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スカート

 高校二年の春、東京の高校からひとりの女の子が転校してきた。
 彼女は誰もが認める美人という訳ではなかった。色素の薄い滑らかな肌に、切って開いたような一重、凹凸の目立たない顔立ち。彼女はいわるゆ薄幸そうな顔立ちをしていた。テレビに出てくるアイドルや女優のような華のある美しさではなかったのだ。それでも私の心にとっかかりを作るくらいには彼女は充分な美しさを備えており、彼女の何の気ない所作のひとつひとつが胸の奥に食い込んで、私をつと離さない。
 たとえば、床に落ちた教科書を拾う際にスカートの裾を膝裏に折り込む仕草や、ふと俯くときに顔の前に垂れた髪の細い束を耳にかける仕草を見ていると、私の胸の芯の部分が痛みにも似た甘い疼きを覚えさせた。
 だから仕方のないことだった。女子更衣室に忍び込み、彼女の下着を盗んだことも、移動教室で彼女がいないときにリコーダーの先を舐めたのも全部、全部仕方がなかった。悪気はなかった。そう校長に講義したが無駄だった。私は学校から懲戒免職を受け、近所では浮いた存在になってしまった。

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