アルコール依存症専門病棟④/身体が壊れる人。人生が壊れる人。

 アルコール依存症専門病棟にきて、これまで関わってきた精神疾患患者と異なる部分、アルコール依存症が特別であると感じたことがある。それは、身体を壊している人と、人生が壊れてしまった人がいることである。
 一般病棟の患者では身体が壊れる。脳梗塞で片麻痺、糖尿病で食事制限、人口骨頭で姿勢制限、など、疾患のせいでその先の人生が変わってしまうことがある。だけど、アルコール依存症患者の大半は別である。まず人生が壊れてから身体が壊れる。個別性、一人一人のストーリーはカルテを見るとどれも紆余曲折あるけれど、分類してみると大体アルコール過剰摂取、仕事を失う、家族を失う、身体が壊れるといった順で入院となる。
 一般科の、身体を壊してからのその後に人生に立ち向かう状況は、看護師も介入しやすい。前を向くしかないからだ。前を向くように、意欲をどうすれば引き出すことができるか、困難かもしれないが分かり易い面もある。しかし、先に人生から壊しているアルコール依存症患者の介入は難しい。失ってしまった家族や仕事は戻らない。前を向いて欲しいと思うが、大切なものは過去にあるからだ。それを飲み込んで治療に向かっていくことをサポートする難しさがアルコール依存症の看護にはある。だから精神科なのだろう。以下、様々ある人生、だけど分類するとアルコール依存症のその後は大体このパターン、を羅列する。読んだ方が失う前に気づくことができるように。

・夫が依存症。この場合妻と子供がいて、生活に困窮する。奥さんが離婚を切り出すケースもあるが、夫の退院を望み、再び一家の大黒柱の役割を求める状況も多い。このケースでは看護師は家族を支えることを治療意欲を引き出す理由づけにするためやりやすい。

・妻が依存症。この場合困るのは子供。妻は子供と暮らしたいと思うからそれを主張するが、反面子育てがストレスで飲酒に走り育児放棄や虐待しているといった矛盾しているように見えるエピソードがあるため、それらを俯瞰して妻に理解してもらい、感情的にならず現実を見てもらうように関わる必要がある。夫は妻を見捨てないことが多い。看護師は夫のサポート能力を引き出し、当てにする。

・独身20〜30代の男女の依存症。この場合、心配したりサポート役となるのは親。すごく心配し、必要なことは請け負ってくれるため、看護師側から見てもサポート役には困らない。ただ、何も社会的な責任を背負っておらず、若さゆえに身体しっかり回復するため、断酒の理由づけを真剣に諭すことが難しい。

・高齢者で依存症。この場合、娘息子がキーパーソンでサポート役を担ってもらうようにするが、本人への回復の動機づけは”孫”の方が有効である場合が多い。孤独老人の場合、もう助からないと思う。動機づけできないし、看護師の言葉は届かない。


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