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『オタク用語辞典 大限界』から見る「いとをかし」と「まじやばい」の相関性

こんにちは作家志望のアベヒサノジョウです。
今回は三省堂様より出ている「オタク用語辞典 大限界」をもとに話を進めていきたいと思います。
(※今回のテーマに関しては、歴史的な史実や第一情報源には至っていません。様々な視点から、ご意見をいただけると幸いです。)


電子辞書の発明に大打撃を受け、スマートフォンの爆発的な普及で追い討ちを受けることになった『紙の辞書』だが、現在、独自の進化を遂げている。
その一例が、2023年6月に販売された「オタク用語辞典 大限界」だ。
(※ここでは、特定のジャンルにおいて専門的な知識を有する人物を『オタク』と総称しています)

これは歴史ある辞書「言海」「大言海」と、オタクが心揺さぶられる瞬間に発する「……限界(素晴らしい)。」にかけて作られたものだ。

この辞書は、現代のS N Sで飛び交う「いかに自分が愛するモノが素晴らしいか」を表すための言語について解説している。

その中でも代表的な言葉に「やばい」がある。

[形]《形容動詞「やば」の形容詞化》危険や不都合な状況が予測されるさま。あぶない。「—・い商売」「連絡だけでもしておかないと—・いぞ」
[補説]若者の間では、「最高である」「すごくいい」の意にも使われる。「この料理—・いよ」

goo辞書より

本来は、危険や不都合な状況で使われるものであったが[補説]でもあるように若者の間では「最高である」「すごくいい」という意味でも使われるようになった。


専門家による「若者の語彙力低下」を指摘される一方で、「やばい」はS N Sが発展する中でZ世代(令和世代の大体25歳以下の若者)にも深く浸透しているように感じる。
これは、複雑で曖昧な心情を端的に言葉で表すことや、他者の思いに手っ取り早く共感することにおいて大変便利な言葉であるとも言える。つまりみんな「空気を読んで」いるのだ。

「やばい」は会話の文脈や状況によって変化し、若者はそれを感じ取って生きている。

こう考えると「語彙力の低下」ではなく「感受性や共感覚が強まっている」とも言えるのではないだろうか。



「やばい」と似た表現として古文「をかし」という言葉があげられる。
(あくまでも筆者がそう感じているだけだが…)

「をかし」

形容詞シク活用
活用{(しく)・しから/しく・しかり/し/しき・しかる/しけれ/しかれ}
①こっけいだ。おかしい。変だ。
②興味深い。心が引かれる。おもしろい。
③趣がある。風情がある。
④美しい。優美だ。愛らしい。
⑤すぐれている。見事だ。すばらしい。

学研全訳古語辞典より

つまり同一単語であっても、会話の文脈や、状況によって変化するものは平安時代から存在していたのだ。

昔風情を感じるもの、美しいもの、趣があり自身の感性や心を揺さぶるものに関して、その言葉を通して筆者(発言者)の気持を想像する———のが、平安時代の貴族の間では当たり前だった。

つまり、受け手(読み手)が、曖昧な雰囲気や心情を読み解く必要性に関しては今に始まったことではないとも言える。

結論から言うと、私は、若者は語彙力の低下によって言葉が収束した(「やばい」に複数の意味を詰め込むことなど)のではなく共感能力の高まりによって、シンプルな言語を通して相手の感情を察する力が高まったのではないかと思っている。(もちろん、語彙力について危惧されている背景には他にも理由があると思うが)

そう考えると、「オタク用語辞典 大限界」はまた違った見え方をする。面白い。

ぜひ、ご一読いただきたい。


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