前回
五月十八日の火曜日、午後六時頃に伊禰は退社した。特に寄り道はせず最寄駅まで歩いて、電車に乗る予定だった。
(健康診断も明日で最終日。まだまだ元気モリモリ。乗り切れますわね!)
伊禰の足取りや表情からは疲れは見えず、明日の健康診断も充分にこなせそうだった。
そんな道中、ふと一軒の店が目に留まり、伊禰は足を止めた。
(このアイス屋さん…。ジュール君がチラシをキープしていらした、あの因縁のお店ですわね!)
それはごく小さなアイスクリーム店。ビルに入ったテナントではなく、縁日の屋台がそのまま建物になったような、とても小さな店だった。
ところで、因縁の店とは?
などという疑問を他所に、伊禰は引き寄せられるようにこの店に近付いた。店内には入らず外から注文して受け取るようになっていた、店員も一人しか居なかった。
伊禰は外から店員に声を掛け、カップアイスを二つほど購入した。バニラとチェリーだった。カップアイスは保冷剤と共に、紙の箱に入れられた。
(今日は寄り道してしまいましょう。あの方、バニラなら食べますわよね?)
伊禰は満面の笑みで、何やらスマホで誰かに架電をし始めた。
一体、電話の相手は誰なのか? 寄り道とは、何処に行くのか?
いろいろと謎が多かった。
先週の木曜日は、マゼンタが独壇場も同然の活躍で、爆発ゾウオと爆発ギルバスの撃破に貢献した。
それは良いが…。
ところで十縷は昨日、伊禰に「あれは犯罪レベル」などと言われていたが、本当に何をしたのか?
伊禰は駅のホームで電車を待つ間、ふと思い返していた。
(時雨君って、ジュール君と似てますわよね? 実行したか、想像で留めたかの違いだけで。まあルビーとサファイアで、同じコランダムですからね…)
そんなことを思いながら、伊禰は鼻で笑う。しかし、思い直すように顔を左右に振り、顔を引き締めた。
(いけませんわ。こんなこと、彼に喋ったら一大事です)
彼って誰?
という新たな疑問が浮上したところで電車がやって来て、伊禰はこれに乗車した。
次回へ続く!