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【Jリーグ財務分析】~川崎フロンターレ編~

こんにちは、クリフォードです。現在は投資銀行で企業の資金調達やM&Aなどの業務をやっています。以前は某中央省庁で役人をやっていたりしていました。
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突然ですが、皆さんはJリーグチームの財務状況をどの程度ご存じでしょうか。

「選手は知ってる」とか「どのチームが強い」ということはご存じの方も多くいらっしゃると思いますが、「チームの財務状況を知っている」という人はサポーターでもなかなかいないんじゃないでしょうか?

そういえば最近ではこういうニュースも出ていました。

うん、なかなかに財務は大変みたいです。

また、現在では新型コロナウイルスの影響で今年度の収入が減ってしまうことは必至です。

そんな中、改めてスポーツチームの財務を考えることがより重要になってきているのではないかと思います。

かくいう私も小さい頃からスポーツが好きで、特にサッカーが大好きですが、チームの財務状況は全く知りませんでした。。。

しかし、一般的な企業は財務がしっかりしてこそより成長し、強固な組織になっていくはずです。このことは金融機関等で専門的な仕事をしている人でなくても想像がつくのではないかと思います。

一方でスポーツチームの場合はどうでしょうか?「財務はちょっと良く分からないから気にしなくていい」のでしょうか?いい選手が入ればそれでいいのでしょうか?
いや、全くそんなことはないはずです!むしろ財務を知り、チームの運営に活かすことこそ、そのチームの浮き沈みを決める最も重要な要因といっても過言ではないのです!

チームの財務がしっかりしていると、以下のようなことが起きるはずです。

チームの財務がしっかりしている⇒優秀なスタッフや選手が集まる⇒チームが強くなり、成績が向上する⇒サポーターやスポンサーが増える⇒チームの収入が増える⇒優秀なスタッフや選手が集まる⇒…

これってめちゃくちゃ好循環ではないですか??
そうなんです、財務を知り強くすることでチームの強さに直結するのです!
逆に言うと財務がぐらついているチームは早晩弱体化の一途を辿ってしまうことも十分に考えられるのではないか、と思います。

ということで、早速チーム毎に現在のチームの財務状況を紐解いていきたいと思います。

本Noteでは下記のことに留意の上、見て頂けると嬉しいです。

・あくまでフェアに財務状況にフォーカス
・財務の見方は個人的な意見も多く入ります
・出来る限り平易に、分かりやすく
・一般的に開示されている情報や資料のみから考察

では早速見ていきましょう!

記念すべき第1弾はいま最もJリーグで強いと言っても過言ではないチーム、「川崎フロンターレ」です!

ちなみにですが、Jリーグの全チームの財務数値等のクラブ経営情報は下記リンクより入手することが出来ます。ご興味がある方はぜひ覗いてみてください。


川崎フロンターレは神奈川県川崎市をホームタウンとし、等々力陸上競技場を本拠地とするチームです。

主要株主やスポンサーを見ると分かる通り、もともとは富士通のサッカー部として発足し、1997年にJリーグ準会員として現在の川崎フロンターレとなりました。

直近では安定して上位に位置しており、2017年度と2018年度にはJ1リーグ連覇を成し遂げています。
また、2019年度は4位に終わりましたが、先日全日程を終えた2020年度は独走で優勝、天皇杯でも優勝し、2冠を達成しました。

ホームスタジアムの等々力陸上競技場は収容人数こそ約27,000人と他の大規模スタジアム(味の素スタジアムや埼玉スタジアム2002など)と比べると幾分小さいですが、一方で2019年度にはホームの平均収容人数が約23,000人と収容率は約86%と高い水準と言うことが出来ると思います。実際に入場料収入に関してJ1平均を上回る水準を維持しています。

2. 財務情報

川崎フロンターレの過去3年間(2017年度~2019年度)の損益計算書及び貸借対照表は上記の通りです。

この項目では各項目の内訳ではなく、あくまで大枠での数値を見ていきます。

まずは損益計算書の項目から見ていきます。

クラブの規模感を捉える際に一番分かりやすい営業収益(一般企業でいう売上)の過去3年の推移は下記の通りです。(カッコ内はJ1平均)

2017年度:5,143百万円(4,083百万円)
2018年度:6,074百万円(5,101百万円)
2019年度:6,969百万円(5,242百万円)

