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風力発電による騒音・低周波音の被害の現状について 秋田県 風力だめーじサポートの会
■風力発電による騒音・低周波音の被害の現状について 秋田県 風力だめーじサポートの会2025年2月11日 長周新聞
由利本荘市周辺は、秋田県内でも多くの風力発電が稼働している地域であり、陸上にはすでに53基が稼働している。洋上には離岸距離2~4㌔㍍のところに、約1万2000~1万3000㌔㍗の風車65基が計画されており、2030年に稼働する予定だ。
風力発電が民家の近くで稼働し始めてから、頭痛、めまい、耳鳴り、不眠、動悸などの体調不良を訴える人が出るようになった。2022年9月6日、由利本荘・にかほ市の風力発電を考える会とAKITAあきた風力発電に反対する県民の会が秋田県庁で記者会見を開き、地域住民に健康被害が出ているとして、発電事業者に夜間の運転停止を訴えた。このとき健康被害を訴えている住民は、由利本荘市17人、にかほ市4人(いずれも仮名)だった。
低周波音で夜も眠れず 田中和夫氏
私の場合は、風車の近くを通ってもなにも感じない。心臓がドキドキすることもない。自宅で、とくに寝ているときには強く感じる。
私の家は、三方向を2000㌔㍗級の風車に囲まれており、その真ん中に家がある。西に1基、南東に7基建ち、2019年秋頃に北東方向に風車が2基建ったが、その後からなにか音が聞こえるなと思い始めた。
ある日、夜寝ていたら急に心臓がドキドキして、血液が頭にドクドク流れるような経験をした。それから風車が気になるようになった。だんだんわかってきたのは、それが鼓膜で聞きとる騒音ではなく、振動で伝わっている低周波音だということだ。骨伝導といわれるものだ。
それがわかったのは、市役所に相談に行ったとき、職員から「耳栓を試してほしい」といわれ、やってみたのがきっかけだった。それは普通の耳栓ではなく、音を完璧にシャットアウトするものだった。やってみると、回りの音が聞こえない状態なのに、ただ風車のグウングウンという音が聞こえる、というか感じる。これは低周波音に間違いないと思った。鼓膜から聞こえるのでなく、振動が内耳から脳に伝わっているのだ。
風車が回って風が強いときには、眠りについて1時間や1時間半ぐらいで目が覚め、気になって寝られない。寝ても少ししか寝られない。心臓の痛みはだんだんひどくなっている感じがする。冬は風の強い日が多く、それも2、3日風のひどい日が続くと体調悪化がだんだんひどくなっていく。今年の冬には、朝起きると身体が痙攣しているような感じのときもあった。低周波音を感じて身体が反応しているのかなと思う。腸の具合も悪くなっている。和歌山県の医師に聞くと、(低周波音が)自律神経に悪影響を及ぼして心臓や腸の症状が出ているのだろうといっていた。
4、5年前から市役所に相談にいっており、事業者に「夜間だけでも止めてほしい」とお願いしてくれといってきた。事業者にも説明してきたが、なかなか信用してもらえない状態が続いている。
それで私は、体調の異常を毎日記録につけるようになった。3事業者から年間の稼働状況を教えてもらい、それを私の症状と突き合わせてみると、強い風が多く風車がフル稼働している冬場に体調異常を起こす日が集中しており、風車があまり稼働していない夏は症状があまり出ないことがわかった。昨年1月、3事業者と市役所に来てもらって、その資料を渡し、「間違いなく私の症状は風車の稼働状況と合致しているので、夜間だけでも稼働を停止してくれ」とお願いした。
環境省が出している低周波音の「参照値」(心身に係る苦情に関する参照値、2004年)は、「100ヘルツ以下の低周波音は聞こえにくい、10ヘルツ以下の音は聞こえないから、いずれも生理的な影響は考えられない」という考え方を前提につくられたものだが、私の場合は参照値より低いところで感じて具合が悪くなっている。低周波音を除外しているが、私たちは低周波音で苦しんでいる。
また、事後調査を義務づけてほしい。低周波音がどこまで届くかというのは、稼働してみないとわからない。今は、市役所から「事後調査をやりなさい」と勧告があればやるが、なければなにもしなくていいとなっている。その事後調査のやり方も、3日間、騒音や低周波音を測定し、その平均値を出して、「指針値とわずかな差しかないのでなんともない」となってしまう制度になっている。風車がフル回転しているときに出ている低周波が私にとって問題なので、風車の回転が速いときと遅いときの平均値を出されてもなんの意味もない。また、今の環境アセスの制度では、アセス文書の縦覧は1カ月だけでよいとなっているが、事後調査についてはいつでも見たいときに見られるようにしてほしい。
もっと低周波音研究を 浅川浩氏
私は耳が悪い。左耳は突発性難聴で聞こえないし、右耳も老人性難聴で聞こえにくく、補聴器をつけている。しかし、職場にいても低周波音はよく聞こえる。職場は海から2㌔ぐらいだが、低周波音は周波数が長いので遠くまで届く。しかし、風車のそばで出ている、20ヘルツから上あたりの聞こえる低周波音は、たぶん聞こえていないと思う。それより低いところの音が離れたところで聞こえている。
なぜそれが低周波音とわかるかというと、私が朝から「うるさい」と騒いでいるのに、私の家内にはまったく聞こえていないからだ。夜、音がきついときは早朝五時か六時に目が覚める。横になっているときの方が音はうるさく感じる。パッと目覚めたとき、よく自分はこれまで寝ていたなと思うほどの音が耳元でしている。私の家の前は交通量が多い道路なので、騒音をシャットアウトする家の構造になっている。ただ、他の音はしないのに低周波音は家の中で響いている。
環境省は2017年の「風力発電施設から出る騒音の対応について」で、「20ヘルツ以下の超低周波音については、健康影響との明らかな関連を示す知見は確認されなかった」といって、超低周波音は検討しないと宣言している。われわれはそれで困っているのに。環境省は、騒音は聞こえる音に限定するといっているが、しかし聞こえる音についてもあまり検討していない。環境省内では風力発電という言葉が禁句になっているような感じがする。低周波音を研究していた日本騒音制御工学会も、最近では風車のことを話題にしなくなっている。それは政府が前のめりに再エネを進めているので、政治的に邪魔するわけにいかないといわなくなっているのか、忖度しているのかわからない。でも、研究してくれないと、迷惑を被っている者は浮かばれない。
このままでは公害の街に 大友良子氏
家族で生活していても、低周波音が聞こえる人と聞こえない人がいる。ここに問題があって、いろんなところで訴えても「気のせいだ」「高齢だから」といわれがちだ。
由利本荘の人たちの経験からは、風車が稼働して3~5年で健康被害が顕著にあらわれるということがいえると思う。住民からは最近、「急に音がうるさくなった」「眠れない」とよく聞くようになった。今後、陸上だけでなく洋上にもたくさん風車が建てば、由利本荘は低周波音による公害の街になるかもしれない。
低周波音を感じている人は声をあげてほしいし、その人たちをサポートしたい。そういう意味で風力だめーじサポートの会をつくった。多くの方々に理解してもらって、風力発電を規制する条例の制定に結びつくような運動になってほしいと思う。