
「犯罪都市 PUNISHMENT」「対外秘」批評

韓国映画を二本見ていたら、両方の作品に同じ俳優が数人出ていたので、まとめて紹介することにした。一本目は9月27日に日本公開された「犯罪都市 PUNISHMENT」。2017年公開の「犯罪都市」を初作とするシリーズの「犯罪都市 THE ROUNDUP」(2022)、「犯罪都市 NO WAY OUT」(2023)に続く四作目にあたる。犯罪都市ことソウル。マ・ドンソク扮する強力班副班長マ・ソクト刑事は灰色の脳細胞で推理したり、こつこつと足で捜査するタイプではなく、もっぱら太い腕っぷしで悪人、ちんぴらをなぐりつけて情報を絞り出す。部下も精鋭とはいかないが、まあそれなりの働きは見せる。上司はみな保身第一、事なかれ主義だが、直接の上司であるチョン・イルマン班長はマ・ソクトにていよく騙されて強引捜査を許可してしまう。そんな警察側に対する敵は凶悪きわまりない極悪人。二つの側に挟まれて右往左往するうちに捜査側に組み込まれる気の毒な人物がおり、彼がコメディ・リリーフをつとめることになる。中国、ヴェトナム、日本と、外国のギャングが絡むのも特徴のひとつ。
今回はオンライン・カジノをめぐる陰謀、残忍な殺人、ライバルつぶしの殴り込みとアクションのつるべ打ち。こうしたデジタルがらみの犯罪に、旧来の捜査方法では対処できぬと、デジタルに強い捜査官を呼び寄せてチームを結成。オンライン・カジノはアプリ作成のためエンジニアをフィリピンに幽閉し、暴力と恐怖で縛りつけていた。ITの天才と呼ばれているQMホールディングスのCEOチャン・ドンチョルの指揮下で、フィリピンでの実務を任されているペク・チャンギはアジトから逃げ出した韓国人を追いかけて残忍な殺し方で口を封じてしまう。被害者は遺体となって帰国し、マ・ソクト刑事は涙にくれる母親に犯人逮捕を誓う。違法賭博場をペク・チャンギ一味につぶされたチャン・イスがマ・ソクトの硬軟ふたつの説得に騙されて捜査に協力することに。チャンギはボスのチャンを排除し、犯罪組織のボスをめざす。
マ・ソクトが赤手空拳、ペク・チャンギが刀とそれぞれ得意の武器で対抗するクライマックスに至るまでに、ヴァイオレンス、サスペンス、センチメンタリズム、チャン・イスがらみの笑い(少々あほらしい感もするが)を織り込んで、だれることなく展開させていく技巧はさすが。前三作でアクション監督を務めたホ・ミョンヘンが本作で監督デビューを果たした。ペク・チャンギにキム・ムヨル、チャン・ドンチョルにイ・ドンフィ、チャン・イスにパク・ジファンが扮している。

もう一本の「対外秘」は、1992年の釜山を舞台にした政界の闇を描く作品。釜山出身の政治家ヘウンは国会議員選に与党公認で出馬のはずだったが、直前に釜山を陰から操るフィクサーのスンテが自分の自由になる男を公認候補にすえた。ヘウンは選挙資金を借りていた街金経営者ビルドから返済を迫られるが、逆に無所属で出馬して必ず当選して見せるからもっと金を出せと交渉。釜山港の再開発が行われる区画を記した秘密文書を入手し、それを梃にしてスンテを牽制し、選挙戦を有利に進めていく。だが、スンテ側はあっと驚く奇手を駆使して、逆転してしまう。
初めは庶民のために戦う真摯な人物と思われていたヘウンが、議員になるために非倫理的なやり方に手を染めていく。主人公の転落を見るのは哀しく、1949年のアメリカ映画「オール・ザ・キングスメン」を想起させる。どこの国も、政治はきれいごとですまされないということか。ヘウンにチョ・ジヌン(「犯罪都市」で広域捜査隊チーム長)、スンテにイ・ソンミン、ビルドにキム・ムヨル(ペク・チャンギほど冷酷ではないのが運のつきだった)、ハンモにウォン・ヒョンジュン、汚職役人ムンホにキム・ミンジェ(「犯罪都市 NO WAY OUT」「犯罪都市 PUNISHMENT」でマ・ソクトの部下のキム・マンジェ刑事役)。監督は「悪人伝」(2019)のイ・ウォンテ。