2021年9月~12月 読書リレー
あまりにも記録を溜めすぎたので、9~12月の読書リレーをまとめて、書けている5冊だけピックアップして紹介します。
記事の最後に、読んだ本の一覧はつけています。すみませんでした。
気に入った本は、また別の機会にでも言及できたらいいですね。
田中冬二『青い夜道』
2006年(1970年初出)、日本図書センター
https://www.amazon.co.jp/dp/4284700103/ref=cm_sw_r_tw_dp_0P5CGP7W3WVF04QBARQD
確か、尾道の古本屋「弐拾db」の公式Twitterアカウントで紹介されていて気になった本。近所の図書館に所蔵されていたので借りてきました。例の病がアレでコレでしばらく休館だったのですが、予約した本の貸し出しだけはしてもらえるみたいだったので、今回初めてネット予約サービスを利用しました。ネット予約だと、書庫にある本も気軽に借りやすいからいいですね。
明治から昭和を生きた詩人、田中冬二の第一詩集。山国や北国の自然や生活を多く書いている人です。堀口大学なんかとも交友関係があったらしいですね。
本当に「日常」を微に入り細を穿ち、削ぎ落としに削ぎ落として形作ったような、静謐で素朴な作風でした。僕はこういう詩がめちゃくちゃ好きですね。こういうシンプルで透き通った詩が書きたいなあと願うばかりです。
一貫して描かれるイメージは「夜」なものの、読んだ印象としては、地上に照る陽光やランプから差してくる「光」。光に照らされる憂鬱、というか、寂しさ切なさが辺りに漂っているような感覚でした。恥ずかしながら今まで名も知らなかったのですが、もっともっと読んでみたいなあと思います。というか普通にこの詩集を家に迎えたい。無事に再就職が叶えば、買いましょうかね。
ウー・ウェン『料理の意味とその手立て』
2020年、タブレ
https://honto.jp/netstore/pd-book_30633838.html
ながいひるのTwitterで紹介されていて、気になった本。エッセイがメインのレシピ本は今までほとんど読んだことがなかったので、読んでみたかったのもあります。
日本に住み始めて30年、料理サロンを開いて23年(2020年当時)の著者がたどり着いた料理の形を紹介している本です。
裏表紙の帯にも書いてある通り、ウー・ウェンさんのレシピはどれを見てもめちゃくちゃ材料・調味料が少なくて、手順も簡潔にスッキリまとまっています。表紙のシンプルさがそのまま、ウーさんのポリシーを表しているかのようです。「豆乳のスープ」なんかは、材料が本当に「豆乳、粗塩」のみなので、「それだけ!?」と思って作る時不安になりそうと思うのですが、時間のある時に、丁寧に作ってゆっくり味わうようにすると、滋味深くていいのかもしれません。バカほどジャンキーな食べ物も当然美味しいのですが、薄味のものも食べてるうちにじわじわ美味しく感じてくるよなあ……と年を経るごとに実感します。歳かな。
僕はこの本を読んでから「トマトと卵の炒め物」をよく作っています。トマトに火を通していると卵が結構パサパサになってくるんですが、そこに片栗粉を入れることでしっとり仕上がって美味しいです。実家に帰ったり家族が来るたびになぜか必ずミニトマトを持たされるので、その消費として作ることが多いです。
アントニイ・バージェス著、乾信一郎訳『時計じかけのオレンジ 完全版』
2008年、ハヤカワepi文庫
https://www.hayakawa-online.co.jp/product/books/310052.html
書店で見かけて、表紙に惹かれて買った本。
端的に言うと「近未来の管理社会的なロンドンで、不良少年たちが好き勝手暴れまくる話」です。喧嘩もリンチもレイプも強盗も当たり前、そうした日々を送っていた主人公のアレックスは、いつものように盗みに入った家で殺人を犯してしまい、逮捕されることになります。そこで彼は、人格を矯正する新しい治療法の被験者になり……というような展開です。スタンリー・キューブリック監督の映画でご存じの人も多いのではないでしょうか。
この物語で一等風変わりなのは、やはり「ナッドサット」という言語の存在でしょう。これは、作中に登場するティーンエイジャーたちが好んで使う造語のようなものです。言語学者でもあった著者自身が発明したとか。
