同窓
バスに乗り合わせた乗客は友人のコルナドンだった。高校を卒業してもう何年も会っていなかったからバスを降りるまで気が付かなかったのだ。
コルナドンは雨の降る街の中をまるで子どもみたいにクルクル回ってスキップしたり写真撮ったりしていた。彼は手に持った革の鞄の重たさも気にする様子もなく、黒のロングコートがスキップのたびにひるがえって、水たまりを蹴り上げた靴先から水の粒がはじけて飛び散った。
「久しぶり、ずいぶんはしゃいでいたね」と僕は声をかけた。彼の顔は茹で蛸みたいに赤くなったけれど、すぐに昔のような落ち着きで笑いかけた。
「君はひどいやつだな」とコルナドンは云った。「気がついていたならどうして早く声をかけてくれなかったんだい?」
「まさか君だとは思わなかったのさ」と僕は言った。
コルナドンはまた顔を赤くして、君は何でここに? と尋ねた。
「仕事できたのさ」と僕は答えた。「おととい宇宙艇の乗組員が星の魔物に攻撃されたのは君も知ってるだろう」
「ああ、あのナマコの……」とコルナドンは云った。
「そうだ。そのナマコの体液を回収しにきたのさ」
そうか、とコルナドンは云った。
「君こそ、どうしてここに来たんだい?」と僕は言った。
「それが妙なんだよ」とコルナドンは云った。左手で顎をさすりながら何か思い出すように話す癖は学生の頃から変わっていない。「宇宙ヘルメットの案内でバスに乗ったんだ。案内されるままにバスに乗って、気がついたらここに着いていた」
「月から乗ったのかい?」と僕は訊いた。
「そうさ、何で知ってる?」とコルナドンは云った。
「その宇宙ヘルメットの彼はミスター・スーツサットだ」
「何だい、そりゃ」
「詳細はあんまりよく分かっていないんだが、月にいる宇宙ヘルメットといったら彼くらいなもんなんだ」
「何でその――ナントカ・スーツサットは僕をバスに乗せたんだろうね」
「さあ、わからない」と僕は言った。
コルナドンは浮かない顔をした。