2021年6月 読書リレー
今回はどれもとても好きな本でした。
魅力が上手く言葉にできねえ~~~もどかしい~~~とのたうち回りながら書いたのでなんかそういう雰囲気だけ察してください。
夏目漱石『こころ(改版)』
2004年(1914年初出)、新潮文庫
https://honto.jp/netstore/pd-book_02429899.html
https://www.aozora.gr.jp/cards/000148/files/773_14560.html【青空文庫版】
高校の授業で下(「先生と遺書」)だけを読み、大学の講義で読むように言われたものの上の途中で挫折し、満を持して通しで読んだ名作。以前はどうにも、漱石作品のリズムというか、クライマックスまでの展開の緩慢さが苦手だったんですよね。ぶっちゃけると飽きて投げ出したくなるというか。
主人公である大学生「私」が「先生」と出会い、その人を慕って家に出入りするうちに、先生の秘密を知ることになる話、というまとめ方でいいんでしょうか……?上・中・下の三章に分かれており、それぞれ「先生と私」「両親と私」「先生と遺書」という表題がつけられています。最初に触れたとおり、教科書などに載っているのは最後の「先生と遺書」だけだと思います。ちなみに、僕が持ってるのは2017年のプレミアムカバーのやつです。白地に青の箔押しが綺麗。
とりあえず最初に謝罪を申し上げたい。飽きるとか言ってすみませんでした。僕が浅慮だっただけです。
大学の頃から数年、もうアラサーであることに言い逃れができなくなってきたこの歳になってから読むと、この子細な、丁寧な文章がすべて、私と先生にとって大切な日々で、大切な描写だと気づかされます。自分でも驚くほど愛おしく、一文一文噛みしめながら読むことができました。大学の頃の方が、近代文学には親しんでいたはずなのに、こう素直に受け取ることができたのは、成熟した証拠なのか、単に歳を取ったせいなのか……。
それでも、これは本当に、良い作品でした。漱石は『坊ちゃん』と前期三部作(『三四郎』『それから』『門』)は読んだのですが、読んでみるとやっぱり『こころ』が一番好きですね。でも、なんだかんだいって前期三部作も好きです。いつかまた別の機会に語りたいですね……。
何が良いって、上・中であんなにも浮世的で高邁そうで、ある意味神聖だった「先生」が、下の独白の中では誰よりも「人間」なんですよね。疑いや、嫉妬や、慈悲に優越感、劣等感、恐怖、ありとあらゆる一人の人間としての感情が、丁寧に丁寧に綴られています。人間としての心の動きが、脈打つように語られています。この物語はもはや、私や先生といった人間の人生、どころではなく、人間の精神そのもの、それこそ「こころ」をそのまま落とし込んだような作品です。周りの情景描写すら、感情を具現化した結果のようです。本当に、この題名は、よくできています。もうなんかもう、読んだことない人は読んでくれ本当に(語彙)
あと、読んでから調べて知ったのですが、全文の朗読をされている方がいまして、この人の声がとても静かで穏やかで、それでもどこか温かみがあって作品の雰囲気に浸れるのでおすすめです。全編通すと軽く10時間超えますが。↓
https://www.youtube.com/watch?v=uPXpHYs7y3s
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吉田篤弘『神様のいる街』
2018年、夏葉社
https://www.amazon.co.jp/dp/4904816277
http://natsuhasha.com/kamisama/【公式ページ】
今度は軽めのものを、と思い、『こころ』を読み終わった日にながいひるで見つけて衝動買いしてしまった本。最近いつの間にやら吉田篤弘沼に気づいたら腰ぐらいまでどっぷり浸かっていました。
20歳だった著者がある深夜に一人で神戸へ向かった頃の話、専門学校時代に通った神保町の話、父親に頼んで作ってもらったメモパッドに書きつけられた処女作「ホテル・トロール・メモ」の話……そういった自伝的エッセイ、ですが短編集のように読める一冊です。なんかAmazonの書影だとめちゃくちゃ黄色いんですが、実際は公式とAmazonの中間みたいな生成りの色です(なんでどっちも色違うんだ)
吉田さんの文章の、静かな空気感が好きです。イメージカラーは、ごく薄い空色だと思います。淡くて、優しくて、少しだけひんやりして寂しい、そんな印象を受けます。最初に好きになったのが、『ブランケット・ブルームの星型乗車券』だったせいもあるかもしれません。本当に淡くてきれいなブルーなんですよね。
自伝的なエッセイということで、これまで読んできた作品のルーツのようなものに触れられるのかな、と思ったのですが、ルーツというよりは、それ自体が、吉田さんの作品の延長線上にあるかのような読み口でした。現実と夢にひたひた浸かって浮かんでいるような、現実に澄んだ薄青色の膜を通して見ているような、そんな雰囲気です。
