2021年8月 読書リレー(後半)
8月分後半です。
あまりに書くのを溜めすぎたので、次の9~12月はまとめて数冊だけ紹介します。今年からは毎月頑張りたい……。
雨穴『変な家』
2021年、飛鳥新社
http://www.asukashinsha.co.jp/bookinfo/9784864108454.php
メインサイト、YouTubeともにいつも楽しませてもらっているオモコロのライター・雨穴さんが本を出した! とそれこそオモコロ記事で知って発売即買いに走りましたよね。めちゃくちゃ売れているらしく、いろんな書店で平積みされているのをよく見るので、ご存じの方も多いんじゃないでしょうか。
元の話はオモコロの記事として書かれたもので、オカルト専門のフリーライターである主人公が、知人から紹介された「変な間取り」の家の秘密を探っていく中で、徐々に恐ろしい真相へと誘われていく話です。ジャンル的にはサイコホラーになるんでしょうか。ネタバレになるのも何なので、具体的なことには触れません。
話の冒頭に提示され、表紙にも書かれている件の家の間取り図は、まぁ素人目には一見普通の家に見え、若干2階の構造に違和感があるかな? 程度のものなんですが、読み進めていくともう「そう」としか見えなくなっていく背筋の寒さが、今まで読んだことのないベクトルのホラー展開でとても面白かったです。
主人公や知人の憶測、家主や近隣住民の証言などから段々真相に近づいていくにつれ、民俗ホラー的な怖さがじわじわ増してきて、まさに「忍び寄る恐怖」という感じでした。「いかにも」な心霊スポットが舞台の話ももちろん怖いんですが、こういう、「今まで無害だと思って気にも留めていなかったものが、あるキッカケでとんでもなくおぞましいものだったと気づく」という狂気って、良いですよね(語彙力)
雨穴さんのWeb記事は、こういった民俗的空気を存分に吸えるものが多いので、そういったものが好きな人にとてもオススメです。この本の刊行後にも「中古住宅で発見された、不気味なビデオテープの正体」という間取りにまつわるホラー記事がアップされているので、ぜひ読んでみてください。
余談ですが、同じくオモコロライターの恐山さんが「著者近影に怪異そのものみたいな奴が載っているので笑ってしまう」というツイートをされてて笑いました。ほんまにそう。
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住宅顕信著、松林誠絵『ずぶぬれて犬ころ』
2002年、中央公論新社
https://www.amazon.co.jp/dp/4120032728/ref=cm_sw_r_tw_dp_D4MKP7CGXGQT16HER7YY
何のアカウントだったか……忘れてしまいましたが、Twitterで紹介されていて気になった本。たまたま近くの市立図書館に行く予定があり、そこに収蔵されていたので借りて読みました。著者が岡山生まれらしく、それで郷土コーナーにあったようです。
25歳で骨髄性白血病により夭逝した俳人・住宅顕信の自由律俳句を収めた俳画集。タイトルの「ずぶぬれて犬ころ」も彼の一句です。句作時期は2年8ヶ月、死の間際まで句を作り続けていたそうです。絵は松林誠さんという方の版画とのこと。
調べたところ、同名の映画にもなってるみたいですね。
とても素朴な句ばかりで、書かれた当時の境遇を知っているからかもしれませんが、全体に漂う気怠さ、退廃的、破滅的な予感も相まって一句一句が胸を打つ良い句集でした。その実直さに松林さんの柔らかい画風がとてもよく似合っています。僕は「気の抜けたサイダーが僕の人生」という一句が特に好きです。
自由律俳句というと僕はせきしろさんと又吉直樹さんの「カキフライが無いなら来なかった」等の作品群がイメージとして染みついているので、そういうシュールな良さではなく、こうした切々とした作品もあるのを目の当たりにして、本当に自由律俳句ってのは「一行に凝縮された詩情」なんだなあ……とつくづく思います。色が出ますね、やっぱり。昔は「全然俳句ちゃうし何でも言えるやん!」としか思ってなかったんですがね。
若くして亡くなられた人だというのは、本を借りて著者情報を見て初めて知ったんですが、僕が作風好きだなと思った文筆家、ものすごく高い確率で享年30代以下で夭逝されている人ばかりなんですよね。なぜなのか。
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品田遊『ただしい人類滅亡計画 反出生主義をめぐる物語』
2021年、イースト・プレス
https://honto.jp/netstore/pd-book_31028452.html
