「刑事物語」シリーズその三
⑥「小さな目撃者」(1960年7月5日)54分
監督:小杉勇(、、なし) 原作:大村弘 脚本:高橋二三
〔惹句〕つぶらな瞳に灼きついた恐るべき戦慄の瞬間!…
京成浅草駅が映る。日進製薬向島工場から広範囲抗生薬ジェンタシンが盗まれる。宿直の吉岡が手引きした犯行だった。守衛の息子宏が外にある便所に行き、吉岡が二人の男と箱を運んでいるのを目撃。守衛夫婦が外に飛び出すが、犯人に撃たれて死亡。吉岡は頭を殴られて瀕死の重傷を負っていた。向島署の殺人課は宏から事情を聴くが、「知らない、知らない」というだけで、すぐ「家に帰りたい」と言い募る。親類は「いま農繁期で迎えに行けるのは一週間後」という。主任に頼まれ佐藤家で宏を預かることになる。宏がおねしょして女中に源造が文句を言われたり、七色仮面のプラ仮面やマントを買ってやったりと、子供とのやり取りが挿入される。
泥棒の一人、学生の長谷川は大学の授業料3万円を滞納していて、数日後には除籍処分になるので至急金を欲しがった。だが、ボスの浜田は「薬には製品番号があるので、日本で売れば足がつく。東南アジアに売れば、日本での三倍、900万強にはなる」と言い、彼に「待て」と命じる。だが、焦眉の急にかられた長谷川は薬の一部を持ち出して蒲田の東洋薬局に売った。経営者は他店との競争が激しく、つい安い薬を闇と知りながら買ったという。ここが買ったと分かったのも、他店からの密告だった。
退院した吉岡は警察に挨拶に行き、薬が売られたことを知り、浜田を問い詰める。浜田はジュークボックスに長谷川を押し付け、曲を選んで「これがお前の葬送曲だ」と言いつつ、射殺するが、音楽のせいで誰も気づかない。長谷川がギャンブル好きとわかり、佐藤源造刑事は仲間もそうだろうと推察し、中山競馬場を張る。そこで吉岡を見つけた宏少年に吉岡がチューインガムを与える。宏の「あの日、吉岡のおじさんが他の人たちと一緒に箱を運んでいた時もくれたよね」の発言に吉岡は逃げ出し、そばにいた浜田と情婦アケミも逃げ出すが、結局はつかまってしまう。子供のお手柄だったので、打ち上げにケーキが用意されたが、肝心の宏の姿が見えない。彼は日進製薬向島工場の守衛宅に行ったのだが、すでに新しい守衛一家が入っていた。親戚の老婆が迎えに来て、宏は上野から列車で去っていく。佐藤源造刑事に「浅草で殺しが」と連絡が入る。「お父さん、殺しが待ってますよ」と保郎に言われるが、列車が見えなくなるまで見送り、それから現場へと向かうところで終マーク。
競馬場での衝撃的な発言を生かすためだろうが、宏が目撃したことをなかなか言わないのがあざとい。この少年の演技が心もとないのも、しらける。ラストで浜田と情婦が知らぬ顔をしていればよかったのに、すぐに逃げ出すから正体がばれてしまう。長谷川の恋人で麻雀屋店員弓子は浜田のアパートに監禁されていたが、無事救出された。「銃声に浮かぶ顔」でケチな悪人を演じていた野呂圭介がここでは守衛を演じているのだが、すぐに殺されてほんの数カットしか登場しない。「前科なき拳銃」で憎まれ役だった佐野浅夫が捜査主任、同作でミドリを演じていた中川姿子が弓子を演じている(キネ旬の略筋では“学資に困った彼女も一味に加わっていた”とあるが、これは誤りで、彼女は長谷川が薬泥棒をしたことすら知らなかった)。吉岡を弘松三郎、アケミに南寿美子、捜査一課長に山田禅二。浜田役の宮崎準は「機動捜査班」シリーズではデカチョーを演じている。
ロケ地【東京都】墨田区(向島署)/台東区(上野駅)
*子役の松岡高史は益田喜頓とイギリス映画「追いつめられて…」を鑑賞し、1959年のベルリン映画祭特別子役賞を受賞したヘイリー・ミルズの演技に影響を受けたとのこと。
⑦「知り過ぎた奴は殺す」(1960年10月19日)56分
監督:小杉勇、、 脚本:宮田達男
〔惹句〕邪魔な奴にゃ兇弾をぶち込め!暁の非常線を冷笑する殺人鬼を急追する熱血の父子刑事!!