営業収益を見てみると安定して成長しており、各年においてJ1平均値を上回っています。

また、当期純利益も毎年黒字を確保しています。

貸借対照表に関しても売上規模に比して資産は小さいように感じますが(決して小さいことが悪いことではない)、当期純利益において黒字を確保していることも影響し、負債<純資産となっているため、財務健全性の観点からも比較的強固、少なくとも軟弱ではないのでしょうか。

実際に昨年ではJ1で最も経営がうまいチームとして川崎フロンターレが選ばれています。(下記リンク参照)

以上より全体感で見ると比較的安定している財務状態、ということが出来そうです。

それでは具体的に財務分析をしてみたいと思います。

3. 営業収益

上記のグラフは川崎フロンターレとJ1の平均値の値及び割合を並べてみたものです。

これを見るとJ1の平均値と比して特徴的な項目は、①広告料収入、②Jリーグ分配金ということが出来そうです。

まず、①広告料収入ですが、過去3年の推移を見てみると、多少のぶれはありますが、毎年大体30%程度の割合です。一方でJ1の平均は約45%程度ですので、営業収益に占める広告料収入が少ない、ということが出来るでしょう。

また、金額だけで見ても2019年度はJ1平均以下の数値です。(川崎フロンターレ:2,143百万円、J1平均:2,343百万円)

今やJ1でも1・2位を争うほどの競争力があり、アジアでも勝ち上がることが出来るほどの強さと言っても過言ではないチームの広告料収入としては少し寂しいのではないか、と思います。。。
前身が富士通グループであることから富士通関連の企業がスポンサーに多く付いていることは前述の通りですが、ここの広告料(スポンサー料)が抑えられてしまっていることが要因なのでしょうか。
とはいえ、2018年度から2019年度にかけて約700百万円(7億円)ほど増えていますので、今後の広告料収入の増加に期待、といったところではないかと個人的には期待です。

そして②Jリーグ分配金ですが、これはそもそもどのように分配されているか、を見る必要がありそうです。

Jリーグが公式に公表している「Jリーグ配分金規程」によれば、配分金は下記の内訳で各クラブに配分されるようです。

ⅰ. 事業協力配分金:全てのJリーグクラブに対して配分されるもの
ⅱ. 理念強化配分金:前シーズンのJ1リーグにて1位~4位であったチームに対して最長3年間に渡って支給されるもの(2019年度までは翌年に一括で支給)
ⅲ. 降格救済配分金:J1⇒J2及びJ2⇒J3に降格したクラブに対して配分されるもの
ⅳ. ACLサポート配分金:AFCチャンピオンズリーグ(ACL)に参加したJリーグクラブに対して配分されるもの
ⅴ. toto交付金:全てのJリーグクラブに対して配分されるもの

以上がJリーグより各クラブに対して配分されるものとなります。こうして見てみると意外とあるなあ、という印象です。笑

川崎フロンターレの場合、2018年度及び2019年度はそれぞれ前年にリーグ戦を優勝していたため、この配分金が多くなっている、ということです。

ですので、これらの配分金は戦績に応じて配分されるため、毎年「ブレる」ものである、ということを認識する必要があります。

また、今年から上記のⅱ. 理念強化配分金の配分方法が変わっています。ですので、どのように収益として入ってくるのかをしっかりと考え直した上でチーム経営を進める必要があります。(下記リンク参照)

もちろん、川崎フロンターレほどのチームであればいくらかは見込むことが出来ると思いますが、一方で、優勝するかしないかで金額が変わっていく部分でもあるので、財務を考える際には保守的に見ておく必要があるのではないか、と思います。

一方で前述の通り、スタジアムの収容率が高い水準であるのにも関わらず、収容人数が少ないためにどうしても入場料収入は平均程度の数字になってしまう点は課題と考えられる部分でしょう。

営業収益を総括してみると、多少のぶれがあるとは言っても各項目に関して安定してJ1平均値以上の数値で推移しているため、J1クラブの中では安定して収益を稼いでいる考えることが出来ると思います。

ただ、今年は新型コロナウイルスの影響で入場料や物販収入が落ち込んでしまうことが予想されます。また、Jリーグ分配金に関しても多少減ってしまうはずなので、新たな収益源の確立も求められていくでしょう。

4. 営業費用

続いて営業費用(一般企業でいう売上原価)に関して詳しくみていきましょう。

まず、大きな割合を占めるチーム人件費に関してですが、金額でみるとJ1平均値より高いですが、全体の営業費用に占めるチーム人件費は約半分であるため、確りとバランスを取っているのではないか、と思います。

