プラナリア

(23) 小説を書いています。頑張りたいと思ってはいます。

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最近の記事

【掌編小説】月と桂男

あのさ、今日知ってんけどな、妖怪って地球だけじゃなくて月にもいるんやって。たった1人で月に住み続けてるやつがおんねん。そいつは『桂男』っていう妖怪らしくてな、月に生えてるでっっかい木を1人でずっと刈ってるらしい。 でも桂男は悪い妖怪じゃないねん。というか、悪いことした罰として月に飛ばされてんて。しかも不老不死の姿にまでさせられて、言うたら無期懲役のもっと残酷な罰やな。兎が呑気に餅ついてる裏で、絶対毎日泣いてんで。 おれそれ知ってから月見るたびにちょっと悲しい気持ちになんねん。

    • いちばんなんていらないよ

       はるのあるひ もりのひろばで ネズミのミリーと とかげのチョッピが おにごっこをしてあそんでいます  ミリーにとってチョッピは もりのがっこうで いちばんはじめにできた おともだちです だからミリーは よくチョッピをあそびにさそうのです  2ひきはいつも おにごっこをして あそびます  いまは チョッピが おに ミリーをおいかけています  ところが かぜのように 「ピュー」っと すごいはやさではしるチョッピは あっというまに ミリーをつかまえます  なんどやっても

      • 誰かさん

        列車に揺られてうとうとする 潮風が私に子守をしているみたい なんだかそれは懐かしい気持ち 私が誰かを思い出そうとしているように 誰かも私を思い出してくれるかな あの雲の上にいるのかな あの海の向こうにいるのかな 瞼の裏まで探してみるけれど 私は誰を探しているんだっけ もうすぐ列車を降りなきゃいけない お父さんがお迎えしてくれるの もう子どもじゃないよって何度も言ったのに 何歳になっても私は子どもなんだって 窓からお父さんの姿が見えた 大きかった背中が縮んだみたい 列車を降りた

        • 【小説】ウザいって

          ピントが合わない。目のピントと耳のピント、その両方がひどくズレている。毎月のことだから慣れてきたんだけど、慣れてはいけないと自分に言い聞かせることで今は精一杯だ。 「それでな、こないだ言ってたところ行ったねんけどな・・・」 広大が帰り道にいつもの調子で下手くそな関西弁を使う。僕が広大と関係を持って以来、意識して使うようになったらしい。初めはイラッとしていたのだが、最近はむしろ可愛らしくさえ思えてきた。今回も、「こないだ言うてたところ行ってきてんけどな」と訂正したいところだが、

        【掌編小説】月と桂男

          【小説】惜春

           春が嫌いだ。別れのシーズンだの卒業シーズンだのと、節々から環境の変化を惜しむ声が聞こえてくるから。夜の居酒屋では、大学生のサークル集団が送別会を開いている。花束と寄せ書きを持って泣いている。嬉し涙なのか、悲し涙なのかは分からない。前にテレビで、右目から多く出るのが嬉し涙で、左目から多く出るのが悲し涙だと言っていたのを見た。あいつらは両方の目から大量の涙が溢れていた。そんな純粋に感情を剥き出せるあいつらが憎くて馬鹿げていると思いながら、僕はそれを横目にカウンターで呑んでいた。

          【小説】惜春

          【小説】ネコクインテット

           ここ玉井村には、野良猫が多くいる。推定20匹ほどだろうか。山際にある小さな村であり農業も盛んであるため、彼らにとっては居心地が良いらしい。  彼らは基本的に大人しいのだが、このうちの若い5匹は毎日、夜の決まった時間になると束になって一斉に鳴き始める。村人達はこれを見て、「ネコクインテット」だと調子の良いことを言う。一方で、うるさくて寝られないと迷惑がる者も少なくなかった。僕もそのうちの1人だった。  しかし今日、彼らの癪にさわる演奏の開演時間は大幅に遅れていた。今日は静か

          【小説】ネコクインテット

          【小説】IHとヒーター

           雲が一面に広がる1月半ば、建設現場では少々ピリついた空気が漂っていた。雨が降ってくる前に危険な仕事を終わらせようと、皆が急ぎ足で着々と仕事を進めていた。 「おい藤原!お前どこ見て歩いてんだ!上見て歩けって何回言わせんだよ!頭から串刺しにされてえのかクソ野郎!」 「すみません!注意します! チッ、うっせえよクソハゲ。俺の命の心配するぐれえならそのズル剥け待ったなしの頭皮心配しやがれ。」  藤原清は数メートル上にいる上司にはギリギリ聞こえない声量でヤジを飛ばす。地上にいる数

          【小説】IHとヒーター

          【小説】噛ませ犬ごはん

           今週もまた合コンに参加することになった。これで6週連続だ。なぜこんなにも僕みたいな個性のない存在感おばけが誘われるのか。その理由は明確で、僕が噛ませ犬にピッタリだからだ。今日も定時が近づいてきた。残業が確定している新人たちに妬みさえ覚える。 (今日は楽しみましょう!乾杯!)  今週もまた焼肉だった。隣には仕事中よりも気合が入った上司。前には脳の殆どを眠らしていそうなギャルが2人。今日も僕の活躍の場はなさそうだ。  会が始まるや否や上司がトングを独占し、できる男アピールを