最近本屋に行くと新刊コーナーによく吉田さんの本を見つけるので、うれしいやら迷うやらで複雑な気分です。とりあえず、買った本から、少しずつ世界に没入していこう。
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坂月さかな『坂月さかな作品集 プラネタリウム・ゴースト・トラベル』
2021年、パイインターナショナル
https://pie.co.jp/book/i/5487/
Instagramで作品がおすすめに流れてきた時から、ずっと好きなイラストレーターさんです。「もし店頭で見かけたら買おう」と決め、いつも行っている本屋の美術コーナーで二回目に見つけました。「あったからね、見つけちゃったからね、仕方ないね」と独りごちながら買いましたが当然ニッコニコでした。確信犯です。
長期間の仕事である「惑星084調査・文化保存任務」を終えて、休暇を取った主人公が宇宙を旅していく中で、立ち寄った星々の風景がマンガとイラスト(少し絵本形式)で綴られている作品集です。
坂月さんの作品の魅力は何といっても、その青色の鮮やかさと細やかな人工物の描写なんですよ。水に浮かんでいたり、窓からただ星空が見えたり、道が途方もなく長く伸びていたり、星の景色自体はとてもシンプルで、広大で、ともすれば世界の果てのような寂しさが漂っていて。それなのに、建物や乗り物など、人のいる場所はとても様々な雑貨が緻密に描かれていて、本当に宝箱のようです。線と色合いはとてもシンプルで洗練されているのに、小物の細やかさがとても好きです。あと光の描写が、カラーモノクロどちらも好きなんですよね。柔らかくて、でも確かに強く光っていて。
ストーリー自体も、おとぎ話のように幻想的で、イラストの雰囲気にとてもよく似合っています。いやあ……好きですね。読んでさらに坂月さんの世界観が好きになりました。
夜、一人で静かにゆったり読むのが似合う本です。
坂月さんの作品はこちらから。↓
https://potofu.me/sakatsuki-fish
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太宰治『ヴィヨンの妻(改版)』
2009年(1947年初出)、新潮文庫
https://www.shinchosha.co.jp/book/100603/
https://www.aozora.gr.jp/cards/000035/files/2253_14908.html【青空文庫版(表題作)】
また近代文学に返りたいと思いながら本棚を見つめていたところ、そういや代表作の一つなのにまだ読んでなかったなあと手に取った本。太宰さんは全集買おうかと思いながらも、新潮文庫の表紙が好きすぎてこちらで揃えることにしています。いいですよ、どれも。
太宰治の晩年に書かれた短編がまとめられた本。家庭にまつわる話が多いです。収録作品を列挙しておくと、「親友交歓」「トカトントン」「父」「母」「ヴィヨンの妻」「おさん」「家庭の幸福」「桜桃」。
さすがに太宰作品後期は陰鬱な作品が多いですね……。というか、「生活」とか「責務」といった重圧が強く訴えかけてくる作品ばかりに感じます。逃げ出したい、投げ出したいと思い、そうするものの、今度は逃げ出したことへの罪悪感と無力感、自己嫌悪、「世間の人々」と自分との落差をひしひし感じ、どうしようもない不安と焦燥に駆られ絡め取られるさまが「ここまで丁寧に書かなくてもよくないですか……」と思ってしまうくらい子細に描かれています。本当に、太宰さんは、裂いた胸の傷をさらに自ら開いて見せてくるような痛切で苛烈な作品を、繊細な筆致で残しているなあと感じます。あと本当に家庭人としては本ッ当に最低な人だな。こんなこと言ったら怒られますね。
僕は「トカトントン」が特に好きでして、なんでしょうね、何かを信じてずっと積み重ねてきたものが、全くの無駄であったような、すべてが空しい空洞のような気持ちっていうのは、本当に何もかも、投げ出したくなるような絶望ですよね。そういったものすごく深刻な心情っていうのが、「トカトントン」というとても軽快で小気味よい擬音で表現されるのが、本当にあの世界がひっくり返るような絶望感にぴったりだと思うのです。こういうのパラダイムシフトっていうんでしょうか(たぶん違う)
あとマジで関係ないんですけど「トカトントン」という文字列を見ると毎回「花子さんがきた!!」の怪人トンカラトンを思い出すんですよね。たぶん関連はないと思います。トンカラトンとイエーイ。
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7月への繰り越し本はありません。
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