誕生
『産まれたよ』と電話越しにタケが云った。
「おめでとう」と僕は云った。駅の改札を抜けて外に出た。外は寒い。吐く息が真っ白で、睫毛が毛先から凍ってしまいそうだった。
『新一の云った通り女の子だった』と彼は云った。僕の名前は一星だけれど、友人らからは新一と呼ばれている。このややこしさは一族の姓が新である偶然を借りて、母が好きな作家の名前を捩ってつけたからだ。
『写真を見てくれよ』そう云って送られてきた画像には、柔らかい布に包まれた小さくて真っ赤な顔の赤ちゃんが写っていた。
「名前はもう決めたのか」
『名前な、女の子ならカコって名前にしようって前から二人で話してたんだ』
「そうか」と僕は言った。「よかったな。落ち着いたら出産祝いを届けにいくから」
『ああ、ありがとう』
通話を終えて僕は歩き出した。終電を過ぎた駅に人の姿はまばらで、光立つビル群のずっと上には星が散っていた。