2021年7月 読書リレー
最近、ぐっと冷え込みましたね。立冬、とはよく言ったものです。
そんな時期に、夏の盛りの頃に読んだ本の感想を垂れ流そうという体たらくです。本当に意志が弱くて情けない限り。
写真は実家のフェレットとお父(の手)です。
赤田秀子『イーハトーブ・ガーデン』
2013年、コールサック社
http://www.coal-sack.com/syosekis/view/1252/1252
確か、以前に東京にあるライブラリーバー「十誡」の公式Twitterアカウントで紹介されていて、興味を持った本。ちょうどよく行く図書館に所蔵されているということを知ったので、読んできました。
宮沢賢治作品に登場する植物、特に野草や樹木にフォーカスを当てて、写真とともに解説をしている本です。写真が綺麗。素朴な良さがあります。
賢治さんの文章の引用と、小さな野草の接写が合わさっててすごく優しい印象。こないだ読んだ『美しき小さな雑草の花図鑑』(詳しくはで紹介します)でもそうでしたが、本当に小さかったり地味だったりして、普段は気にも留めない植物の、改めて接写で気づく美しさ足るや。やっぱり賢治さんは、ものすごく丁寧で細やかな人だなあと思いました。科学知識といい、賢治さんはやっぱり、「実際」に根ざした人。世界を作るために、微細なところに目を向けて拘る人だと思います。そのリアルさと、ファンタジーの融合が、やっぱり最大の魅力だと感じますね。
最後に本書中の文章について少し触れると、「賢治さんはヤマツツジを嫌っていた」というのがヤマツツジの項で述べられていたのですが、作中のそういった描写に対して、著者の「ちょっとひどいと思う」という一文があって微笑ましかったです。かわいいな。
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木下達也『きみを嫌いな奴はクズだよ』
2016年、書肆侃侃房
http://www.kankanbou.com/books/tanka/gendai/0228
岡野大嗣さんとの共著『玄関ののぞき穴から差してくる光のように生まれたはずだ』から好きになった木下達也さんの個人歌集。デビュー作の『つむじ風、ここにあります』の方は、詩歌コーナーが充実している本屋ならどこでも見かけるような気がするんですが、こちらはかなりいろんな本屋で探して見つけた記憶があります。実はまだデビュー作の方を読んでいないのですが、まぁいつでも買えるしな……という気持ちと、やっぱりこちらのタイトルがセンセーショナルで気になったというのがあります。
共著の方では、(身も蓋もない言い方をすると)エモい歌が多かったと思うのですが、こちらの歌集は結構言葉遊びや、おかしみのある歌が多く収録されている印象でした。僕は二階堂ふみの歌とドラえもんの歌が特にふふってなりました。木下さんは、エモかったり面白かったりする中でたまにものすごい鋭い言葉で刺してくる歌があって、そこもとても魅力だと思います。
余談ですが、帯には、クリープハイプの尾崎世界観さんが「この歌集は余白ばかりで、言葉が寂しそうだ」と書いていて、「確かにそうかも知れん」という気持ちと「それ言ったらいかんやろ……」という疑問が同時に来てしまいました。1ページに1首の構成なので、余白が多いってのは確かにその通りなんですが、歌集や句集は一つ一つが短いからこそ間の取り方って大事で、絵に対して額縁いらないって言ってるようなものだと思うんですよね。続く言葉で、アーティストであるこの人なりに最大の賛辞なんだろうなというのは分かるんですがね。
音楽と韻文って親和性は高くて、詩歌に曲をつけるようなアプローチの仕方も、面白いなあと楽しむ気持ちもあるんですが、やっぱり詩歌はそれ単体で完成されたもの、という意識は皆に浸透するといいなあと思うのです。なーんか、音楽に昇華!親しみやすく!みたいな気持ちが透けて見えると嫌だなあというか、すぐ小説やマンガを原作にする昨今の映画やドラマに通じるものがあるというか……なーんかモヤモヤするよなあ、というふわっとした批判に留めておきます。石投げないでください。
せっかくなのでもう一つ余談を話すと、カバー袖の著者近影がめちゃくちゃ気取っててかっこいい&楽しそうなので、ちょっとそれだけでも見てほしいなと思います。なんかこんなキメキメの著者近影ってあんまり見ない気がする。
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鎌田紳爾『ふたりの修ちゃ』
2014年、未知谷
http://www.michitani.com/books/ISBN978-4-89642-435-5.html
図書館で見かけて気になった本。
