見出し画像

美容院で髪型が変わらなくてもいい。そう思った、社会人1年目の冬のこと。

人のことをどこかで信じていない学生だった。

人からもらったアドバイスを無視して明らかに付き合うべきでない人と付き合ったり、誰かの善意を踏みにじって自分のやりたいことを優先させたりしてきた。

うまくいかないことがたくさんある。そして、その原因の多くは「人のことを心から信じていないから」だと知っていた。

そんな私が、少しずつ「誰かに委ねる」「一緒に作る」ことを意識出来るようになっていったきっかけ。

それは、社会人になってかれこれ5年以上通っている美容院だ。

誰からも認められないという自己肯定感の低さと期待値の乖離からか、「可愛くありたい(少なくともみっともなくなりたくない)」というプライドがあった。

そんな学生時代は、冒険のない、決まった髪型で、厳密にオーダーを指定していた。「髪型が変わらない女」ってやつだ。
また、同じような髪型になればいい=誰がやっても同じ、だと思っていたので、ホ◯トペッパーで初回限定クーポンを見つけては使う、といった日々を送っていた。

しかし、社会人になってひとり暮らしをはじめた街で通りかかった美容院で、私は今までと違うオーダーをするようになる。


もちろん、最初はいつもと同じように。「こんなふうに」「こうならないように」など、厳密に注文をつけていった。その結果、仕上がりは必ずしも自分の意図通りにならなかった。不満だった。もう来てやるものかと憤慨さえした。

しかし、日が経つにつれて、髪が少しずつ、不思議と馴染んでいった。憤慨した自分のことを忘れた頃、周囲からも「今の髪型いいじゃん!」と言われるようになった。自分が「良い」と思っていたものは、他人にとっても必ずしもそうではない、ということに衝撃を受けた。

そこからは自分のオーダーの方法を変えるようになった。

・厳密に「こうしてほしい」ではなく、基本的には「切る長さ」と「この人みたいな」といったふわっとしたオーダーにし、相手に任せるように
・髪を切る前にきっちり髪を整えていくのではなく、いまのありのままの髪のコンディションを見てもらう、伝えるように
・自分がその場をディレクションするのではなく、前回の結果をフィードバックする立場を取るように

この美容院に通うようになって、美容師さんのあり方への認識が大きく変わった。

ひとつは、美容師さんのことを「髪という壮大なフィールドの完成度を高めていくバディのようなもの」と思うようになったことだ。

というのも、私の髪は直毛で、何をしても無駄(パーマをかけてもデジパーをしてもうんともすんとも言わない)な私は髪型にコンプレックスがあった。でも、(主に美容師さんが)どうすればいいかを都度考え、実践していくなかで、少しずつ理想に近づいていく感覚があったのだ。それからは徐々に安心して委ねるようになってきた。私がやることは、日々のメンテナンスを怠らないこと、それくらいだな、と思うようになった。「髪型がどうなろうと、この人の描くものであればいいや」と思うようにもなっていった。

もうひとつ、いちばん大事なことは、美容師さんのことを「人生のメンター」と認識するようになったことだ。

当時、やっぱり可愛く見られたいときは誰かに会う前で、髪を切った後にはそのたび違う人と会っていた。その度進捗を話して、忌憚ない感想を聞き、忘れた頃に「あのときのあの人とはどうなったの?」と質問をされる…ということを繰り返していた。仕事だって、うまくいかないことがたくさんある度に弱音を吐いていたから、「結局仕事はどうなったの?」「上司とは仲直りできたの?」などと聞かれるようになった。そういう問答を繰り返すうちに、「わたしよりもわたしのことを知っている人」として認識するようになっていった。言うなれば、人生相談役のようなものだ。

カットは1時間、パーマは3時間。もっと話をしていたくて、まだかけなくてもいいパーマをかけるために、今日も私は美容院に行く。

髪を触ってもらうのは何より気持ち良いしふわふわする感覚を覚える。パーマは温かくて、羽毛にくるまれているようだ。うつらうつらしている私を見て、美容院のお兄さんはいつもくすりと笑う。

そういうわけで、もはや私にとってこの場は「可愛くなるための場」ではなく、「最後にここを後にしてからここに来るまでの日々を内省し、反省し、意見と勇気をもらう、安心安全の秘密基地のような場」になったのだ。

そうなってからは、髪型が変わろうが、そうでもなかろうが、なんだかどうでもよくなってきた。プロにゆだねてベストの判断をしてくれているのであろうという期待もあるが、周りからは全然気づかれなくても、私は機嫌が良くなる。置かれる雑誌(「よく分かっているな~」と思う。因みに私の目の前にはHanakoが置かれることが多い)、出されるハーブティー、そして「また別れたの?」とツッコミを入れてくれる美容師さん。

その全てが私の心を解してくれるからだ。

これからも、どこに引っ越しても、プロとして、バディとして、メンターとして、安心できる秘密基地として、慕い続けていくんだと思う。

それが終わったときの自分がどんななのかも含めて、今から楽しみだったりもする。

画像1

美容院で、必ずしも髪型が変わらなくてもいい。
誰かに「髪切った?」と聞かれなくてもいい。
「自分らしさ」はアップデートされなくてもいい。
「最高に可愛い自分」にならなくてもいい。

地続きのところにいる自分を受け入れて、ちょっと反省して、でも前を向いて、また明日からも戦いに出る。

おまけ:いつもお世話になっている美容院さんをちょっくら宣伝!

東急目黒線・大井町線 大岡山駅南口から徒歩約2分
静かな住宅街にあるヘアーサロンです。
気負わずリラックスしていただける空間で、お客さまとじっくり向き合い
ご満足いただけるスタイルをご提供します。

予約はこちら!


UXコンサル、BtoBマーケ、人事を経てコミュニケーションマネージャー(広報、マーケ、採用広報、組織開発)なう。 書くこと:パン偏愛、可愛いもの布教、働くこと、生きること、1日1考、新サービス考察、旅行、読書録、銭湯、恋愛。 頂いたサポートは、もれなくパンの研究に使われます。