一体誰に?
穏やかに過ごしたい日に限って家の鍵を無くしたり、犬に吠えられたり、鼻紙がゴミ箱の口を外れたり、不注意な石ころ兵が脛に直撃してきたり、彼女が不機嫌だったり、ガソリンの残量が心許なかったりする。これはなにか幸福について一定の基準値というもが定められていて、僕はそれによって幸運を調整されているように思えてならない。
一体誰に? 僕の知るべきところではない。少なくとも特定の何者かが僕にそうなるように仕向けているわけではないだろう。
とはいえきっと悪いことばかりでもない。ラジオから調子のいい曲がリクエストされたり、洗濯物がよく乾く日が続いたり、鞄の中から鍵が見つかったり、投げた鼻紙がゴミ箱の中にすとんと入ったり、彼女がデートに髪を下ろしてきたり、石ころ兵の直撃を避けたりできるのだ。
相変わらず犬には吠えらるけれど、それなりにいいこともあるものだ。やっぱり幸福は何者かの手によって調整されているのかもしれない。
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