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2020年12月 読書リレー

 年間目標60冊、少し厳しいかなーと思っていて、また一昨年みたいにうたらばとかのすぐ読める作品の駆け込み読書になるかなあなんて思っていたのですが、なんだかんだ結構読んでて、無事達成できましたね。仕事への現実逃避かな。

ポール・マリー・ヴェルレーヌ著、堀口大學訳『ヴェルレーヌ詩集』2007年(1950年初出)、新潮文庫
https://www.amazon.co.jp/dp/4102171010/ref=cm_sw_r_tw_dp_YEGD3Z1PKAM1YR325J8V

 11月分に紹介した『アブサンの文化史』から、アブサン繋がりで読もうと思ってた詩集。というのも、この文庫、表紙がもろアブサングラスのイラストなんですよね。へへ。
 フランスの詩人ヴェルレーヌの作品から、第一詩集『土星の子の歌』をはじめとする数々の詩集から、「詩人の永遠の魂の歌」を網羅しているとのことです。訳者は、かの有名な堀口大學。解説も堀口さんが書かれてます。
 この詩集、時々本文の下に堀口さんの注釈があるのですが、なんか、時代的なものもあるのかもしれませんが、他のよく見る注釈とは違って、なんとも詩的でヴェルレーヌへの賞賛に満ちていて面白いです。
 あとがきも、単行本、文庫版、第15刷、第34刷の折に書かれているのですが、そのたびに「これをもって『ヴェルレーヌ詩集』の定本としたい」とあって、なんか、それを見て、詩人への愛を感じるとともに、ああ、こうやって、その時その時確かに研究は進められてきたんだなあということが感じられて、妙にうれしかったです。本当に、強い情熱を惜しみなく注いで作られた訳詩集なんだなあ、と。
 なんか、ヴェルレーヌ詩そのものよりも、文章から滲み出る堀口さんの情熱の方ばかり印象に残ってしまいました。またしばらくしたら、読み返してみようかなあと思います。

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小林賢太郎『短篇集こばなしけんたろう』2019年、幻冬舎
https://www.amazon.co.jp/dp/4344034295/ref=cm_sw_r_tw_dp_2SC3H9ZGVQKZD9HZ3F75

 コバケン引退のニュースが流れてきて、いても立ってもいられず、文庫版の戯曲集全巻と一緒に買った本。今更、とも思ったのですが、ずっと買い揃えようかどうか、迷っていたのです。
 いやぁなんか、自分でもびっくりするほど、ショックでしたね……傲慢ですが、最後までずっとそこに、表舞台に立っていてくれる人だろうと、思い込んでおりました。裏方は続けられるそうなので、こういった文章作品の執筆をやめるというわけではないのでしょうが……なんでしょうかね、やっぱり、寂しいです。
 タイトルからふふってなってしまうのですが、文字通り、短編やごく短い小話が詰まった本です。普通の短編だったり、替え歌だったり、会話文だったり、原稿用紙だったり、辞書のような構成だったりと、本当にさまざまな形の話が収められています。
 僕は特に「セルフポートレートワールド」「D氏を待ちながら」「ぬけぬけと嘘かるた」が好きです。ラーメンズのコントでもそうですが、ボケ倒しのゆるい温度感というか、ふわーっと漂ってくるシュールさが魅力なんですよね。上手く言えないんですけど。緻密に計算された笑い、という感じがします。
 でもなんか、どうも、小林さんの作る話の魅力ってどうも口で説明しにくいですね。なーんか、ゆるくて、心地よいんですよ。読んでください。

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坂木司『鶏小説集』2020年(2017年初出)、角川文庫
https://www.amazon.co.jp/dp/4041093074/ref=cm_sw_r_tw_dp_NVFBAYEBX524F12421JQ

 だいぶ前に、友達に面白かったと勧められていた本。去年の6月、新刊コーナーに文庫化されたものを見かけたので買っていたものです。
 鶏肉をテーマにした短編集。家族との違和感に苛立つ二人の男子の友情話、息子を好きになれない父親の話、クリスマスのコンビニ店員の話、男子中学生の青春話、他人に対する怒り恨みを作品に叩きつけ続けるマンガ家の話、の群像劇的な5編です。前作には、豚肉をテーマにした『肉小説集』があります。
 最近強く自覚したのですが、僕は鶏肉料理、特に揚げた鶏に目がないらしいです。定食屋に行くと、かなりの確率でチキン南蛮とか唐揚げに走ります。
 それもあって、すごく楽しく読めました。鶏肉をテーマ、といっても、グルメ作品のように料理がメインでめちゃくちゃおいしそうな筆致で書かれているというわけではなく、コンビニのチキンやもも焼き、手羽先、鶏ハムなどの料理が、あくまでもそれぞれの物語に付き添う要素として、日常のものとして、登場するのです。
 それぞれの主人公5人は、年齢も立場も違い、繋がりもあるかないかのような関係性ですが、それぞれで起こった出来事がさらっと触れられてたり、それぞれの舞台が一瞬重なったりして、同じ地域の地続きの世界で起こっている物語なんだなあというのを強く感じさせられます。そこに「鶏肉」という一つのテーマが、一本の芯となって各作品をまとめ上げている印象でした。
 いつも、短編集や詩歌集の時には、特にこれが好き、っていうのを書いてると思うのですが、この短編集は全編通しで読んでこその魅力って感じがしますね。全部好きでした。また今度、『肉小説集』の方も読んでみたいなと思います。