太宰治(本名:津島修治)と寺山修司、二人の共通点を軸に、同郷である著者が論を展開していく、といった構成です。二人とも、青森県の弘前生まれらしく、そういや同県だなあぐらいしか知らなかったんですが、まさか地域まで一緒だとは思いませんでした。また二人とも、生涯津軽訛りが抜けなかったらしいです。
二人の作品から論じるというよりかは、二人の生活や言動、同時代人の証言などから、それも、津軽という地域に対してフォーカスされている印象でした。この本の説明文に、「同郷人ならではの一冊」と書かれているように、二人のルーツである土地をよく知る鎌田さんだからこその視点だなあと思います。
ずっと津軽と三沢(寺山修司記念館がある)に旅行に行きたいなあと思っていたのですが、あんまり今まで、この二人を結びつけて考えることはなかったなあと考え直すきっかけになりました。いやマジで今、この仕事をしていない今が一番チャンスなのですが、例のアレがコレのこのご時世に、さすがに1300km以上の移動はためらわれ……果たして死ぬまでに僕は東北旅行ができるのか……という心境です。津軽と花巻は行ってから死にたい。
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冨田伊織『[新世界]透明標本』
2009年、小学館
https://honto.jp/netstore/pd-book_03171108.html
http://shinsekai-th.com/ja/ 【公式サイト】
これも図書館で借りてきた本。
透明標本作家である著者が制作した透明標本(魚類・甲殻類・両生類・爬虫類・鳥類・哺乳類)を40点以上紹介している写真集です。
それぞれ「この個体はこうだからここが何色に染まっている」など丁寧に解説がされていて、同じ種類の生物でも個体差や作った時の状況(薬品の濃度や気温)によって染まり方が違うんだなあととても興味深かったです。基本的には軟骨が青、硬骨が赤に染まるらしく、あの色って作成者が出してるわけじゃなく、自然に色分けされるのか……!と衝撃を受けました。いやあ、化学や生物って、面白いですねぇ……。
こう言っては身も蓋もないですが、種別を問わず「死体」が苦手なもので、鮮魚コーナーの魚を丸まま売ってある区画も少し抵抗があるぐらいなのですが、こうしてみると生物の骨格って美しいなあと思うんですよね……。普通の標本も、写真で見る分には大丈夫なので、いつか恐怖より魅力の方が勝ればいいなあと思っています。国立科学博物館の蝶の標本がズラーッと並んでるところも、いつか見にいきたいので。
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伊藤絵美文、細川貂々絵『セルフケアの道具箱』
2020年、晶文社
https://www.shobunsha.co.jp/?p=5792
心身の調子がジェットコースターな毎日なので、自分で自分の機嫌がとれるようにならなきゃなあと思い手に取った本。
心理カウンセラーである著者が、今までのカウンセリング経験も活かして、メンタルの不調から回復するために「自分で自分を上手にケアする」方法をワーク形式で100個紹介しています。イラストを担当しているのは、『ツレがうつになりまして』でおなじみの細川貂々さんです。
全10章構成で、それぞれに10個ずつワークが示されているので、一つ一つがイラスト込みで2,3ページなのでとても読みやすいです。 貂々さんのイラストも程よくゆるいので、前書きにも書かれているとおり弱っていたり苦しんだりしていても読み進められるように配慮されているなあと思います。
個人的には、第1章の「グラウンディング(身体の力や重心を下に落とすようなイメージ)」というのがわりとびっくりするほど効果があったのでおすすめです。感情に飲み込まれそうになって苦しい時に、思い出して下半身に力を入れるよう意識してみると、確かに少し息がしやすくなる気がします。「思い出す」というのも、どうしようもない時に少し我に返る取っかかりができたなあと思います。
まぁ全部やらなくても、読んでみて最初は「こんな考え方があるのかー」とか「これいいかも」とか気になったものを試してみるのがいいと思います。「自分の苦しさを認めて受け入れる」という観念的なものから始まり、「手を使って身体をなでたり、トントンしたりする」「ちょっとした顔見知りを思い浮かべる」など具体的な行動も紹介されていて、一つ一つはそんなにハードルが高いものではないので始めやすいかと。精神が小学生なので、第6章の「うんこのワーク」でちょっとふふってなりました。
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8月への繰り越し本はありません。