「ヒューマン・ポジション」批評
北欧ノルウェイの小さな海岸町オースレン。20分もあれば観光スポットを見尽くせるというが、大型のクルーズ船が停泊しているところをみると、穴場なのかもしれない。アスタはしばらく休職していた地方新聞社にもどり、記者活動を再開するが、なにしろ小さな町なので熾烈な特ダネ合戦なんてのはまるっきりない。アフリカ系女子ライヴとアパートに同居しているが、二人の関係もはっきりしない。ライヴの方は椅子の修復をしたり、キーボードで演奏したりしているが、キャラクターの説明がほとんどないので、職業もわかりかねる。
ただただ風景、人物を写し取ることに専念しているようにも思える。ヒロインの腹部に横一筋の傷跡があるが、これが何の傷なのか、言及されることもないので、わからずじまい。カメラは移動せず、ショットでつながれて進行していく。まるで小津さんの映画みたいだなと思っていると、果せるかな二人が見ているTVで「お茶漬けの味」が放映(もしくはDVDで鑑賞)していているらしく、日本語の台詞が飛び出して、やっぱりなと思ったりもした。他にも箸を使って食事したり、柔道着、囲碁と日本趣味が横溢。
のんびりとした時間がたゆたう白夜の町。スクリーンの真ん中に道があり、その道を向こう側から人が歩いてくるのを撮影という箇所が少なくなく、ちょっと短気な人ならいらつくに違いない。アパート、新聞社から見える外の建物を繰り返し描写しているのも何かの効果を狙っているのか? ヒロインとコンビを組むカメラマンは、派手な絵柄を求めて関係者にあざといポーズをさせたがるが、彼女はそんなのはいらないとボツ。市井の人の好奇心をよりどころとした取材態度も好感が持てる。
監督はアンダース・エンブレムで、これが長編第二作目。監督デビュー作にも出ていたアマリエ・イプセン・ジェンセンがアスタを演じている。9月14日よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開される。