こちらも前述したオモコロのライター・恐山さんの新刊です。同氏の3冊目の作品で、刊行済みの『止まりだしたら走らない』『名称未設定ファイル』もKindleで読みました。またKindleで買おうかとも思ったんですが、本屋でちらっと見た感じ、横書きで電子は読みにくそうだったので思いきって買いました。
突如この世に誕生した魔王。「人類を滅ぼすために生まれた」ことを召使いから告げられるも、納得のいかない魔王は10人の人間を集め、「人類を滅ぼすべきか否か」を人間たち自身にプレゼンさせようとします。しかし、集められた人間はそれぞれ名前に色を宛がわれた「楽観主義者(イエロー)」「懐疑主義者(パープル)」「反出生主義者(ブラック)」……などなど、まったく異なる思想を持った者たちであり、議論は混迷を極めていく……といった話です。
結論から言うと、紙で買って良かったです。めちゃくちゃ面白かった。3冊の中で一番好きかもしれません。
哲学には明るくないのでなかなか難しい箇所もあったのですが、以前シオランについての新書を読んだことがあるので、「反出生主義」にはとても興味があるのです。調子に乗って先日出た『生誕の災厄』の新装版を買ったらどこめくってもまったく意味が分からなくて積んでますけど。
読んでいるとつくづくこの世には人の話を聞かない、というか「人の言うことがハナから判断の範疇にない」人というのがいるのだなあということがよく分かります。この作品中だとゴールド(利己主義者)とホワイト(教典原理主義者)が特にそうだなと思いました。実際の人間はもっと流動的なもので多少揺らぐとは思いますが、思想が確固たる者であればあるほど、会話が成り立たない、議論にならなくなるというのは面白いものだなあと思います。思想も議論も、人類の発展によって形作られてきたもののはずなのに……というか。まぁ利己主義も教典原理主義も、理屈では説明できないものなのでそのせいで議論にならないのもあるとは思いますが。
僕は自分の子ども以外については別に反出生主義ではないのですが、反出生主義者の「生まれなければあらゆる悪は生じない、だから人間は新たに生まれるべきではない」という論拠を根本から掘り起こしていくようなグレーの主張、それによって議論の中心から転がり落とされ動揺するブラック、「そうまでして排除しなければならない「悪」って何だ? そうまでして守るべき「道徳」って何だ?」ということを問いかけてくるとても面白い本でした。やっぱ恐山さんってすっげえな。普段ドジっ子ざんっちとだけ思ってて本当すみません。
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行成薫『本日のメニューは。』
2019年、集英社文庫
https://books.shueisha.co.jp/items/contents.html?isbn=978-4-08-744041-6
集英社が毎年開催している「ナツイチ」の中に入っていて、表紙に惹かれた本。年を経るごとに、自分の中でおむすびの魅力が増していってる気がします。2021年のナツイチの冊子は、声優さんがそれぞれオススメの本を紹介するというもので、全員浴衣を着ているスナップ的写真が載っていてとても楽しかったです。みんな格好よかったな~。
ラーメン屋におむすび屋、定食屋、キッチンカーなどの飲食店を舞台にした短編集です。それぞれのあらすじ的には↓こんな感じ。全5話です。
・病院の父親にラーメンを届けるため、二人の子どもが奮闘する「四分前出前大作戦」
・SNS映えを何より気にするメシマズ母に悩む女子高生と、おむすび屋の女性店主との物語である「おむすび狂詩曲」
・いくら食べても満腹にならない男と、デカ盛り定食を売りにしている定食屋店主の意地を描いた「闘え!マンプク食堂」
・50年間継ぎ足し継ぎ足し守ってきたドミグラスソースを誇りにする洋食屋が閉店する、その最後の日を描いた「或る洋食屋の一日」
・会社を辞め、キッチンカーでロコモコ丼を売るも鳴かず飛ばずの夫婦が、旧友との再会を機に地元のコンテスト優勝で一発逆転を狙う「ロコ・モーション」
それぞれ店の歴史や店主の人生といった、背景の積み重なりが丁寧に描かれているようで面白かったです。表紙のイメージ通り、とてもほっこりする短編集でした。月並みな感想ですけど、どれもおいしそうで……たとえ状況が何も変わらなくても、美味しいものって、それだけで人を少し幸せにしてくれるなあと思います。僕は「おむすび狂詩曲」が一番好きです。
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9月への繰り越し本は、
田中冬二『青い夜道』2006年、日本図書センター
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