インフラ系情シスの残業をゼロにしてみた


僕はユーザー企業の情シスでオンプレサーバとネットワークの運用担当者でした。
海外20数拠点のVPN網と拠点ルータ、海外の基幹システムインフラ(DB含む)、国内ネットワークとの接続ポイント等の管理運用、拠点ユーザーのヘルプデスクなどを行っていました。情シスとして勤務していた最後の3年間程、残業ゼロを達成したので、そのときやったことを紹介してみようと思います。

まず、スキルや経歴、働く環境などを書いていくとキリがないので、「残業ゼロ」を推し進めるにあたって僕が考え、実践したプロセスに絞ってお伝えしようかと思います。

1.残業ゼロを達成するためには 

残業をゼロにするのは簡単です。ノー残業デーがある会社もありますが、その日には定時で帰れているわけです。
つまり、ある一日を残業ゼロにすることは簡単ですが、それを維持して毎日定時で帰ることが難しいわけです。

では、なにが定時帰宅の障害となっているか、いったん冷静になって考えてみることにしました。
結果、以下のようなものが上がりました。

・大量に来る依頼
・緊急のトラブル対応
・海外との電話会議
・業務時間に行えないメンテナンス
・ベンダとのやり取り

これらの業務をその発生原因と頻度をもとに分類し、どうすれば減らせるかを考えました。

2.タイムの削り方

スポーツなどでタイムを削る場合は各種行動をプロセスに分け、それを磨き上げる形でタイムを削っていきます。スポーツではルールに縛られますが、ビジネスではそのルールを変えることができるので、もっと大胆にタイムを削ることができる場合があります。それは構造を変えてしまうという事です。

よく言われることですが、時間をくうプロセスがあったとして、それをいかに短くするのかを考えるより、無くせないかを考えるのがポイントです。

3.業務をなくすには

業務のプロセスを省略するためにはどうすればいいでしょうか。
業務には必ずその成り立ちの理由があります。その理由が現在も有効なのか。そしてそれを誰と話し合えばいいのかをまずは見極めます。
上司の承認が必要なのか、主担当である自分が決めてよいのか、色々な場面があると思いますが、勝手に判断すると問題になるケースがあるので、注意が必要です。

4.具体的にやったこと

4.1.残業しない宣言
僕の仕事の一つは海外法人の250名のユーザーサポートです。
まず手を付けたのは顧客である海外法人への対応時間を日本時間に合わせることです。
「原則として時間外対応はしません、電話ではなくメールで連絡をください」と海外法人に宣言しました。時差がある海外拠点からの依頼を受け続けると無限に対応しなければなりませんから、これはある意味当たり前です。幸いなことに海外のユーザーの労働観は日本と違うので、すんなり理解してもらえました。
定時帰宅の障害となる「業務時間に行えないメンテナンス」は、サポートする拠点が東南アジア中心であることから、日本とのマイナス時差の関係で、朝のメンテナンスが可能だったため解決することができました。

また、残業ができない理由も普段から明確に周囲に伝えました。
子供の送迎や食事の用意があること、配偶者が同じ会社の物流部門勤務だったので、月末月初は特別なケアが必要など、周囲が反論しにくい理屈も考えました。

しかし、単純にやるべきことを先延ばししただけではユーザーのサービスレベルは下がっていますので、その部分を補う方法を考える必要があります。

4.2.一石二鳥の構造改革
次に導入したのは顧客や周囲との信頼関係を補強し、かつ自分の仕事を減らす手法です。
元々、アプリとインフラ、情シスとベンダ、国内と海外のような、利害関係者が複数存在し、多人数で複数のシステムを管理していたのですが、よくある話として、問題が起きた時に原因を探せない、押し付け合いになるというような構図がありました。
この構造に対し、自分の担当する範囲を徹底的に可視化することによって、原因の切り分け作業をすべて巻き取る代わりに、押し付け合いの主導権をすべて手中にしました。

具体的には仮想基盤のハイパーバイザー内に仮想スイッチとミラーポートを作り、保存用、解析用のVMを立ててパケットキャプチャを集約、自分の担当範囲で何か問題が起きたら常にその時のキャプチャがある、という状態を作りました。

