「刑事物語」シリーズその二
③「灰色の暴走」(1960年3月6日)52分
脚本:渡辺桂司
〔惹句〕俺はデカだ!パトカー襲撃の兇悪犯に命を張った父と子の刑事物語!!
深夜。東都信用金庫深川支店に強盗が入る。金庫破りのボス本間が見回りに来た警官を射殺して逃亡。金庫をバーナーで開けていた富永だけはあとから逃げ出すも、警官に足を撃たれる。この富永を第一話で佐藤保郎を演じていた待田京介が演じている。源造が「星は何でも知っている」の替え歌(空の星ではなく犯人を意味するホシにして)を歌いながら現場入り。二年前に起きた銀行強盗事件に手口が似ている。源造はその時に手先に使われていた少年勉を更生させ、丸善石油上馬給油所に頼んで働かせてもらっていた。富永は勉を頼って匿ってもらう。かつて勉は富永に命を救われたことがあったのだ。佐藤父子が事情聴取に行くが、勉は「何も知らない」という。一方、先に逃げ出した強盗一味は、小料理屋をやっている富永の情婦を探し出し、給油所までたどりつく。勉が頼んでくれたトラックに乗って富永は高跳びを計るが、警察が追ってきたので、金の入ったカバンは落としてしまい、それを拾った勉が恋人のミッキーに預かってもらう。彼女はバイクの修理工場で働いていて、新型バイクの荷台に隠した。ミッキーを後ろに乗せて富永との待合場所へ。一味も後を追い、さらにパトカーも。多摩川での乱闘があり、バイクは炎上し、金も燃える。保郎はミッキーと勉に、「まあいい、君たちは親父と一緒に来るんだ」と言って去っていく。後に源造とミッキー、勉が残る。
ひっかかる点が多すぎて、素直に楽しめなかった。見回りの警官がまだ信用金庫の入り口にいる段階で、銃を撃ってかえって窮地に陥るし、給油所の主人(松本染升)だって、「勉は悪い奴じゃありません」とかばってたくせに、勉に不利な状況になると、源造に「だから前科者を預かるのは嫌だった」とこぼす。勉はバイクを運転するのが大好きで、そこから題名が来ているようだが、暴走といってもスクリーン・プロセスなので、まるで迫力がない。勉を沢本忠雄が演じているが、どう見ても少年と呼ぶには年を取りすぎている。佐藤刑事はかつてスリをしていて、今では製麺所の女主人となっている村井を訪ねて、協力を要請。彼女は出入りのラーメン屋連中を集めて、町で富永を見かけたら知らせるように頼み、それが実を結ぶ。気風のいい村井をぴったりの清川虹子が演じていた。ミッキーに中川姿子。
ロケ地【東京都】江東区(亀戸)/台東区(上野)/調布市(多摩川)【千葉県】松戸市(松戸競輪場)
④「銃声に浮かぶ顔」(1960年4月9日)53分
原作/原案:安藤尚衛 脚本:高橋二三
〔惹句〕拳銃の影に冷笑するボス!陰謀の罠を破る正義の斗魂!