東和銀行新橋支店で金を下ろした実業家野口を殺害して600万円を奪った須田は、奥多摩のダムまでドライブ。そこで待っていた関谷とともに金を分ける約束だった。途中で、自転車を撥ねたので、救急車がくるし、佐藤源造刑事もやってくる。救急車に世田谷消防署と書かれていたので、源造は世田谷区の警察に勤務という設定のようだ。関谷は車を野口の遺体とともに川に落とし、ダム見学をしていたことにする。野口の秘書福本君江が社長の捜索依頼を出したことから、身元が分かる。
銀行の前で靴磨きをしていた田中という男が、須田の行動を目撃していた。靴磨き代金30円。場外馬券売り場で偶然須田と出会い、田中は金を無心する。二人はかつて同じ工場に勤めていた仲だった。須田は田中に夜10時に木場のビルの屋上へ来いと言って誘い出し、殺そうとする。事情聴取での田中の態度にピンときた佐藤親子が後をつけていて、須田が田中を殺そうとした時に飛び出して命を救った。だが、須田には逃げられ、保郎が追う。須田は木場で川に浮かぶ大木をぴょんぴょん飛んで逃げてゆき、最後は水中に飛び込んだ。須田と君江は恋仲で、奪った金で田舎に行き新所帯を持つ計画だった。だが、須田が指名手配されたことから、関谷は彼を多摩川園に呼び出し、一緒にローラーコースター(大人40円、子供30円)に乗り、嬌声に紛れて射殺する。
関谷は次に屋台で飲んでいる田中を狙うが、田中の妻子がやって来たので断念。君江のアパートに関谷がくるが、佐藤保郎が突入したので逃げ出す。愛人ミサ子のいるキャバレーに行くが、ここにも警察が来たので、ミサ子を撃ち、タクシーを奪って逃走。直ちに非常線が張られ追跡が始まる。途中で、「犯罪を防ぎませう」と書かれた看板が映る。荒川でボートに乗って関谷は逃げ、後を警察のランチが追う。関谷の射撃で、父源造がまたもや足(右)を負傷。荒川でのボート・チェイスの末に、葦の間に逃げ込んだ関谷を保郎部長刑事が逮捕する。
その後、源造刑事は田中に靴磨きを磨いてもらう。田中はジュエルの靴クリームを使うと、商品名を言っていた。これもワカ末と同じ様に宣伝タイアップなのだろうか? 普通なら殺されるはずの田中(演じているのは悪役俳優の土方弘)が危機をくりぬけて、母ちゃんの叱責のせいもあってか、心を入れ替えて仕事に励むラストがほのぼのとした印象を残す。息子のアキラに扮した松岡高史は前作「小さな目撃者」の宏少年役に引き続いての登場だが、もちろん佐藤源造刑事と会っても知らぬ顔。「小さな目撃者」で犯人を演じた宮崎準が今回は刑事役をつとめている。
「佐藤さん」と呼びかけられて、源造が振り向くと、「ジュニアの方」と言われる親子刑事ものらしいユーモラスな箇所もあった。須田、関谷に何度も逃げられるのはだらしないというほかはなく、わざとらしさも感じられる。それを除けば、よくまとまっていて、逃走場面、チェイス場面もサスペンスがうまく醸し出されていた。関谷役の森塚敏、須田役の上野山功一、君江役の香月美奈子、ミサ子役の南風夕子、野口役の長尾敏之助(「小さな目撃者」では刑事役)とタイプキャストといっていい布陣で、安心して見ていられた。
ロケ地 【東京都】港区(表参道)/世田谷区(二子玉川園・ジェットコースター)/隅田川~東京湾、奥多摩