LARPの底力:自己超越と現実へのポジティブな影響を最大限に活かすには?
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また、本記事を公開する直前(2024年7月30日)に、WORKSIGHT様より取材を受けた記事が配信されました。こちらも併せてご覧いただけましたら幸いです。
これまでも、いくつかのインタビュー記事に応じて参りましたが、1時間半のインタビューの内容を適切かつ読みやすい分量に纏めて下さっており、LARPの持つ文化的な背景や社会的価値についても注目していただいたものと感じております。
今回は、このインタビューを受けた際にも話題となった、LARPをする際に発生する自己超越と現実の自分へのポジティブな影響と、ネガティブな影響の可能性とその対策についてをしたためました。
自己超越と現実へのポジティブな影響
1.現代人は自己から逃れにくい
本文の前提として、そもそも現代人は「【自己】という枠組みから離れて、判断、行動するという機会を持つことが少ない」というトピックを立てます。
勿論、「日常的に【自己】から離れて、判断、行動する」ということはあります。例えば、家にいる自分、学校にいる自分、会社にいる自分、趣味に没頭している自分など、いわゆるユングの言う【ペルソナ】ー仮面や表向きの人格を意味し、社会生活を送る中で他者に見せる自分の一面や役割を指す言葉ーですが、このペルソナを切り替えながら日常生活を送ることもあります。しかし、それでもこのペルソナを身に纏うのは、自己の一部を切り分けて表出させている状態であり、最終的には自己に統合されるものです。すなわち、自己に地続きであり、その行動や判断の結果、周りに与えた影響は、自身の評価などに影響を与えることが自明です。
2.LARPによる現実世界と自己の切り離し
そして、LARPをする状態というのは【自分ではない誰か】として振舞うことにもなるため、感覚的にはペルソナを纏っている状況に近くなります。そのため、ペルソナを纏って普段暮らしている方々にとっては、非常に親和性がある感覚の中で、楽しんだり学んだりすることが出来るのです。
その上で、LARPをしている時に参加者が影響を与えるのは「現実世界」ではありません。LARPを企画・用意した者が設定した「仮想の世界」に影響を与えます。もちろん、これは双方向的ですから、仮想の影響を受けることも起こります。
LARP中は、こうした仮想のバリアに肉体的にも精神的にも守られる形で安全性が確保されるからこそ、様々な行動の選択を「キャラクター(完全に自由な立場の場合もあれば、制約がある立場の場合もある中で)」自由で挑戦的な形で行うことが出来ます。
ここでポイントとなるのは、LARP中にキャラクターが行ったり判断したりしたことによって発生する過程や結果は、他人を含む社会的な評価を含む自己に対する影響からは隔離されることが前提になっている事です。
3.フィードバックの効果
勿論、完全に自己と切り離されるわけではありません。LARPが終われば、LARP中に行われた事柄によって与えた事柄が共有され、参加者同士でフィードバックをすることになります。そして、そうした事のフィードバックは、緩やかかつポジティブに行われることが一般的です。
例えば、LARPの中でリーダーシップを発揮したり、他の参加者に対して協力的な態度を示したりすることで、その人の現実の評価が高まることがあります。また、フィードバックは世界と自己に対して双方向的な側面を持ちます。例えば、LARP中にリーダシップをとって成功したという経験が自信となり、リーダーシップをとることが出来るようになること。また、別のLARPの機会で、リーダーシップをより積極的にとる選択をとるようになることが挙げられます。
こうしたことは、様々にポジティブな影響を与えることができ、LARPを楽しむ、LARPで学ぶという行為に対する魅力のひとつとなっています。
4.LARPによってもたらされるポジティブなモノ
LARPによってもたらされる自己や現実世界の乖離が次のようなことに繋がります。
憧れをかたちに
現実で憧れをかたちにするためには相当な努力が必要な場合があります。場合によっては、実現性を欠く憧れもあり得ます(例えば、お姫様になりたい、ヒーローになりたい、エルフの耳を愛でたい、彷徨う鎧になりたいなど)。LARPの場合、想定される世界が許せば、つまり許される世界を選べば、憧れていた事柄をかたちにすることが可能です。勿論、相手がいる場合には相手の同意が必要ですが。
自己コンプレックスの昇華
コンプレックスは誰しもが持つものです。例えば、背が低い、歯が欠けている、太っている、瘦せすぎているなど。昨今はルッキズムがナンセンスであるという風潮が生まれつつありますが、まだまだ「見た目」が人間関係に影響を及ぼすことを背景にしたコンプレックスは存在します。LARPでは、キャラクターを装う際に自己の見た目に紐づくコンプレックスの要素をキャラクター表現に活用、もしくは不活性化させることで、自己表現、自己実現へと昇華させることが出来る可能性があります。例えば、背の低い人が、背が種族的に低い妖精族のドワーフとなることで短所と評価されがちだったことを長所とすることで、コンプレックスを昇華させるなどが挙げられます。
仮定の立場の実践的な経験
LARPは、異なる立場や役割を体験する場として有用です。例えば、異なる職業や社会的立場のキャラクターを演じることで、他者の視点や経験を理解しやすくなります。これにより、共感力や社会的スキルが向上し、現実の人間関係や職業生活においても役立つ知識と経験を得ることができます。
これらの3点は、いずれもLARP中の行動と現実の自己が切り離されるという心理的な安全性と納得を背景とするからこそ経験することができるものです。そして、そこでの経験を自己にフィードバックさせる、また他の参加者たちからフィードバックを受けることで、実現した、させた事柄を踏まえた自信が生まれることにつながります。
結論
LARPは「現在の自分」という枠組みから離れた上での行動や判断を通じて、憧れの実現、自己コンプレックスの昇華、仮定の立場の実践的な経験を提供し、それが現実の自己や社会生活にポジティブな影響を与える可能性があります。これにより、LARPは自己成長や社会的スキルの向上、メンタルヘルスの改善など、多岐にわたる利点を持つ有用な活動と言えるでしょう。
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