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記事一覧
ゲームばかりしていると馬鹿になる6
「はじめまして、瀬名アラタです」
僕が名乗った瞬間に、彼は世界が止まった、みたいな様子で身をこわばらせた。
「せな、あらた、くん」
僕はと言えば、個人的には大好きなシナリオライターである、関ユキノリさんに会えたという喜びでいっぱいで、彼がそんな反応を示したことが不思議だった。
「あら? 知り合いだったの?」
僕の勤めるゲームメーカーの社長である、大原ユウコさんも不審げに関さんを見上げる。関さ
ゲームばかりしていると馬鹿になる5
暑い昼の午後だった。よく覚えている。
僕は学校が夏休みに入っていた。ひきこもりで登校をしない主義の高校生の僕は、必然的に涼しい祖父母の家で過ごす時間が増えた。
セミの声がうっとうしいくらいに聞こえてくる午後だった。
珍しく昼にゲームにログインした僕に、すぐに個別のチャットが飛んできた。メイちゃんだった。
なんでもレアドロップ装備目当てで高難易度コンテンツをクリアしたいので、そこそこの装
ゲームばかりしていると馬鹿になる4
彼女と出会った頃の僕は高校生だった。学校には行っていない高校生だった。
とはいえ、中学で学校に行きたくなくて立派な登校拒否児になり、保健室登校で卒業証書を手に入れた。受験はちゃっかり受かったものの、高校にもめったに出席せず、市立図書館か、2駅先に住まう祖父母の家にばかりいた。祖父母は僕を甘やかしてくれたし、新しいものが好きな祖父はパソコンを数台持っていた。
そのうちの一台を好きにさせてもらえ
かつて「運命の女(ファム・ファタール)」だったひと
僕は初老のイラストレーターだ。ゲーム会社勤務を経て、四十を過ぎて退職し、副業として請けていた絵の仕事を本業とした。
裕福とはいえないが、日々の暮らしに困るわけでもない。毎日朝七時には起床し、ストレッチ。そして朝食を作ってインスタにアップし、ゆっくりと食べる。一人暮らしなのですべてが自分のペースだ。今日は和食にした。生卵に納豆、もちろんねぎをいれる。昨夜漬けておいたきゅうりの浅漬け。それから土鍋で炊
ゲームばかりしていると馬鹿になる3
僕の母親が死んだのは、僕が5歳になってすぐの頃だった。
祖父母も父親も、母の死因を僕から必死に隠そうとした。でも、僕は物心つく頃には彼女がなぜ死んだのかを知っていた。人類はみんな同じ歳で物心がつくわけでもないだろうけど、僕が知ってしまったのは、母が死んでしばらくした頃だった。
「ネトゲで知り合った男と不倫して、あげくの果てに死ぬなんてねぇ」
母の姉の口調はからりとしていた。
いつかああなるんじゃな
ゲームばかりしていると馬鹿になる2
僕が職場から帰宅するのはだいたい21時過ぎてからだ。家から職場までは自転車で15分。雨天時にはバスを使う。快適な通勤環境だと思われるかもしれないが、単純に通勤に時間と体力と精神力を消耗したくないから。
今日のところはNo残業デーということで、僕は定時から1時間ほど過ぎたところでデスクの上を片付けた。その気配を感じ取ったのか、社長が声をかけてくる。
「瀬名くんあがるの? よかったら晩御飯でもどう?」
ゲームばかりしていると馬鹿になる1
うちの社長はおんなのひとだ。
年齢はよくわからないけど四十歳手前くらいだろうか。小学生の息子さんがひとりいるけれど、一緒には住んでいないらしい。僕はただの契約社員というか、プログラマ見習いなので、正直彼女のプライベートなんてどうでもいい。彼女以外のスタッフのプライベートだってそうだ。だって僕は仕事をしに、仕事場に来ているんだから。
「仕事場の人間との関係なんて、そんなに深くしないほうがらくだよな