だれ
連休を終えて帰ってきた僕の部屋には彼が住んでいて、シャンプーも、冷蔵庫の苺ジャムもすっかり替えられてしまっていた。
「誰なんですか、あなたは」と僕は言った。「なぜ僕の部屋にいるんですか」
彼はブルーベリージャムのトーストを齧りながら僕をみていた。焼きすぎて黒っぽくなったトーストはさくりと音を立てて噛みちぎられた。彼の口許からパンくずがこぼれて丸皿の上に散らばる。
「あなたこそ」と彼は云った。ひどく落ち着き払った声だ。こんな状況には慣れっこなんですよ、といった調子で僕の顔をぼんやりと見ていた。「なぜ私の部屋にいるんですか」
「なぜって、ここは僕の部屋だからです」と僕は言った。「その本棚に貼ったポケモンのシールは紛れもない、僕が貼ったものです」
「証拠はあるんですか」と彼は云った。「どうして家主でないあなたが、僕の部屋の家具にシールを貼るんです? そのシールは私が貼ったんです。証拠はゴミ箱の中にあります。僕が昨晩ポケモンのパンを買って食べた時のゴミです。僕はそのおまけについていたシールを貼ったんです」
僕は混乱していた。よく考えてみたらシールなんて貼ったことないのだ。それに本棚だって僕のものじゃないように思えた。本棚にある文庫の背表紙にも違和感があった。僕は村上春樹なんて読まないのだ。
「あなたは誰なんですか」と彼は云った。
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