2020年10月 読書リレー
もはや2か月ごとの更新になりつつあります。申し訳ない。自分に。
最近ぐっと冷え込んできていて、今年も例にもれず元気に体調を崩しています。
皆さんも、暖かくして、お体にお気をつけて。
アーネスト・ヘミングウェイ著、高見浩訳『老人と海』2020年(1952年初出)、新潮文庫
https://www.amazon.co.jp/dp/B08BL4XSKJ/ref=cm_sw_r_tw_dp_x_fPk2FbJ2WYPV8
言わずと知れたヘミングウェイの代表作。薄いし、新カバーが綺麗で、この機会に読んでみようかと買いました。ヘミングウェイ自体、あの「酔っ払って牢屋にぶち込まれた時の写真」が大好きで人となりと作品共々気になってたんですよね。
不漁続きの老漁師が、たった一人で漁に出た際、一匹の巨大カジキを巡って死闘を繰り広げる話。
作品全体が、老境の悲観的で倦怠感の圧しかかるような雰囲気に満ちていて、確かに主人公の人生の終わりや落ちぶれきった空気を感じさせるのですが、ただ、この老人とんでもなく強い。メンタルも体も剛健さが半端じゃない。漁師というより、何度も死線をくぐり抜けた軍人みたいな物言いです。
決して心は折れないのに、諦めないのに、「ここで散るなら本望だ」という老人の覚悟が筆致に滲み出ていて、悲しい、切ないのに、溢れるくらいの希望に満ちた不思議な作品でした。面白かった。
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横溝正史『血蝙蝠』2020年、角川文庫
https://www.amazon.co.jp/dp/4041092981/ref=cm_sw_r_tw_dp_x_OQk2Fb0SQCFXN
本屋で見つけて、「復刊」「短編集」の文言につられて手に取った本。横溝正史は好きなんですが、いかんせん登場人物大体苗字一緒だったりするので、長編だとごっちゃになりやすくて、読むの時間かかるんですよね……。
横溝といえば田舎の村社会を舞台にしたミステリのイメージですが、この短編集はミステリだけでなくSF作品も収録された一風変わった短編集です。収録作品は、全9編。読んだ印象では、金田一耕助シリーズよりはライトな内容かな? まあ人は死ぬんですけど。
現代作品で読んだことがないので一概には言えませんが、短編のミステリの、この独特の展開のテンポの良さ、そこはかとなくジョジョみを感じるのは、この時代の短編ミステリの特徴だったりするんですかね? 乱歩作品も、短編はなんか推理に疾走感があった記憶があります。
いつだったか、このリレーかTwitterかで夢野久作の作品を「怪しげな紳士ががステージに立って大げさな身振り手振りを交えながら滔々と語る物語」みたいなことを言った気がしますが、横溝正史の作品はなんか、「活弁士」みたいなイメージです、勝手に。元々そこにある事件や物語に、やんややんや解説やら賑やかしを入れて盛り上げてくみたいな。当事者っぽくないんですよね。だからこそ、演出っぽさが癖になるというか。
個人的には、「花火から出た話」と「銀色の舞踏靴」「恋慕猿」が好きです。
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齋藤孝『太宰を読んだ人が迷い込む場所』2020年、PHP新書
https://www.amazon.co.jp/dp/4569846637/ref=cm_sw_r_tw_dp_x_vRk2FbMMCGN9W
職場のパートさんが「これ持ってる? 読んだ? え、持ってないの? じゃあ先に貸してあげる!」と半ば強引に貸してくれた本。彼女は、僕が太宰さん・中原さん関連の書籍は大体持ってると思い込んでる節があります。そんなわけがない、どんだけ出てると思てんねん。
太宰作品がこれほどまでに愛される、読んだ人に「この作品は自分と同じだ」と錯覚させる、その理由、そこに至る要素をカテゴリに分け、多くの作品から分析していく評論。
言うて私も評論や論文をそんなに数多く読んでるわけではないのですが、ここまで多くの作品を網羅して言及してる文章はそう多くはないんじゃないでしょうか。読みながら「ああこの作品は読んだ」「これ知らないなあ」と、まだまだ読んでない作品があることを再確認させられました。
惜しむらくは、取り扱う作品数が多いせいか、途中で息切れというか、掘り下げが薄い引用も多くなってきてた気がすることですね。いや、そうなる気持ちは痛いほど分かるんですけど! 私も、卒論なんてひどいだろうから未だに読み返せてないですし。
ただ、本当に普段取り扱わない作品なんかも引用されてるので、太宰作品のとっかかり的にはすごくいい本だと思います。またいろいろ読まなきゃなあ。
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斎藤光『幻の「カフェー」時代』2020年、淡交社
https://www.amazon.co.jp/dp/4473044114/ref=cm_sw_r_tw_dp_x_WRk2FbZZQESG9
本屋の新刊コーナーで見つけ、最近出た本にしては内容渋いなあと手に取ったら、刊行日が未来(買った日の翌々日くらい)というゴリゴリの新刊書でびっくりした本。
