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【掌編小説】月と桂男

あのさ、今日知ってんけどな、妖怪って地球だけじゃなくて月にもいるんやって。たった1人で月に住み続けてるやつがおんねん。そいつは『桂男』っていう妖怪らしくてな、月に生えてるでっっかい木を1人でずっと刈ってるらしい。
でも桂男は悪い妖怪じゃないねん。というか、悪いことした罰として月に飛ばされてんて。しかも不老不死の姿にまでさせられて、言うたら無期懲役のもっと残酷な罰やな。兎が呑気に餅ついてる裏で、絶対毎日泣いてんで。
おれそれ知ってから月見るたびにちょっと悲しい気持ちになんねん。話し相手とかおらんくて寂しいんやろなあとか、ご飯どうしてるんやろとか。やっぱ月ってチーズでできてるんかな。だっていくら不老不死やとしても、ご飯食べな木こりなんかできへんやろ?
何百年も元気ってことは、月そのものが食べれるとしか考えられへんやん。それかそのでっかい木に実でも成るんかな。そっちの方が現実的やんな。てかトイレとかどうするんやろな。あかん、いらんことまで気になってくるからあんま考えんとくわ。
月の土地って意外と簡単に買えるらしいからさ、今度買って、いつか月行った時におれの土地に桂男招待してあげんねん。嬉しいやろなあ、まさか月で話し相手ができるとは思ってへんやろうからなあ。楽しみなってきた。今、月に向かって手振ってんねんけどさ、なんか返事が返ってきたような気するわ。

それで、お前の方は元気なん?しばらく会えてないからさ、こんなおれでも心配してんねんで。クラスのみんなも一丁前に心配してるわ、あいつら散々お前のことイジってたくせになあ。
「さ、さ、さ、佐藤。な、な、な、なんか喋ってや」
って、毎日毎日な。そら学校行きたくなくなるよな、分かる分かる。でもお前が来れへんくなってからようやくあいつらも事の重大さに気づいたみたいでな、山井なんか親に死ぬほど怒られて、坊主にさせられてたで。
そうや、これビックニュースやねんけどな、委員長の2人どうやら付き合ってるいみたいやで。これほんまビックリしてんけどさ、こないだ裏道から帰ろう思って体育館裏通ろうとしたらさ、そこに2人がおってん。しかもな、アレの真っ最中やってんで。おれそんなん動画でしか見たことなかったからさ、もうなんか、怖なって思いっきり逃げてもうてん。お前にその姿見られてたらめっちゃ笑われたやろなあ。しかもその後八百屋まで走って、なんでか分からんけどリンゴ3つ買ってん。でもそのリンゴ見るたびに思い出すから、全然食べる気にならんくてな。気づいた?お前にお供えしてるやつな、それそれ。もうおれも見たないから早よ食べといてな。

やっぱこうやって手紙書いてたら、お前と話してるみたいで楽しいわ。お前は今どこおんの?月にでもいてくれたらええねんけどなあ。それやったら桂男と先仲良くなっといてよ、おれも後々やりやすいしさ。ほんで今日桂男の話したんはさ、あの妖怪、まるでおれみたいやなって思ったからやねん。お前のこと守れへんかった罪背負ってさ、おれ地球おんのにな、なんでこんな1人なんやろな。
おれ、もうちょっと頑張るからさ、桂男によろしく言っといてよ。いつかおれの土地で、地球でも見ながら1杯やろうや。
まあ、また満月の時にでも手紙書くわ。

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