          【小説】噛ませ犬ごはん

          【小説】午後四時奇襲作戦

           午後4時、動画編集の気分転換にカフェに行くことにした。カフェは至極苦手だが、憧れの場所だった。カフェでパソコンをカタカタと鳴らすエリート(風?)サラリーマンをガラス越しにいつも眺めている。僕はいつもそのエリート達を蔑んでいる。あえて通行人に見えやすい位置で作業をする承認欲求丸出し人間だと、言い聞かせている。言い聞かせていると言う自覚があると言うことは、内面妬んでいるということも同時に自覚している。今日はその妬みを脳から排除する記念日になる。僕もエリート風の一員になる。実際自

          【小説】午後四時奇襲作戦

          【小説】可笑しな街

           少年は深い緑の中で彷徨い続けている。空は緑に覆われ、光が殆ど通らない。周りには靄がかかっていて、ジメジメとした、陰湿な空気が漂っている。  少年は逃げてきた。「お菓子の街」と称された故郷からただひたすらに逃げてきた。「お菓子の街」は旅行客の多い、明るい街だった。街はうっすらピンクがかった空気を纏っている。街の至る所から甘い匂いが漂っていて、煙突から煙がモクモクと空へ溶け込んでいく。どこかしこから流れてくる陽気な音楽に、街の人々は一日中踊り明かしている。犬や猫さえも一緒にな

          【小説】可笑しな街

          【小説】路上ライブ

          「どうしたんだ、急に2人で飲みに行きたいなんて。いつからこっち帰ってきていたんだ?」 青木のりかの高校時代の担任、緒方は頼んだ1杯目のビールを待たずにいきなり本題へ入ろうとした。2人が会うのは、のりかが卒業し上京して以来、2年ぶりだった。テーブル席の向かいに座る緒方は、心配ではありつつも、久々の再会を暖かく迎え入れようと温顔を必死に作っているのが伝わる。心なしか緒方の顔には皺が増えたような気がする。 「いやぁごめんおがっち。こっちで私の活動の相談できる人、おがっちしかいな

          【小説】路上ライブ

          【小説】溺愛

          ポケットの中で握りしめるものが、ある日を境に、小さな手から銃へと変わった。 「今年はサンタさんに何をお願いするんだ?」 「んー、まだ決めてない。まだ1ヶ月も先だよ?」 11月25日は、そんな会話を交わしながら、街の大きな通りを手を繋いで歩いていた。11月下旬だったが、もう街には至る所にイルミネーションが点灯しており、クリスマスムードが全開だった。 11月とはいえ、寒さは一人前に冬であることをしつこく主張している。 だからこそ、コートのポケットに入ってくる小さな手の温かさが

          【小説】溺愛

          【小説】蓋

          3年1組の田代は、クラスの中心メンバーからいじめを受けている。 彼は今日も朝から、画鋲を上靴に入れられ、机にはガムを大量に付けられ、投稿するや否や彼の弁当をゴミ箱へ捨てられた。 こんな生活もかれこれ6ヶ月を迎えようとしている。初めの頃は田代も必死に抵抗していた。担任の先生に相談したり、部活の先生に相談したり、SNSに訴えかけたりもした。あらゆる手段を使ったが、その全てが空しく散っていった。全員が他人事のような対応だった。SNSに至っては、田代の訴えを面白がり、誹謗中傷を助長す

          【小説】蓋

          【小説】依存

          (ドンドンドンドン) 今日もあの男が、ナツミの家へやって来た。 ここ1ヶ月間、毎日家に来ている。髭の濃い、丸坊主の40代ぐらいの男だ。ナツミが家にいる時間を計って、いつも決まった時間にやって来る。 (ドンドンドンドン!) ドアを叩く音が大きくなった。 ナツミは怖くなりドアから一番遠いリビングの端へ行き、耳を塞ぐとその場でしゃがみ込んだ。アレルギー反応が出た時のような、嫌な汗を全身に滲ませている。ワンルームの部屋の片隅に、まるでカメようにひっそりと身をかがめている。 こん

          【小説】依存

          【小説】人助け

          ここ数ヶ月、ある地域で度重なる拉致被害があり、先日恐れていた殺人事件にまで発展した。その場で我々は1人の男を現行犯逮捕し、男は抵抗もなくあっさりとこれまでの犯行を認めた。 「お前の目的はなんだったんだ。」 俺の前に座る男は俯いており、こちらと目を合わす気配はない。しかし妙に落ち着いており、全てを諦めたような様子だった。年齢は30代前半といったところだろうか。不思議な気配を纏っている。 「人助けですよ。生きる希望を与えてあげただけです。」 男は微かに笑みを浮かべながらそ

          【小説】人助け

          【小説】宅急便を信じて

          「それでは、会場後方扉にご注目ください。 新郎新婦、ご入場です! 皆様どうぞ、おふたりに更なる祝福をお送りください!」 (パチパチパチパチ) 盛大な拍手に包まれ、涼太と紗夜はメインテーブルへと歩みを進める。一歩一歩噛み締めるように、ゆっくりと。 ビデオを回す人、パシャパシャとカメラで連写する人、泣きながらこちらへ手を振る人。さまざまな形で、温かいエールを送ってくれる。 こんなにも2人が2人で主人公である瞬間は、今後実感することはないだろう。というより、ない。 「20××年

          【小説】宅急便を信じて