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【エッセイ】師走
12月が近づいて来ると、何だか気ぜわしくなっていく。
景気とは関係なくまたかとげんなりするような、それにしても気分がほんの少しだけでも高揚するようなのは、これを超えれば新年だと思う気持ちがそうさせるのか。
一年の疲れや溜まった思いを12月の気ぜわしさで綺麗さっぱり洗い流すつもりで、といったところでもあろうか。やけくそみたいではあるが。
新年を迎えるにしても、その前にやれ忘年会だ、クリスマスだとかまびすしい。嫌いでは勿論ないのだが、やらなければならないことが公私ともに多く胃液が逆流しそうになる時がある。
若い頃はイベントや催しなど気にすることもなかったが、齢をとって気にかけるようになるとは気持ちに余裕が出来たせいか。まあそのせいで、師走は常に何かに急かされている気分になる。
平日の忘年会などは出だしは気が重い。
辺りが暗くなった仕事終わりに車のエンジンをかけ、ヒーターを最高温度最大風力で付けっ放しにしフロントガラスの氷をスノーブラシでガリガリ落とした後で運転席に座って電話をかける。
「今日は早めに上がろう、明日も仕事だし」
「そうだな、鍋で暖まって刺身で軽く飲んで帰ろう」
同席する同業他社の社員と話したりするが、いざ会うと盛り上がり話も弾み、酒も入る。体も暖まってくる。最初の店が終わりに近づいてくるとそわそわしだしもう1軒だけ行くか、となる。
「そうだな、女の顔を見て一杯だけ飲んで帰るか」
「この間の女の子はまだいるかな、今日は出ているだろうか」
などと始まり、互いをトラップに仕掛けるような会話がそれとなく始まる。
そうなるとこれはもう出口がわかっている迷路を互いが作って互いに引きずり込もうとしているようなものであり、遠回りする理由や責任を互いに相手になすりつけようとしている。
情けないのはお互いがそのことを自覚している点である。
帰ろう帰ろうと言いつつも、あいつがあいつがと言いながら
行かなくても良い店のドアを開けることになる。
12月の女のいる店は暖かい。絶対に暖かい。体も気も緩む。
そうなると席についた途端、一軒だけというそう固くもない決意は
一瞬の内に溶解していく。
店側も我々を警戒させないよう最初は女を一人だけ付ける。両サイドに
女を二人座らせることはしない。酒が入ってくると、女が一人、また一人と投下されていく。そしてだんだん飽きて来て、じゃあ帰るかとなっても席の女たちが盛り上げる。まあ彼女たちも仕事だからと、なぜか同情してしまい、何をしに来たのか酔ったせいもあってよくわからなくなる。
時間が経つと師走の店は団体客も増えてくるのでスタッフの数を気にするママはやんわりと我々に帰りを促すしてくるが、今度は我々が帰らない。当然だ。夜も更けて外が寒いのはわかっている。早く帰ろうしていたはずなのに、いつの間にか外に出たくない、帰りたくない、となってしまう。
気付くと店には我々のような客ばかりである。
女が付いていないボックス席もあり、一人眠そうな顔で飲んでいる男もいる。だんだんと本気で疲れてくる。これが師走の夜である。
翌朝後悔も反省もしないのだが、何か金遣い過ぎたな、と自己嫌悪に陥りそうになる。これが師走の朝である。
陥りそうになるのだが、仕事がある。仕事に向かう。前の晩を忘れる。そして昨日と同じ日中が始まる。そして夕方になるとまた別の誰かから電話がなる。忘れていたことを思い出せればいいのだが、思い出せないから忘れるのだ。
とりあえず今までのところ、飲み過ぎても女でも失敗はない。失態はあったかもしれないが、失敗はない。ん、んなこともないか。