京都のカフェーを中心に、日本でのカフェーの勃興から衰退までを豊富な資料の提示で紹介していく専門書。当時の写真やポスターなど、図もたくさん載ってます。
内容は、ある程度当時の「カフェー」というものについて知ってる人向けに書かれている印象でした。まあ、「コーヒーや食事だけじゃなくダンスや社交を楽しめる場所。女給さんがいて、最後らへんはちょっとエッチな店も出てきて問題視されたよ」ぐらいの認識があれば楽しめると思います。実在したカフェーの場所とかも明らかにされていて、「今も当時の建物が残っている」とか「今は○○になっている」とか、本当に現代と繋がる世界の話だったんだなあとワクワクしました。カフェーだけじゃなく、当時の時勢も一緒に伺うことができる一冊でした。
暁佳奈『ヴァイオレット・エヴァーガーデン下』2016年、KAエスマ文庫
https://kyoanishop.com/shopdetail/000000001048/
前に上だけ買って、下巻を買いに行こうとしたらシリーズがごっそり棚から消えていて買っておかなかったことを後悔した作品。公式ショップでも品切れで、こないだダメ元で最寄りの取扱店舗をうろついていたら下巻だけめっちゃ平積みされてて「あるやんけ!!」と二度見しました。ようやくゲット。
「自動手記人形(オート・メモリーズ・ドール)」と呼ばれる代筆業(主に手紙)に就いた元軍人・ヴァイオレットの物語。依頼さえあれば、ヴァイオレットは辺境だろうと戦場だろうと地下牢だろうと、「どこでも駆けつけます」。
上巻が主にヴァイオレットが代筆業務に勤しむ様子を描いた連作集だったのに対し、下巻はヴァイオレットと彼女のかつての主人・ギルベルト少佐についての話になってます。アニメは見たことないのでどんな感じなのか知らないですが、原作小説と映画では、全然展開が違います。僕が思うに、映画版は「ヴァイオレットが軍人であることを完全に過去のこととして受け入れて暮らしている世界線」の話で、小説版は「まだ軍人であること、少佐の「道具」であることを捨て切れていない世界線」の話なのかな、と。改変というよりかは、パラレルワールドのように感じました。映画→原作の流れで履修したせいもあるかもしれませんが。
基本的に、メディア化した作品は原作好きで映画やドラマを見るよりも、映画やドラマから興味を持って原作に手を出した方が平和に楽しめると思ってます、個人的には。だから僕は好きな作品が映画化されたら、基本見に行かないスタンス。
個人的には、原作の展開の方がより好みですかね。戦闘描写もかっこいいですし。最後の方は少年マンガ並みに激アツ!
外伝、エバー・アフターも、読むのが楽しみです。
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エラ・フランシス・サンダース著、前田まゆみ訳『翻訳できない世界のことば』
https://www.amazon.co.jp/dp/4422701045/ref=cm_sw_r_tw_dp_x_TUk2FbSNBG9SF
かなり長い間、ずっと本屋の目立つところに置かれてる本ですよね。言語学の分野には全然明るくないのですが、いろんな国の言語やその訳し方には興味があります。
世界各国の、「一言では表せないその国特有のことば」に焦点を当て、絵本仕立てにして紹介している本。いくつか日本のことばも載っています。
「こんな限定的なこと一言で言い表すの?」とか、「こんな複雑なことこの一単語で表せるの?」とか、驚きがたくさんあります。でも、僕ら日本人にとってはそういう認識でも、その言語の国の人からすれば、頻繁に使うことば、表現なのかもしれないなあと考え直し、文化の違いに思いを馳せてみたり。普段触れることのない言語がたくさん載ってるので、声に出して読んでみるのも楽しいです。絶対発音違うけど。
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温又柔ほか著、長崎訓子絵『本にまつわる世界のことば』2019年、創元社
https://www.amazon.co.jp/dp/4422701215/ref=cm_sw_r_tw_dp_x_xVk2Fb44NQH3V
『翻訳できない世界のことば』に関連して、そういやまだじっくり読んでなかったなと開いた本。
「本」に関する各国のことばを、それを題材に書かれたショートストーリーやエッセイと共に紹介していく絵本仕立ての本。日本の「積ん読」も紹介されてます。
読んでて思ったのは、やっぱりいろんな国で「本を愛する人」「本をむさぼり読む人」に関することばが存在するんだなあ……ということ。どこにでもいるんですね、本の虫は。でも、各国で表現のされ方というか、喩えに出される物や動物がまったく違うので面白いです。 翻訳できない方とも併せて、なんか創作で使えないかなー! と思いながら楽しく読めました。
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11月への繰り越し本は、
バーナビー・コンラッド三世著、浜本隆三訳『アブサンの文化史』2016年、白水社
あまりの分厚さに「読めるんかな……」と思いながらも買った本ですが、面白かったです。詳しくは、また次の記事で。
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