前回
地球人から充分に苦痛や恐怖を集めることはできた。ニクシム神は更に強化し、地球に黒のイマージュエルを送れるだけの力を得た。
小惑星の地下空洞の一角、黒のイマージュエルを静置した部屋にて、出撃を控えたザイガはマダムと語らった。
(この奇人から得られる落ち着きは何なんだ? この者と居ると、気が狂わずに済む…)
マダムと語らうザイガの脳裏には、初めてマダムと出会った時の記憶が呼び覚まされていた。
ザイガが加わったニクシムは、ジュエランドとグラッシャを救済した。そして今、地球を救済しようとしている。
「その憎しみで救える者が居るなら、必ず救え」
黒のイマージュエルが静置された部屋で、ザイガの背にマダムが言葉を送る。ザイガは静かに頷き、左手を前方に突き出した。黒耀石のような黒い宝石を備えたブレスレットを装着した左腕を。
「ホウセキチェンジ。…ホウセキブラック」
ザイガの声に呼応してブレスレットは発光し、彼を黒い戦闘スーツに包む。
ザイガのスーツはジュエランド時代とは異なり、額と胸にあったジュエランド王家の紋章が消えている。代わりに、額にはアメジストのような紫の宝石と金の装飾、胸にはエメラルドのような宝石と金の装飾が輝いている。
ホウセキブラックに変身したザイガは一度だけマダム方を振り返り、会釈をした。その直後、黒のイマージュエルから照射された木漏れ日のような光がザイガを照らし、彼はこれに乗ってイマージュエルの中に引き込まれる。
「ニクシム将軍・ザイガ! 地球へと行くのじゃぁっ!! これまでの仲間たちの無念、必ずや晴らせぇぇっ!!」
マダムは金切り声を上げ、外したティアラを前方に翳した。ティアラに備わった紫の宝石から、紫の光線を一直線に放たれる。光線はイマージュエルの背景に当たり、景色をガラスのように砕いて七色の光が渦巻く穴を開けた。
すると黒のイマージュエルは浮き上がり、この穴の中に吸い込まれていく。マダムはその様を真っ直ぐに見て、ザイガの出陣を見送った。イマージュエルの中で、ザイガもマダムに視線を送る。
(ついに、地球に行ける。これで我が愚兄の血を引く無能な王女、マ・カ・リヨモを殺せる)
マダムの方を見ながらザイガが思ったことは、そんなことだった。
ところで、ザイガはこの感情が自分でも不思議だった。
スラオンを討つ前は、彼の妻であるツギロや娘のリヨモのことなど全く眼中に無かった。
それが何故だろう? 今はリヨモを討つことが目標になっている。
それどころではない。ジュエランドに居た頃、リヨモに対して何の感情も抱いていなかった。
それが何故だろう? かつてスラオンに抱いていた憎しみを、今はリヨモに抱いている。
その理由は本当に解らなかった。
しかし解らなくてもいい。リヨモを討ち、憎しみを晴らす。ザイガはそれしか考えていなかった。
(タエネよ。お主の無念、必ず晴らしてみせる)
ザイガは心の中で強く誓った。その思いは、バイザーの左側だけに備わった目を模した薄紫の装飾に、白く強い光として表れた。
次回へ続く!