見出し画像

海中狐

 ここから北西のポルパシア湾に生息する海中狐かいちゅうこの数が年々減少していることについては原因がいくつか考えられた。ひとつは海中狐の尾毛びもうの需要増加だ。地元の住民は、釣具の浮の飾りにしたり、祭具にしたりする。ある有名な占い師は死相を占うのに使っているとかいわているけれど、そんなものは根拠薄弱の眉唾物に違いないのに、どうしてもみんな大枚叩いて占ってもらおうとする。
 この尾毛がじつに奇妙で、深い青のような、それでいて昼のように白いような不思議な色をしている。
 ついで他の海洋生物との共存不和が挙げられる。これまで海中狐の天敵といえばテンテンウツボが常だったけれど、最近はオオツノガイが海中狐の縄張りに侵入してきているのが目撃されている。人の背丈の二倍もあるオオツノガイの角はほんとうに太くて頑丈だから、彼らの角を見ただけでも海中狐は泡を全部吐いて死んでしまう。海中狐のメンタルは非常に繊細なのだ。
 他にも様々な原因が考えられている。海面の上昇、ごみの飲み込み、生殖器の消失、キャトルミューティレーション……。
 だが吉報もある。オープ水族館で飼育されている一対の交尾が確認されたのだ。一対の交尾など彼らの不運の規模からすればほんとうに微々たるものかもしれないが、上手くいけば新生海中狐誕生という希望が知らされるかもしれない。

いいなと思ったら応援しよう!