また、割合では販管費の割合が少々大きくなっています。ただこちらはチーム規模に比して過大になるものですので、大幅な削減は難しいはずです。

一方でアカデミー運営経費がJ1平均対比小さく、財務だけで判断するとそこまでアカデミー(ユースチームなど)には力を入れていないのでないか、とみることも出来そうです。

営業費用に関してはそこまで削減の余地が無さそうに見えますが、強いていうのであれば、販管費>チーム人件費の順で削減を考えるべきかと思います。
特に販管費はチーム規模に比すると思いますが、それでも営業費用に占める割合はやや高いですので、削減する余地があるはずです。
また、チーム人件費に関してもチーム強化のために選手・チームスタッフ問わず人件費を上げることには個人的には賛成ですが、チーム成績に応じたプライシング設定をチーム全体に対して導入することもよいのではないでしょうか。

そして上記で削減した費用の一部でもアカデミー運営費用に充足することによって若い世代からチーム強化を図ることでもう一段階上のチームになる可能性を秘めているのではないかと考えます。

5. 収益性指標

この項では公表されている財務指標をもとにして組織の収益性指標の代表各である利益率及び成長率を見ていきます。

まず利益率に関してですが、上述のように川崎フロンターレは毎年安定して黒字経営を続けているため、赤字であることも珍しくないJ1クラブの中では非常に高い水準と言えるでしょう。

また、利益成長率(営業収益、営業利益)に関しては川崎フロンターレの数値のみ記載しておりますが、
営業収益成長率:18.10%⇒14.73%
営業利益成長率:15.01%⇒68.63%
となっております。

成長率を見ると、営業収益及び営業利益どちらも安定して成長しており、また、営業収益成長率<営業利益成長率となっているため、経費削減等に取り組むことによって確りと営業利益を確保することが出来ている、と言えるでしょう。

収益性に関しては総じてJ1クラブ対比では高水準を維持しており、少なくとも財務上では健全な経営が出来ている、ということが出来ます。

6. 健全性指標

続いて財務の健全性について見ていきましょう。
具体的には自己資本比率、D/Eレシオ、総資産利益率(ROA)、自己資本利益率(ROE)を算出してJ1クラブの中央値と比較してみます。

まずは自己資本比率及びD/Eレシオですが、こちらはどちらもJ1クラブ対比非常に健全性の高い水準と言うことが出来るのはないでしょうか。
自己資本比率は毎年50%超ですので、負債<純資産となっています。一部上場企業の自己資本比率の平均が50%程度ですので、あくまで参考程度ですがそれなりの水準といってもよいのではないでしょうか。
また、D/Eレシオに関しても1倍を切ってますので(自己資本比率が50%超ですので当然ではありますが)、過大な負債を抱えているわけではなさそうです。

また、総資産利益率(ROA)及び自己資本比率(ROE)ですが、こちらもJリーグの中央値よりも高い数値ですので、平均的なJ1クラブよりも「健全」な財務体質と言えるでしょう。

総じて川崎フロンターレの財務健全性は高い、ということが出来るでしょう。

7. 総合評価

営業収益:★★☆
営業費用:★★☆
 収益性:★★★
 健全性:★★★

ここまで川崎フロンターレの財務を様々な側面から分析してきました。

各財務指標を見ると、あくまでJ1クラブとの比較、という観点になりますが、ほとんどにおいて高水準で推移しており、収益性及び健全性両側面においてJ1トップクラスということが出来るでしょう。

一方で、営業収益の面においては広告料が少なく、順位によって左右されるJリーグ分配金が営業収益に占める割合が高いため、今よりも収益力を高める余地はあるといえるのではないでしょうか。

また、営業費用においても内訳は分からないですが、販管費の削減する余地はまだまだあるでしょう。そして削減したコストをアカデミーなどの成長投資に回すことが出来ればより強固なチームを作ることが出来ると思います。

8. まとめ

これまで川崎フロンターレの財務状況を見てきましたが、どうでしたでしょうか。

J1クラブと比べると確りと黒字を出しており、きちんとしたチーム運営がなされているといえるでしょう。
一方でまだまだ収益力を高め、成長投資に回すだけのコスト削減をする余地はありそうです。

目下J1を独走している川崎フロンターレ。コロナ禍でサッカークラブは軒並み財務状況が厳しいはずです。そしてそれは川崎フロンターレにも言えること。今一度収益力を高め、コストを削減し、日本だけでなくアジアをも代表するクラブにもう一段成長してほしいですね。

寄付ありがとうございます。これからも色々と書いていきますので、ぜひ読んでください。

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