見出し画像

雪の地平

 夢の中に消えた鳩の行方を探していた。金曜の夜のことだ。昼間に降った雪のせいであたりはしんしんと冷えきり、暗い空の真ん中に月の大宝珠がぽっかり浮いていた。月光が雪の面を白く浮かび上がらせ、その白は地平の果てまでどこまでも続いてゆくようだった。草木の茂りも建物もない穏やかな大地の上に私はいて、吹き抜ける北風の冷たさだけが私の存在を覚えている。
 歩みのリズムは積雪の深さに比例して感覚を空けていった。また雪が降り始めていた。北風に乗って吹き抜けてゆくのもお構いなしに僕は歩き続けた。雪のつぶは大きく、手に取ったひとひらは切り紙で作ったようなうつくしい形をしていた。手のひらの雪はしおれるように溶けてなくなって、後には水のつゆだけが残った。口から吐き出した息はまだ熱を帯びるけれど、すぐに氷結して白いもやに変わる。この靄もいつか雪になるんだろう。
 どこまでも続く雪の地平の中で鳩の行方を探していた。冷たさに匂いはなく、遠く遠く広がり続ける地平の中に私が一人だけでいた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?