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破壊

 愛は劇物です。分量を間違えたら取り返しがつかなくなる。公園のひまわりはみんないじけたみたいに俯いて、暗く、悲しい陰のところで咲いております。
 二月にわたしは身籠りました。この子は彼の子。彼は、わたしを好きと云ってくれました。右の目の下の泣きぼくろも、肘のあざも、背中の傷も、彼は綺麗と云ってくれました。
 初めて遊んだ日、彼は真っ白なリネンのシャツを着てやって来た。待ち合わせ場所の黄色いカフェで彼は誰より幸福に見えて、店の窓から差し込む光も、コーヒーカップの丸みも、ケーキの柔らかさも、他の客の話し声も微笑みも、きっと全て彼のために用意されたもののように思えた。わたしと彼はたまに会って遊ぶようになった。ハテノ博物館で王冠を見たり、図書館で動物の栞を選んだり、二人でいろんなところへ行った。会わない日も彼のことを考えていた。

 けれども彼は、あれから顔を見ません。あの家で、奥さん亡くなったみたいだから。

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