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イカの天ぷらについての一考察あるいは読む価値のない話題について
人に話すほどのことではない、という枕詞を耳にすることは多々あれど、これほど人に話すほどのことではない話はなかなかないと思う。イカの天ぷらって、消しゴムでも行けるんじゃないかと思うんだけれど、どう思う?
私はイカが好きだ。数多ある魚介類の中でもイカがいちばん好き、というわけではなく、ウニやトロ、イクラなど高価なラインナップが上位を占める「私の好きな魚介類ランキング」ではいささか低い順位にあるけれど、比較的好きな方である。
しかし、数あるイカメニューの中でも、イカの良さを出し切れていないのでは、と常々感じているメニューがある。それがイカの天ぷらだ。誤解のないように断っておくと、私は大手うどんチェーンに行った際には五回に一回の割合でトングを伸ばす程度には、イカの天ぷらが好きだ。いつまでももぐもぐし続けていたくなるようなあの独特の食感は、唯一無二の魅力であろう。しかし、あえて私は問いたい。イカの天ぷらは本当にイカの良さを生かしたメニューだと言えるだろうか。
そもそもイカ料理というものは、イカが持つ風味を生かしたものが多い。いかめしだってイカ大根だって、イカから出た良いお出汁がもち米やら大根やらに浸み込んで、料理全体をいいお味に仕上げている。まさに旨さのトータルコーディネートであろう。しかし、イカの天ぷらと言ったらどうだろう。うまみは無論衣に染み出ることはなく、凡人の舌では到底感じ取れないほど奥深くにうまみを隠したまま、消化されてしまう。例えるならば、誰にも伝えられぬまま時間とともに朽ちていく、秘めすぎた恋心のようなものだ。つまりイカの天ぷらはイカのポテンシャルを十分引き出しているとは言えず、食感だけを武器に勝負しているにすぎない。それならば、イカの大きさに切りそろえて格子状の切り目を入れた消しゴムに衣をつけてからりと揚げれば、誰も気づかないのではないか。
早速実験をしたいところではあるが、ここで一つ大きな問題がある。消しゴムは食べ物ではない、ということだ。消しゴムを食べると体にどのような影響が出るか分からないし、そもそも油で揚げても大丈夫なものなのかもわからない。それより仮に上手に天ぷらに出来たとして、それがイカをはるかに凌ぐ絶品だったとしたら、これから先の人生、消しゴムの天ぷらを食べたいという欲求に抗いながら生きていかねばならなくなる。そしてそもそも、これがいちばん重要なことであるが、イカの代用品として消しゴムを使う利点が何一つない。大きさを考えると、消しゴムの方がはるかに単価が高いし、消しゴムに栄養があるとも思えないのだから。
というわけで、イカの天ぷらって消しゴムでもいけるのでは、と思ったけれど、仮にそうだったとしても試すほどのことではないよね、という話でした。ここまで読んで時間の無駄だった思ったそこのあなた。だから冒頭でちゃんと「人に話すほどでもない」と断ったじゃないか。まあでも人生なんてほとんど無駄なことばかりだから、大した問題じゃないよ。ドンマイ。