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LARPにおける没入と覚醒のスイッチとは何か

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今回は、LARPにおいて大事な、没入と覚醒について視点を当てる上で欠かす事の出来ない「スイッチのためのツールやテクニック」について、お話します。

はじめに

LARP(ライブアクションロールプレイング)は、参加者が自らキャラクターを演じ、状況に対応する中で物語を体験する体験型の遊びであり文化です。LARPでは、プレイヤーが深く没入することで、キャラクターの感情や経験をリアルに感じることができます。しかしながら、没入にはリスクが伴う場合があります。深く没入することで、そこでの経験がプレイヤーの心理的・感情的な状態に様々な影響を与える可能性があるためです。そこで、LARPなどの体験型コンテンツのデザインにおいて重要な役割を果たすのが「没入」と「覚醒」のスイッチです。

この記事では、なぜLARPでは没入と覚醒のスイッチが設けられるのか、その必要性と効果について考察します。特に、LARPを安全かつ有意義に楽しむために、これらのスイッチがどのように機能するかを探っていきます。

没入の魅力

LARPの最大の魅力の一つは、プレイヤーが完全にキャラクターに没入し、その世界に入り込むことができる点です。

まず、没入することで、プレイヤーは現実の自分から解放され、キャラクターの目を通して世界を体験します。これにより、普段は感じることのできない感情や状況に身を置くことができ、プレイヤーはその瞬間、まさに物語の一部となります。例えば、勇敢な戦士として仲間を守るために戦ったり、知恵を駆使して謎を解いたり、あるいは政治的陰謀に巻き込まれた貴族としての葛藤を味わうことができます。このような体験は、映画やゲームでは得られない、直接的で生き生きとした感覚になるでしょう。

さらに、没入することで、プレイヤーは他の参加者との強い絆を築くことができます。LARPの多くは一人で行うものではなく、他のプレイヤーとの協力や協働的対立が物語の進行に深く関わります。共に困難に立ち向かい、感情を共有することで、現実世界では得難い仲間意識や友情が生まれます。

また、没入はプレイヤーにとって自己表現の場でもあります。LARPでは、キャラクターの性格や背景を自分で設定することができ、それを通じて自己を探求したり、新たな側面を発見したりすることが可能です。普段の生活では表現しきれない自分の一面を、キャラクターを通じて自由に表現できるのは、没入することで起こることの大きな魅力です。これにより、プレイヤーは自己理解を深め、新たな視点を得ることができます。

加えて、LARPにおける没入は、単なる楽しみを超えた教育的な効果も持ち合わせています。例えば歴史LARPや社会問題をテーマにしたLARPでは、プレイヤーは特定の時代や状況に深く没入することで、その時代の文化や社会的課題を体験的に学ぶことができます。これにより、知識の習得が単なる頭の中の情報にとどまらず、感情や体験を伴った深い理解へとつながります。

最後に、没入することで得られる達成感もLARPの魅力の一つです。プレイヤーがキャラクターとしての役割を全うし、物語の中で重要な決断を下したり、困難な状況を乗り越えたりしたとき、その達成感は非常に大きいものです。自分が物語の一部として影響を与えたという実感は、プレイヤーにとって強い満足感をもたらし、LARPの体験がより充実したものとなります。

これらの要素が組み合わさることで、LARPにおける没入は、ただの娯楽にとどまらない、深い体験をもたらします。LARPの世界に完全に没入することで、プレイヤーは自分自身に留まらない存在となり、新たな感覚や視点を得ることができるのです。この没入感こそが、LARPの本質的な魅力の一つであり、多くの人々がこの文化活動に惹かれる理由でもあります。

覚醒の役割

覚醒とは、没入状態からプレイヤーを現実に戻すプロセスです。これは、プレイヤーがキャラクターから抜け出し、自分自身に戻ってくることを意味します。覚醒のプロセスがあることで、プレイヤーは心理的な負担を軽減し、LARPのセッション中やセッション後に安心を得ることができ非常に重要です。

LARPデザインにおいて、覚醒のスイッチを設けることは、プレイヤーが自分自身とキャラクターを分ける手助けとなります。これにより、プレイヤーはLARPの中で経験した感情や出来事を現実世界の自分に引きずり込むことなく、冷静に振り返ることができます。

なぜスイッチが必要なのか

没入と覚醒のスイッチは、プレイヤーの安全を守り、LARP体験をより豊かにするために不可欠です。これらのスイッチがない場合、プレイヤーは自分がどのタイミングで、どの程度までキャラクターに没入して良いのか、どのタイミングで現実に戻るべきかを判断するのが難しくなります。結果として、プレイヤーの体験性や充足感に悪影響を及ぼす可能性が高まります。

例えば、プレイヤーが強い感情を抱いたシーンの後に、何も考えずに次のシーンに進んでしまうと、その感情が尾を引いてしまうことがあります。これが積み重なると、プレイヤーは次第にLARPそのものを楽しめなくなり、最悪の場合、LARP自体から離れてしまう可能性があります。

一方で、覚醒のスイッチをうまく活用することで、プレイヤーはキャラクターとしての経験を振り返り、フィードバックを得ることができます。これにより、LARPの体験が単なる遊びではなく、自己成長や他者との深い交流を促進する貴重な時間となるのです。

安全デザインとしてのスイッチ

LARPにおける安全デザインは、プレイヤーが安心して参加できる環境を整えることを目指します。その中で、没入と覚醒のスイッチは重要な役割を果たします。これらのスイッチは、プレイヤーがどのようにLARPを体験し、どのようにその体験を現実に持ち帰るかを制御するためのツールです。

例えば、LARPデザインにおいては「オプトイン」や「オプトアウト」(CLOSSのLARPでは主にタイムインやタイムアウトと呼称される)など音声によるコマンドの他「OKチェックイン」などのジェスチャーを用いた手法が使われます。これらの手法は、プレイヤーが必要に応じてLARPの世界から一時的に離れ、現実に戻るためのスイッチとして機能します。これにより、プレイヤーは自分のペースで安全にLARPを楽しむことができます。

結びに

LARPにおいて、没入と覚醒のスイッチを設けることは、プレイヤーの安全と体験の質を高めるために不可欠です。これらのスイッチを適切に活用することで、プレイヤーはLARPを深く楽しみつつ、現実の自分を見失わないようにすることができます。

LARPは、単なる遊びではなく、自己探求や他者との交流を深めることが出来る素晴らしいツールです。しかし、その魅力を最大限に引き出すためには、適切な安全設計が不可欠です。没入と覚醒のスイッチは、その中でも特に重要な要素として、LARPという文化的活動をより安全で、より充実した体験に導く役割を果たしています。


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