻衣子が妊娠していることが発覚する。
聡美と麻衣子、どちらがいじめのボスなのかは不明。
奈々子が名誉毀損で北海道屋から訴えられる。
麻衣子が榛名ミサキに妊娠した旨を記したファクスを送る。それを読んだ榛名ミサキは、あの世で孝一と結ばれるために、彼を刺す。孝一は意識不明の重体となる。
留置所で奈々子と榛名ミサキが出会う。
菜々子は榛名ミサキに洗脳される。稔が誰かわからなくなる。
稔は新城たちと共に、天照ヒミコのテレビ番組を作る。最初はTマンションで2003年に起こった事件が題材であり、山岡純一に取材をしたが、その後番組内容が変更となる。
稔は前田晴彦を取材し、妻である弥生との馴れ初めなどを聞く。新城と弥生が不倫していたことが発覚する。
2009年
榛名ミサキの裁判。麻衣子を除くほぼすべての人物が、「あなたの愛へ」と現実の区別がつかなくなっている。
大林留美子「あなたの愛へ」をハッピーエンドにするために、麻衣子を刺殺する。
まとめ
物語の構成上、「全員が本当のことを言っている」というのはありえません。少なくても、麻衣子と榛名ミサキの主張は食い違っています。
本作のタイトル「ふたり狂い」は、最終話「フォリ・ア・ドゥ」の和訳のひとつでもあります。ひとりの妄想が他者に伝播し、複数人で同じ妄想を共有する妄想性障害です。
作中では、麻衣子が誰かに影響を与えるようなシーンはほとんど見受けられません。一方で、榛名ミサキは奈々子を洗脳し、「あなたの愛へ」の読者も皆、彼女の妄想の影響を受けています。
ここから導き出される結論は、榛名ミサキの妄想に感染した登場人物が様々な事件を起こしたということ。麻衣子も多分まともではないのですが、それでも榛名ミサキの洗脳を受けてはいないと考えています。
あらためて、この視点で事件を振り返ってみます。
川上孝一と戸田麻衣子が結婚したのは本当のこと。
川上孝一と戸田麻衣子が離婚し、再婚したのも本当のこと。
派遣会社にある情報と、妻として証言台に立ったことなどから推測。
川上孝一が2006年の裁判時に麻衣子を思い出せなかったのは心神喪失状態にあったため。
戸田麻衣子の妊娠も本当のこと。
榛名ミサキは川上孝一(ひとりでヤルモン)の熱狂的ファンである。
榛名ミサキは川上孝一をストーキングし、自身の作品に孝一を登場させた。「あなたの愛へ」では、自身と孝一を本名で登場させて、ふたりの恋愛を描いている。
「あなたの愛へ」の読者は、この小説内設定と現実の区別がつかなくなっていて、ふたりの邪魔をするマイコを絶対的な悪者だと思っている。
被害妄想が強い留美子は、この妄想に取りつかれ、麻衣子を刺してしまう。
507号室の奥さんが絵美を刺したのは、ただの事故。
507号室の奥さんがベートーベンと内山を殺したのは、自首を勧められたから。
美津子が奥さんを殺したのは自己防衛ではあるが、元々507号室に忍び込んだのは、彼らに自分がハメられていると思い込みによるもの。
渡辺がクレーマーを殺したのは思い込みによるもの(彼も「あなたの愛へ」の読者)。
田中が殺されるのも、やはり留美子の恋人の思い込みによるもの(明言はされていないが、留美子から「あなたの愛へ」を読むことを勧められていた可能性はある)。
奈々子が北海道屋の風評被害を起こしたのも思い込みによるもの(彼女も「あなたの愛へ」を読んでいる)。
「あなたの愛へ」の読者は、作品世界と現実を混同し、且つ思い込みが強くなってしまう。
ということで大筋の説明はつくかと思います。
しかし、下記に関しては、まだ謎のままです。
2003年頃、川上孝一が手を出して芸能界を干されるきっかけになったグルーピーの女の正体。
2003年の507号室の時間の前に、608号室の住人が美津子に「メンチカツ」と呟いた理由。
2003年の507号室の事件のとき、前田晴彦がどこにいて、何をしていたのか。
留美子の恋人が彼女の手帳を拾ったのは偶然だったのか。
北海道屋の埼玉工場でトラブルを起こしていたのは、聡美なのか麻衣子なのか。
聡美だったと予想。
前田弥生は本当に脚立から転倒して植物状態になったのか。新城は無関係なのか。
天照ヒミコと彼女のブレーンの正体。
絵美が事件当日に見た"あの人"の正体。
美津子だったと予想。絵美は607号室の住人(美津子)と面識があり、507号室で自身が瀕死のときに彼女を目撃した可能性があるため。
山岡美津子と榛名ミサキの接点。
この辺は2回読んだだけではわかりませんでしたが、そもそも作中に明確な解があるのかも微妙なところです。
私の見解は以上です。
大変、読み応えのある作品でした!貸してくれた友人に感謝!!
初めて真梨幸子さんの小説を読みましたが、他の作品も読んでみたいなと思いました。
もし本作既読の方は、どのような感想を持たれたか、ご教示いただけましたら、とても嬉しいです。
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