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空気を凍らせる主人公の軽口攻撃から何度もヒロインが作品を救っていた。【青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない】

主人公  「国見はバニーガールが好きか?」
友人   「いや、そうでもない」
主人公  「なら、大好きか?」
友人      「ああ、大好きだ」

第一章 「先輩はバニーガール」より

正直このやり取りに面白さを感じていなかった。
こう言うやり取りが延々続くならば、少々しんどいなと思っていた。

本作の主人公梓川咲太は軽口を良く言う。
それは照れからくるのか、韜晦しているのか、天然なのか。
兎に角、本作の主人公は90年代のエロゲーの主人公のような軽口を良く言うのだが、これが別に面白くとも何ともないので少々困っていた。

「どうしたものかなあ」

何て考えていると、ヒロインである桜島麻衣との会話で流れが変わった。

簡単に状況を説明すると、周囲の人に姿を認識されなくなりつつあったヒロインが喫茶店に入った時に店員から声をかけてもらえず困ってしまったと主人公に説明した時のやりとり

「じゃあ、実は前に行ったことがあって、出入り禁止を食らうほど先輩がなんかやらかしたとか?」
「そんなわけないでしょ」
「先輩、足」
「足がどうかしたの?」
「いえ、踏んでもらえて幸せです」
~中略~
「はいはい。もう話が進まないから黙って。なんだっけ?」
「喫茶店で出入り禁止を食らった話です」

第一章 「先輩はバニーガール」より

このやりとりも、最後の一言はボケたつもりだと思うのだが、面白くないのである。
こう言うボケを主人公が所々挟んでくるのである。

何か辛い。

しかし、この言い知れぬ辛さを味わっている読者をヒロインが救ってくれるのが、この作品の素晴らしいところなのである。
読んでいて痛々しい主人公のボケを真っ正面から受け止め、突っ込むことなくその場でねじ伏せ、話を強引に元の話題に戻すのである。

上の場合だとこうである。

「怒るわよ」

第一章 「先輩はバニーガール」より

痛快である。
主人公の軽口に辟易していた私の気持ちを見事に代弁している。
軽口なんか無くても、この作品は十分に面白いのに、わざわざ主人公の軽口パートを挟み込む必要はあったのかなと本気で思っている。
が、ヒロインの魅力を高める為には軽口は必要だったのかなと思うと正解が良く分からない心理状況に陥ってしまう。


ついでにもう一つ、主人公の軽口とヒロインの返しを。

「今の話は、なんとなくわかった」
「本当に?」
「双葉って、僕をバカだと思っているだろ」
「いいや」
「超バカだと思っているのか?」
「私の言いたいことに察しがついているくせに、わざわざそういうことを聞いてくるウザいやつだとは思っている」
「ウザいってお前ね」
「空気を読めているくせに、あえて読めてないふりができる嫌なやつだとも思っている」

第二章 「仲直りの代償」より

この作品に出てくるヒロインは徹底的に主人公の軽口に付き合わない。
そこが良い。
本当は軽口の存在すら不要だとは思うのだが、そこは諦めた。


・・・と言うか、「青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない」は面白いのである。
本当は主人公の軽口について延々語る感想を書くような、そんな作品ではない。
面白すぎて、私は次の巻の「青春ブタ野郎はプチデビル後輩の夢を見ない」まで一気に読んでしまったのだ。

何なら2巻の方が面白かった。
桜島麻衣が主人公の本命になり得たのは、単に出会ったのが一番早かっただけで、順番が逆ならプチデビル後輩が本命になっていた未来も当然あっただろうと思えるほど、2巻は面白かった。

だが、その事を熱く語るよりも主人公の軽口を語りたかった。
そこは仕方がない。
語りたかったのだ。

しかし、2巻を大絶賛していているが、まだ物足りなさを感じている。
この物足りなさは一体なんだ。

答えは簡単だった。

”青春ブタ野郎シリーズは完結していない。”

これだった。

そして、調べてみると2024年10月10日についに完結するらしい。
あと二ヶ月じゃないの。
まるで運命に導かれているようだ。

これは一気読みのチャンスだ。
生きていく楽しみがまた一つ増えた。
10月10日を楽しみに待っていよう。

私が現実世界に戻れなくなるぐらいに感動させてくれ。
この作品はそのポテンシャルが十分にある。


これはそんなレベルの作品だ。





蛇足
読者中、岩泉舞のデビュー作「ふろん」がずっと頭によぎっていた。


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