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夏の昼間

 携帯に目を落とした。八月十五日、SNSでは戦争の記事が並ぶようになる。戦後を生き抜いた少女と空襲の爪痕、祖父が戦地で見た光景、ミミズを奪い合う子どもたち、戦後日本の異様な実態。スクロールする指に流れていく記事を目で追いかけていた。もう一ヶ月もすればこの記事も一目に留まらなくなる。
 駅前のバスターミナル周辺をカップルやら家族連れやらが歩いてゆくのを横目に、わたしはイヤフォンから漏れる音楽を聴いていた。駅で聴く音楽は家で聴くのと印象が全く違う。それは例えば意識の委ね方とか、身を置く環境が違うからなんだろう。一人で暮らす部屋には誰もいないし、外には人が誰かしらいる。日傘を差す男、老夫婦、ホットパンツを穿いた女。女のホットパンツから伸びる白い太ももは細過ぎず太過ぎずの健康的な太さで、まるで女神みたいな美しさだけど、顔の化粧がだめ。なってない。ファンデの塗りすぎで白くて平面で、スーパーマリオに出てくるドッスンみたいになってる。かくいうわたしも、人の見た目に言及できるほど可愛くもないのだけれど。というか、どこに出しても恥ずかしくないくらいの美人はそもそも他人がブスなことに興味なんてないんだろうな。自分が可愛いことを知ってるから、他人が容姿にどれだけ時間をかけているかなんてはなから問題に上がらないのだ。ホットパンツの女は人混みに紛れて見えなくなった。きっともう二度と認知することはないだろう。
 立ち昇る入道雲がビルの背も追い越して世間を見下ろしていた。昼の一時を過ぎていた。

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