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2020年7月 読書リレー

 ここ二、三週間くらい、35度越えの日が続き、しかも盆商戦のクソ忙しいタイミングで作業場フライヤー側のエアコンがぶっ壊れる(そしていまだ直ってない)という、「僕が何したって言うんや」と嘆かざるを得ない日々を過ごしていました。
 皆さんも、夏バテにお気をつけて。きっと、来月もまだまだ暑いでしょうから。
 今までのモーメントはこれ↓
https://twitter.com/i/moments/995558573286477824

●横溝正史『八つ墓村』1971年(1950年初出)、角川文庫
https://www.amazon.co.jp/dp/4041304016/ref=cm_sw_r_cp_apa_i_cfkrFbVV2XNV1

横溝作品で「犬神家の一族」に次いで有名な作品なんじゃないでしょうか。岡山が舞台というのもあって僕もずっと読みたくて、「でも家に置いとくの怖いな~」とか思ってずっと手に入れてなかったんですけど、ある日ふと「乱歩作品並べてる家で何が怖いねん」と思い直し購入。
 過去の恐ろしい言い伝えから「八つ墓村」と呼ばれる村で、再び凄惨な事件が起こった。その犯人の名は、田治見要蔵。
 主人公の寺田辰弥は天涯孤独の身で、貧しいながらも平凡な生活を送っていたが、ある日聞いていたラジオから、自分の身寄りが自分の行方を探していることを知る。自分の父が田治見要蔵であること、また自分が田治見家の跡取りであったことを知った辰弥は、八つ墓村を訪れ、田治見家の屋敷で暮らすことになる。その生活の中で、村の人間が次々と不可解な死を遂げていき、その疑いは辰弥に向くことになる……。
 一言でいえば、めっっっっちゃくちゃ面白かったです。横溝作品は、大学時代に『本陣殺人事件』『悪霊島』を読んでて、それも面白かったのですが、それをはるかに上回るくらい面白かった。まさか、あんなに王道ミステリの、ドラマチックな冒険譚だとは思わなかったんです……。
 元になった事件が事件なので(要蔵が起こした事件は、1938年の「津山事件」ほぼそのまま)、もっと後半に一気に村中血みどろ! 犯人発覚! みたいな感じだと勝手に思ってたのですが、「村人が一人ずつ毒殺or絞殺されていく」という、本当に王道推理小説の原点みたいな物語なんだなあと驚いたり。横溝作品特有の、閉鎖的な田舎の因習や血縁の因縁も描かれながら、村の下に広がる大鍾乳洞での逃走劇、と、動と静の目まぐるしさにものすごく惹き込まれます。
 横溝作品は登場人物ほとんどみんな苗字一緒、みたいな感じなので、誰が誰だっけ……となりやすくて読むのに時間かかるのですが、犬神家の一族もまたいつか読んでみたいな。
 あ、あとこれは余談ですが、田治見家の有権者である小竹様・小梅様という双子の老婆がいるのですが、この二人「ゼルダの伝説」シリーズに出てくる、ツインローバの元ネタらしいですね。言われてみれば確かに、名前まんまだったわ。
 ……今考えると、「ツインローバ」って名前、本当に身も蓋もないな。

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●斜線堂有紀『夏の終わりに君が死ねば完璧だったから』2019年、メディアワークス文庫
https://www.amazon.co.jp/dp/4049125838/ref=cm_sw_r_cp_apa_i_dikrFbJBTYBV8

 前に『私が大好きな小説家を殺すまで』を読んで、すごく面白かったので、それを読み終わってすぐくらいの時に買ってた本。今思えば、夏の終わり頃に読めばよかったのかな……
 他から隔絶された片田舎である昴台に住む少年・江都日向は、家庭環境の問題もあり、将来に希望を見いだせないまま、日々を過ごしていた。しかしある日、とある病気のため昴台に建てられた療養所「昴台サナトリウム」の側を通ったことをきっかけに、サナトリウムに入院する患者・津村弥子に出会う。彼女は「金塊病」と呼ばれる、体が少しずつ金塊に変わっていく不治の病に侵されていた。そして彼女は、死後三億で売れるという「自分」の体を相続する、という話を江都に持ちかける。ただし、「チェッカー、というゲームで一度でも彼女を負かす」という相続する条件を提示して。
 すごく、いい話でした……僕は、本当こういう話に弱いのです。「終わってしまった」人たちが、つかみ取る幸せが好きなのです。自分の死なり、最愛の人との避けられない別れなり、初めから破滅を運命づけられて、未来を諦めきった人たちが、それでも諦めきれずに足搔いて出会って、最後に穏やかでとんでもなく幸せな日々を送るのが、大好きなんです。三秋縋さんの作品とか、そういう傾向顕著だと思うんですが、それ以外でそういう内容のおすすめは、天沢夏月『七月のテロメアが尽きるまで』『八月の終わりは、きっと世界の終わりに似ている。』、額賀澪『さよならクリームソーダ』、あと初めに言った『私が大好きな小説家を殺すまで』も、そういう雰囲気です。
 たといその人の死がどんなに悲惨なものでも、少しでも、その人が幸せだと感じてくれたなら、いいなあと、思います。大切な人には、幸せになってほしいですよね。綺麗事なんかじゃなく。

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●川上和人『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』2017年、新潮社
https://www.amazon.co.jp/dp/4103509112/ref=cm_sw_r_cp_apa_i_yikrFbQ82S2BS

 前の二冊面白かったんですが、「あまりに人の死に触れすぎた」と思ったので、一度小説から離れて気になってた本を。単行本を買った数日後、新刊コーナーにて同じ装丁で文庫版が出ているのを見つけて膝から崩れ落ちるという。……いや、全然いいんですけど、やっぱり文庫の方が本棚圧迫しないので……。
 鳥類学者の作者が、小笠原諸島を拠点にやってきた調査のリアルを綴った専門的なエッセイ。生態や研究結果など専門的な話の他に、調査中巨大な蛾が耳に飛び込んできて、必死に病院の戸を叩く羽目になったり、無人島に泳いで上陸したり……。環境保全のために、増えすぎたネズミの駆除に明け暮れたり……「学者」という響きのイメージとはかけ離れた、過酷な日々の記録が収められています。
 いやあ……めちゃくちゃ面白いんですよ……(そればっか言ってる)たぶん、目次を見てもらうだけでわかると思うんですけど、言葉選びが面白すぎる。専門書なのに、ものすごく読みやすいです。読み口としては、朝井リョウさんや穂村弘さんのエッセイと似た雰囲気。
 やっぱりタイトルがキャッチ―だと思うのですが、読んでて「いや、めっちゃ好きじゃん! 少なくとも作者さんはめっちゃ鳥好きじゃん!」と思うなどしました。そういう意味ではタイトル詐欺かもしんない。でもそんなの関係ないくらい面白い。たぶん、タイトルに惹かれて買った人でも、このユニークな筆致とタイトルの雰囲気が合ってるから問題はないと思います。
 だいぶ前に買った『バッタを倒しにアフリカへ』も読まなきゃなあ……と思ってるのですが、本当、生物学の分野のエッセイって面白いんだなあと思いました。……まぁほんの一部なのかもしれないけど。
 この本好きな人には、コーディー・キャシディー、ポール・ドハティー著、梶山あゆみ訳『とんでもない死に方の科学』もおすすめです。超面白いよ。

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 8月への繰り越し本は、
村上春樹『一人称単数』2020年、文藝春秋

 装丁の綺麗さに惹かれて買った本。
 なんとか更新追いつきましたね。来月こそ、早めに上げたいなあと思います。

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