語源的には、ロシア語の影響を強く受けているようで、確かに「デボーチカ(女)」「モロコ(牛乳)」など、ロシアっぽい響きの言葉が多いです。「ハラショー」なんてそのままですね。映画を見た友達も使ってましたが、やっぱり僕は「スパチカ(睡眠)」がかわいくて好きですね。
気になる人は実際に開いて見てほしいのですが、ナッドサットがカタカナで書かれているところのルビにひらがなで意味が書かれているので、なんかものすごく不思議な気持ちになります。ルー大柴みたいな感じ。
ネタバレするのもなー、でも古典だしWikiに全部書いてあるしなーという感じなので、流れだけ言うと、新治療を受けたアレックスは、暴力的な場面を思い描くだけで吐き気をもよおすようになり、大好きだったクラシックも聞けなくなりました。今まで傷つけてきた人間たちに利用され、復讐され、追い詰められてついには窓から飛び降り自殺を図ります。そして病院で目覚めた時には、また元の残忍な性格に戻ってしまっていたのです。ここに関しては管理社会のエゴや大人たちの策略が嫌なほど詰め込まれています。
そして最終章、またいつもの日々に戻ったアレックス、しかしどうも何をしていても退屈で、かつての仲間と再開し、子どもが生まれたことを聞き、自身も暴力から足を洗って、家族でも作ろう、しかしその生まれた子どももいつか暴力の道に進むだろう、それを俺は止めることはできない……という感じの結末でした。この最終章の部分は最初の出版で著者の意図に反して削られ、その版を元にしている関係で映画版にもこの最後のシーンは無いそうです。
なんか、「終わりっ!」っつってカーテンをシャッ!!って閉められた感じ。でもなんでしょう、大人になるって本当、こんな感じで悪人だろうが善人だろうが、不条理で平等に不完全のままなっていくようなつまらない「変異」にすぎないのかもしれないですね。
余談ですがこの本、ブックオフに売りに出す気でいたら、いつの間にかすげえ爪痕みたいなシワが何ページにも渡って入っていて、一瞬「アレックス、お前か……?」と思いました。たぶんもう売れないレベルですし、あんまり見たことないシワの寄り方で原因が分からないので、逆になんか感心してしまいました……。事実は小説より奇なりってやつですね。
アルトゥル・ショーペンハウアー著、鈴木芳子訳『読書について』
2013年、光文社古典新訳文庫
https://www.kotensinyaku.jp/books/book169/
確か大学の時に買ってそのままにしてた本ですね。「読書についてだし、哲学だけど薄くてこれならすぐ読めるやろ」と考えていた記憶はあるのですが、当時は面倒すぎて最初の「自分の頭で考える」の途中でもう諦めて放った気がします。全然自分の頭で考えてないやん。なので今回は、一番興味のある表題作「読書について」の賞から読み進めたらなんとか全部読めました。
最近友達に聞いて衝撃を受けたのですが、僕は「初見の本を途中から読む、拾い読みする」「巻数揃えない(途中から途中までしかない)」とかが本ッッッ当にできなくて、だからジョジョ5部も自分では持ってないんですよ。だから、「そうか本ってバラバラに読んでもどんな順番で読んでもいいのか……」とまさに金言を得たような気持ちで、3→1→2の順で読みました。まだ結構抵抗はあるのですが、少しずつそういう読み方もできたらいいなと思います。シオランの『生誕の災厄』とかな!(買ったはいいけどどこ開いてもマジで5回くらい読まんと何言ってんのか分からん)
内容としては、本当に目次に書いてあるとおりで、「自分の頭に考える」ことについての話、本の内容の善し悪しと間違った言葉遣いの指摘、読書に対してどう取り組むのがいいかといったような哲学書です。
哲学書といったら小難しく感じるかもしれませんが、まぁ実際難しいには難しいんですが、結構言いたいことはかなりハッキリと明示してくれてます。誤読を覚悟で僕なりに要約すると、
「本を読む時には、あらかじめ自分の中で論を確立させておいて、その論を強化するために文献に当たる姿勢を心がけろ」
「自分でたどり着いた答えではなく、本から得た知識をみだらに寄せ集めて書いた本は、先人の素晴らしい思想を改悪するクソ」