パケットキャプチャは「切り分け」に非常に役立ちます。(キャプチャがあっても切り分けできないという事は基本的にありません)
これにより即座に担当者にボールを投げる、または来たボールを打ち返す事が可能になりました。
また、パケットキャプチャはエビデンスになります。エビデンスを一緒に送ると、相手は受け入れるか、それに反論する必要があるため時間が稼げます。
大量に舞い込む問い合わせのうち、放置するとまずそうなボールは即打ち返して帰ります。
エビデンスがあれば、報告の精度、信頼度も上がります。問題の切り分け後、上司にボールは誰が持っているかを明確にしたうえで状況を伝え、「僕はボールを持っていないので帰ります」というスタンスを取りました。
ボールを最速で打ち返すことに徹した結果、突発的な緊急のトラブル対応に関する時間を10分の一以下に減らすことができました。

さらに上司に対して、素早く正確な報告を上げ続けることで信頼が蓄積され、様々な場面で納期交渉の余地を生み出しました。
常に最速の報告を上げてくる部下が言ってくる納期なら妥当だろうという推測が上司側に成り立つわけです。
これでバッファを十分にとった余裕のあるスケジュールを無理なく通すことができました。
(もちろん勝ち取ったスケジュールを守る努力は継続的に行う必要があります)

加えて、非常に顕著に効果が表れたパターンとしては、ベンダコントロールが格段に楽になりました。
ベンダにしてみれば、顧客から証拠を突き付けられているわけですから、対応しないわけにはいきませんし、情報がそろっているためネットワーク機器などのメーカーへ問い合わせやすくなるはずです。

4.3.周囲との協調
僕はサイクルロードレースの経験があり、集団走行する自転車のポジション取りや集団心理はサラリーマンの考え方とよく似ていると思います。
自分の目的を達成するために時にプレイヤー同士協力し、時に競争する。集団に対し利益を提供し、自分の居場所を作るという考え方です。
その観点で言うと、残業ゼロとは「一人だけ先に帰っても許されるポジション」を維持している状態であると言い換えることができます。
僕は人と違う動きを許される代わりに、替えの効かない特殊な能力を用いて全体へ奉仕するポジションを目指しました。

具体的には、「問題解決のため、積極的に周囲をサポートする」行動を心がけました。短時間でも相談を受けることで同僚の困り事の対応時間が減るのであれば、早く帰ることも許容されます。
自分だけ幸せになろうとしてもうまくいきません。周囲に積極的に恩恵を振りまいておくことも、残業ゼロを目指すうえで大切なポイントです。

5.仕事を押し付けられそうになったら

周囲が残業しているのに一人だけ定時で帰るという状況は、上司にしてみればマネジメントの余地があるように見えるでしょう。
残業が多くて大変な人を手伝ってほしい、と考えるのが普通です。
実際にお手伝いを頼まれることはよくあります。簡単なものであればやりますが、ボリュームの大きいものはきちんと断るか交渉しました。
国内の仕事を手伝ってほしいという申し出に対し、交換条件として、自分の担当範囲を一部渡すことを提案したところ、巻き込まれるのを回避したことがあります。
主担当を引き継いでもらい、自分の裁量で効率化できるようにしておくのも有効です。
裁量を与えられず主担当のお手伝いのようなポジションでは時間だけ取られ、改善しにくい場合があるので、気を付けましょう。

6.まとめ

やらないことを決め、宣言する
定時で帰るという固い決意をきちんと周囲に表明することが大切です。周囲が受け入れやすい理屈も考えましょう。

効率化の工夫は大事
構造を変えるためにどうするかを考えて、自分の特性を生かすことができれば、それがそのままオンリーワンの強みになります。工夫しましょう。

今回はバッサリ割愛しましたが、プログラミングによる自動化なども効果があります。ただこれは後々メンテナンスなどで自分に跳ね返ってくるパターンもあるので気を付けたほうが良いです。デバッグ環境やプログラムの振る舞いをチェックできる仕組みなどを用意しておきましょう。

人間関係のケアを忘れずに
奇妙に思えますが、残業ゼロは自分一人では達成できません。必ず周囲の協力が必要になります。
周囲への気遣いと、協力の姿勢は非常に重要です。「定時で帰る代わりに自分は何を周囲に提供できるのか」を考えて実践しましょう。


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