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チョーヒカル絵、森乃おと文『絶滅生物図誌』2018年、雷鳥社
https://www.amazon.co.jp/dp/4844137093/ref=cm_sw_r_tw_dp_C9NXWB09SDJD86GW8R67

 前に地元の図書館で借りて、返却期限になってギリギリでパラ見して返したものの、コラムの中の一つが最高にイカレてて、ずっとじっくり読み返したかった本。いつもお風呂入ってる時に読むので、風呂場に持ち込めない図書館の本は、なかなか期限中に読破できないんですよね……。
 古代から近代まで、絶滅していった生物を「水の生き物」「有翼の生き物」「陸の生き物」に分けて紹介している本。その後に、前述のコラム集の章があり、その中に「絶滅生物の料理レシピ」「絶滅生物のファッション雑貨」というのがあります。「グアムオオコウモリのスープ」「チチカカオレスティア寿司」「ブルーバックの革ジャケット」など、もし絶滅生物を使用したら、という架空の料理や製品の説明がなされています。ここだけ文章もチョーヒカルさんが書かれているのですが、なかなかにブッ飛んでて好きです。
 僕は前々から知らない生物の話が大好きで、僕の実家はほぼ全部の部屋に本が置いてあるような家だったのですが、学生の頃、なぜかダイニングに置いてあった『へんないきもの』シリーズを何度も繰り返し読んでいました。
 説明文が流れるような文体で、それでいて分かりやすくて、絶滅生物のロマンによくマッチしてるなあと思います。そして絵も綺麗。チョーヒカルさんによる「はじめに」にもあるように、「絶滅生物に会いに来る気持ちで」読める図鑑だなあと思います。
 絶滅生物、特に古生物って、めちゃくちゃでかかったり、変な姿形してたりで面白いんですよね。こんなんが実在してたのかと思うと、もうなんか、「神様の試行錯誤時期」に思えて、堪らないです。みんなハマろう生物。

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最果タヒ『夜景座生まれ』2020年、新潮社
https://www.amazon.co.jp/dp/4103538112/ref=cm_sw_r_tw_dp_T6SR5M6EJDNQBK62KZTW

 最果さんの新刊。帯の「第八詩集」って文字で驚いて、そんなに出てたっけと頭の中で数えてみたけどちゃんと全部持ってました。ときのながれはこわいね。
 最果さんの詩についてはもうかなり言い尽くした感があるのでさて何を書こうという感じなのですが、思えば僕が現代詩人で全詩集揃えてるのって、まだ最果さんだけなんですよね。本屋や図書館に行くたびに、そこの詩集を物色して、気になる本見慣れない本はぱらぱら見てみるんですが、なかなかどうにも刺さらなくて。
 僕の偏見なのかもしれないですが、現代詩って、生活や男女の愛とか、戦争とか、そういう生々しい題材を分かりやすく前面に押し出したものが多い気がして、そういうのが僕は苦手なんですよね。「あなたが好き」とか、「戦争はいけない」とか、そんなの、わざわざ詩の言葉に乗せなくたって、肯定してもらえる感情じゃないですか。もちろんそういう詩の中でも好きな作品はありますが(というか中原さんも「嬰児」という、赤ちゃんにデレッデレの詩を書いてますし)、そういう詩しか書いてないような詩人は、どうも、個人的には苦手です。というか、羨ましいんでしょうね。僕自身は、僕の醜い部分を正当化するために、綺麗に飾り立てて詩の言葉に乗せてるので。
 最果さんは、結構世俗的な単語が出てきたり、愛とか恋とかそういうテーマの詩が多かったりするのですが、肉感がないのが僕には合ってるんでしょうね。透明感が強いというか。
 余談ですが、いつも巻末に載ってる初出リストに、「ネット」の文字が多いところも、なんか本当に「現代」って感じがするなあと思います。そろそろ「現代詩」の意味する詩の題材や形態も、代替わりし始めてるんですかね。なんて思ったり。

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カシワイ『ひとりの夜のあなたと話したい10のこと』2020年、大和書房
https://www.amazon.co.jp/dp/4479671110/ref=cm_sw_r_tw_dp_3C95D3SC46DGW40X3BAK

 表紙、タイトル、帯の文句すべてに惹かれて買った本。
 イラストレーターであるカシワイさんが、「同じ空を見ているかもしれないあなた」に向けて贈る、イラストとともに綴られた短編集です。
 「夜」をテーマにした作品は世に数多くありますが、「夜」を冠したタイトルの作品には、結構な確率でエロスやら猟奇やら退廃腐敗が付随してくるように思います。そういう場所のルポルタージュとかね。
 僕は夜という概念が好きですが、浸りたいのはそういう要素じゃないんです。もっと純粋な、夜という時間軸そのものの空気、雰囲気、暗がりが好きなのです。肉感から取り残され、孤独に満たされた、それこそ「ひとりの夜」。
 そういう点において、この本は本当に解釈一致というか、ページをめくるたびに「あ~~~~好き~~~」というもうマジで語彙力ないな自分。日常である昼とは切り離されたような私的な時空で、思考を遠くまで飛ばして。世界は繋がってるんだけど、そのくせ取り残されたような寂しさに支配されているような。淡い青と黒の二色刷なのも、とてもこの作品の雰囲気に合ってて好きです。夜とはいっても深い青じゃなくて、淡い青なところが。
 文体もすごく優しくて、本当に、ひとり自分の部屋で、ふっと寂しくなった時に開きたい本です。

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 1月への繰り越し本はありません。読み納めですね。
 今年も(書いてる時はもう去年ですが)お世話になりました。

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