「言葉の作法を弁えずに文字数短縮しまくるせいで本来の意味で使えてない奴らが多すぎてクソ」
みたいなこと言ってました。たぶん。
そして要約で少し察してもらえたかもしれませんが、何がいいって、文体がものすごく鋭いんですよね。ウニみたいに気に入らないもの手当たり次第ぶっ刺していくスタイル。「ここまでボロクソ言うか!?」「フランス語嫌いなの!?」とある種痛快、または困惑という感じでめちゃくちゃ面白いです。この人の文章は喩えるならウニです。一方で、素晴らしいと思うものはしっかり褒めるので、強い光がビカビカ目に飛び込んでくる感じです。どっちにしろ触るものみな傷つけるギザギザハートみたいな文章。
上林暁著、山本善行撰『上林暁 傑作小説集 星を撒いた街』
2011年、夏葉社
https://honto.jp/netstore/pd-book_03428055.html
Twitterで紹介されていて気になった本。近くの図書館に所蔵されていたので、借りて読みました。前々から上林暁という名前だけは知っていて、気にはなっていたんですが、読んだことはありませんでした。
収録作品は以下の通り。(「花の精」「和日庵」「青春自画像」「病める魂」「晩春日記」「諷詠詩人」「星を撒いた街」の全七編)
紹介されていたとおり、とても装丁が綺麗で、布張りの山吹色にクリーム色の紙が柔らかく輝いているようで、これ図書館蔵でビニールがかかってなければ、手触りも楽しかっただろうなあ……と思いました。あと、関係ないけど本名が「徳廣巖城(とくひろいわき)」らしく、なんか「凄まじく強そう……」と思いました。
朴訥とした文章で、変な話かもしれませんが、作家名である「上林暁」、表題作となっている「星を撒いた街」、どちらの雰囲気にもしっくりくるような静かな空気感だったなあと思います。いろんな本の感想を書くたびにいってるような気もしますが、僕はこういう、寂しいような冷たさの中に、指先だけで感じる暖かさのような、そういう静かで、柔らかい文章の物語が好きなのですよ。個人的には、「病める魂」「諷詠詩人」「星を撒いた街」が好きでした。明治から昭和初期の文学って、こういう薄い退廃や、緩やかな破滅が漂っている感じがしていいですよね。
その他、9~12月に読んだ本
以下、読んだ本を羅列だけしておきます。読んで特に好きだった本は星をつけています。
そもそもが読みすぎ。
【9月】
・ゆうきゆう『眠れなくなるほど面白い図解ストレスの話』2021年、日本文芸社
・赤根彰子『じっせんこころのヨーガ』2014年、アノニマ・スタジオ
☆E.B.ホワイト著、G.ウィリアム絵、鈴木哲子訳『シャーロットのおくりもの』1973年(1952年初出)、法政大学出版局
【10月】
・中原中也の会他編「中原中也研究 No.25」2020年、中原中也記念館
・木下夕爾『ひばりのす』1998年、地方・小出版流通センター
・白取春彦『仏道に学ぶ 心の修め方』2017年、ディスカヴァー・トゥエンティワン
・多田多恵子著、大作晃一写真『美しき小さな雑草の花図鑑』2018年、山と渓谷社
☆佐藤友哉著、篠月しのぶ絵『転生!太宰治2 芥川賞が、ほしいのです』2019年、星海社FICTIONS
☆佐藤友哉著、篠月しのぶ絵『転生!太宰治3 コロナで、グッド・バイ』2021年、星海社FICTIONS
【11月】
・福井県立図書館『100万回死んだねこ 覚え違いタイトル集』2021年、講談社
☆ユン・ホンギュン著、岡崎暢子訳『どうかご自愛ください』2021年、ダイヤモンド社
☆コロナブックス編集部『作家のおやつ』2009年、平凡社
・アンゲラ・ゾンマー・ボーデンブルク著、川西芙沙訳『リトルバンパイア(1)リュディガーとアントン』2005年、くもん出版
☆古内一絵『マカン・マラン』2015年、中央公論新社
・土井善晴『一汁一菜でよいという提案』2016年、グラフィック社
【12月】
☆山折哲雄、吉田司『デクノボー宮沢賢治の叫び』2010年、朝日新聞出版
・湯澤ひかり編『やめる』2021年、工房くろめ
・吉田隼人『死にたいのに死ねないので本を読む』2021年、草思社
・パリッコ、スズキナオ他『のみタイム 1杯目 家飲みを楽しむ100のアイデア』2020年、スタンド・ブックス