見出し画像

朝と散歩とすっぽんぽん

 朝、スケトットはまだ誰もいないことをいいことに家を出た。気に入りのスニーカーを履いて出た街はまだ汚されていない清潔な空気の中にあって、風に吹かれる街路樹も、橋の下を流れる川の透明も、手の冷たさも、この時ばかりはみんなスケトットのものだった。
 スケトットは田んぼまで歩いた。家からそれほどかからないその場所は、刈り入れの済んだ四角い田んぼが山の裾まで続いてる。畦道をふむ彼の足下を、一対のフクラモチスズメが毛糸手袋の片っぽの周りをぴょんぴょん飛び跳ねて、そのまま飛んでいった。飛んでいった先、山よりも大きなダイダラポッタラがこちらにお尻を向けて立っているのが見えた。
 スケトットは畦道に敷かれたたくさんの石ころの中に、まんまるの石ころがあるのを見つけた。その石ころの丸みは、長い間川の流れに当てられて角を削られたことでしか出せない天然の丸みであった。スケトットは普段石ころなんて気にかけないけれど、この時ばかりはその石ころが気になって手を伸ばした。この石ころなら自分の石ころ兵にするのにピッタリかもしれないと思ったのだ。石ころは指でつまめるほどの大きさで、ちょうどピンポン玉とおんなじくらいの大きさだった。スケトットは手のひらに乗せてその自然な玉をよく見てみようとしたのだけれど、地面の土に濡れて色の変わった石の底に、虫が石ころにへばりついているのを見つけてスケトットは後ろに投げ捨てた。するとすぐ「おい、あぶないじゃないか」とスケトットの後方で男が云った。スケトットはすっかりあわてて、すみません、と言ったのだけれど、男はそんなに気にしない様子でそのまま行ってしまった。男は、すっぽんぽんだった。
 スケトットは家に帰って支度を始めた。ダイダラポッタラのそばにある山のてっぺんから日の光が降りて、ぽくぽくと街を照らし始めていた。

いいなと思ったら応援しよう!