(読んでみた)『行動経済学が最強の学問である』(相良奈美香著 SBクリエイティブ株式会社)

 行動経済学という学問が何となく流行ってきている、というよりもその地位を確立しつつある(つまりは「今、来てるっぽい」)という認識があったため、改めておさえておこうと思って本書を購入した。本の選び方って割と人柄が出ると思うのだけれど、私のこういう選び方って本当に感じが悪いと思う。実際の私はそんなに感じが悪くないんだけどな、たぶん。

 数ある行動経済学の本の中から本書を選んだのは、個人的に相性が良いと思っている書店でおすすめしていたから。
 活字中毒の人ならば分かると思うけれど、書店は相性が大切だ。合わない書店は何度言っても結局何も買わずに帰るのに、合う書店に行くと買うつもりがなくても何冊も買って帰ってしまう。おそらく選書担当の人と自分の読書の方向性が近いということなのだと思うけれど、それって価値観が合うということだから、この書店の実用書部門の選書担当の人と私は付き合ったら絶対にうまくいくと思う。いつかレジで「すみません、選書担当の方って男性ですか? ちなみに独身ですか? 」って聞いてみたい。

 実は過去に一冊だけ行動経済学の本(『予想通りに不合理』)を読んだことがある。おそらくこれは行動経済学の先駆けとなった本だと記憶している。一方本書は現在行動経済学の第一人者として活躍する著者によるもので、「今までバラバラに確立していた行動経済学の主要な理論を体系的にまとめた」ことを目玉の一つとしている。

 結論から言うと、確かに体系的にまとめられていたのだが、だからと言って電撃的に頭に入りやすくなった、というものでもなかった。確かに理解はしやすい。しかし各章の終わりにその章で出てきた理論がまとめてあるのだが、毎日少しずつ読み進めていたこともあり、そこに来るたびに「あれ、何だっけこの理論」と手が止まり、「あー私って記憶力悪いわ」とため息をつく、ということを繰り返した。もちろん読後に試験があるわけではないので正確に覚える必要はないのだが、「体系的にまとめたことによって頭にすらすら入ってくる」というものでもなかった。

 しかしそれを差し引いても本書はとても読みやすく、最後まで興味を持って読み終えることができた。章の前にもその章についての概略があり、導入のためのちょっとしたテストがあるなど、構成に工夫が見られた(そしてこれも行動経済学の手法のひとつなのかしらなどと勘ぐったりした)。また、大企業がすでに取り入れている手法もいくつか紹介されており、いち顧客の私は「くそう、あのときのあれはこういうことだったのか」と思う場面が何度もあった。しかしそのことは行動経済学というまだその名を広く知られていない学問が音もなく忍び寄り、いつのまにか私たちの日常に浸透していたからに他ならない。それだけこの学問の有用性が高いということでもあり、「見えないところで蠢いている、社会の新しい仕組み」を垣間見るきっかけになったと思う。

 ただ、読み進める中で日本語の言い回しに違和感を覚える箇所がいくつかあった。あとがきによると著者は長年英語での仕事を続けてきたとのことで、その程度の違和感は仕方のないことだと思われる。いや、それを差し引いても本書は「今来てる学問を楽しく学べる」良書であり、自分の力では変えられなさそうなもの、例えば日常や他人の心までも、ちょっとした工夫で帰られるかもしれない、という希望を与えてくれる本である。

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