刑務所を出所したばかりの男がさつき橋の上で轢き逃げされ、重傷を負って警察病院へ。明日は25年無事故で表彰される隅田署勤務の佐藤源造刑事。警察病院から被害者が姿を消したので、さつき橋の周囲を聞き込みしていて海に落ち、服を乾かす際に船頭に銃を預かっておいてくれと頼む。船頭の息子洋一がそれを持ち出した。源蔵は主任に「ここだけの話にしておくから、とにかく銃を見つけ出せ」と言われる。洋一は拳銃を売り、その拳銃が例の病院からの逃亡者に渡る。彼はドル買い(一万ドル=380万円)と傷害で三年間服役していた森下という男。轢き逃げ犯はかつての仲間神崎で、森下は復讐の機会を狙う。
〔以下ネタバレ〕森下の情婦みさおはファッション・モデルで、ミドリ荘に住んでいて、彼の出所日に尾頭付きの魚、赤飯で祝おうとしていた。神崎にみさおは殺され、遺体は隅田川の土手に遺棄される。そばには森下を轢いた46年型ステーション・ワゴンがあった。持ち主はトルコ風呂アリババの経営者海老原で、盗難に遭ったという。森下は神崎を脅してボスの辻村のありかを吐かせようとする。辻村は海老原と名前を変えていた。海老原は神崎を撃ち、分け前をよこせという森下の要求に神宮外苑前で金を渡すと応じ、子分二人を連れて行き、森下を殺そうと企む。銃撃戦の末に警察が海老原を逮捕。
大事な拳銃を船頭に預けるというのはベテラン刑事らしからぬところ。翌日、警視庁で表彰された知人に会う場面が、ちょっぴり可哀想。森下に岩下浩、みさおに丘野美子、神崎に弘松三郎、その情婦あけみに南風夕子。海老原を嵯峨善兵が演じているので、まだキャラクターが明らかでない初登場時に、こいつが黒幕だと思っていたらやっぱり。トルコ風呂は前が10㎝ほどまっすぐで、それから傾斜している箱の中に入り、首だけ外に出しているというもの。ブラとホットパンツ風のものをはいた女性が世話する。ラストは課長が新聞記者連中に表彰を逸した佐藤刑事が犯人を逮捕したことを記事にして、「せめてもの花束を贈ってくれ」と言うと、記者、カメラマンが取り囲み、源造は照れてしまう。カメラは外苑の樹々を映しながら上へ上へと上がっていく。
ジャズ喫茶テネシーで源造が洋一のことを尋ねるが、すぐに警官とばれる。サングラスをかけた保郎がやくざ風にチンピラ連中に話しかけると、恐れ入った彼らが「洋一は水上温泉に行った」と喋るシーンが笑わせる(どう見ても保郎はやくざにはみえないのだが)。
ロケ地【東京都】葛飾区(小菅拘置所=東京拘置所)/台東区(上野駅、上野広小路、隅田川)/千代田区(神田)/新宿区(神宮球場)【神奈川県】横浜市
⑤「前科なき拳銃」(1960年6月15日)52分
原作:長谷川公之(『小説倶楽部』所載)脚本:長谷川公之、宮田達男
〔惹句〕大都会の密林にうごめく愛欲と吸血の拳銃魔!おなじみ親子刑事が死線に賭けた白熱の斗魂!!
場外馬券場の中で、お仕着せを着た女性たちが札束を数えている。その机にいきなり靴が。二人組強盗で、「だれか非常ベルを!」と叫んだ主任を射殺して、札束を奪って逃走する。銃弾から珍しいスペイン製ゲルニカ拳銃とわかる。密輸されたものらしく、手がかりとはならない。拳銃の売人をあらっているうちに、それらしい人物信吉が浮かびあがる。信吉は横田八郎という男と組んでいた。信吉の恋人ミドリが浅草のヌード喫茶パリジェンヌにいるというので刑事が客として見張ることに。ミドリのアパートを父子で見張っていて、怪しい二人を発見するが、父が撃たれた(今度は左肩)。
〔以下ネタバレ〕犯人の八郎は、情婦で民謡酒場つがるの歌手サヨ子を酒場のマスターから買い取る為に30万円が必要だったのだ。彼は言問橋で信吉を殺害。サヨ子とともにトラックで高跳びを計る。グリーンキャブに乗った保郎はトラックを追い、タクシー会社の無線を通じて警視庁へ連絡。警察の捜査網に阻まれ、八郎は隅田川に追いつめられる。ラストは川の水草の生えたところをじゃぶじゃぶと入って行っての逃走、追跡、そして銃撃となる。最後になると、サヨ子は八郎にしがみつくが、彼はサヨ子を足手まといみたいに離そうとする。
八郎を「殺人者を挙げろ」の深江章喜、ミドリを「灰色の暴走」の中川姿子、サヨ子を「銃声に浮かぶ顔」に出ていた南風夕子、サヨ子につらく当たる支配人を佐野浅夫が扮していた。ヌード喫茶と言っても全裸ではなく、バニーガール風のコスチュームをつけている。民謡酒場というのは、お座敷になっていて民謡を歌って客を楽しませるという形式の店だった。石柱にワカ末の広告プレートが張り付けられていた。この頃の日活映画にはワカ末がスポンサーについていたのか、必ずワカ末の宣伝が入っていたものだ。
ロケ地【東京都】台東区(浅草、上野)/千代田区(神田明神)