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サッカーが繋ぐ物語~大宮アルディージャ戦完結編~

スポーツの世界では
様々な感情が入り乱れる。
熱狂、興奮、歓喜、失望、失意、落胆、憤慨、憤怒、等々。
そこに
歴史や時代、土地や文化の背景が折り重なり
それぞれの場所や人に、数多の物語が生まれる。
そんなスポーツの舞台において
「伝説」と呼ばれ、歴史に刻まれるような試合が誕生することがある。
サッカーでも
そんな試合がいくつか存在する。

私が目撃し、体感したものは
そういうものだったのかもしれない。





J3リーグ第25節
AC長野パルセイロVS大宮アルディージャ
雷雨で中止となったこの試合の取り扱いが
9月3日に公式からリリースされた。

中断した79分からの再試合。
入場は無料。
駐車場は全面開放。
シャトルバスの運行とスタグルの出店は無し。
という異例の試合となる。
いったいどんな試合になるだろう?
どのくらいの観客が集まるだろう?
シャトルバス無しだと新幹線で来る大宮サポさんは大変だな。
いろんなことが頭の中を駆け巡る。
なにはともわれ
この決定により、パルセイロは8日のFC大阪戦からホーム三連戦ということになった。
ここで三連勝出来れば、一気に昇格戦線に舞い戻る道が開ける。
逆に、ここでハデに躓くようだと昇格どころかJFLへの降格の危機がちらつく可能性もある。
天国か地獄か。
クラブの命運を左右しかねない三連戦となった。

9月4日
いつものようにXのTLを眺めていた。
11日に現地参戦を決めた長野サポや大宮サポさんのポストを見ながらニヤニヤしていた。
すると、何とも嬉しいニュースが飛び込んで来た。
長野駅からUスタまで、臨時のシャトルバスを運行するというではないか!
しかも無料!
エラいぞパルセイロ!
スゴいぞアリーナ!
滝澤さん!抱いてくれ!

恩返しの連鎖!素敵!

更に!
スタグル出店が無いということで
パルサポ御用達の町中華
俺たちの「橙宴」さんが、こんな告知を!

感謝の連鎖!超素敵!

11日の再戦に向け、いろいろと盛り上がって来た。
だがその前に
三戦全敗の難敵との戦いが待っている。
ここを退け、勢いをつけて11日に向かいたいところだ。


9月8日
対FC大阪戦
天気は晴、3試合連続滝行の心配はなさそうだ。
私達夫婦は地元地区のイベントに参加した後でスタジアムに向かったため、いつもよりだいぶ遅い到着となった。

急いでスタジアムに入る。
遅い入場だったが、いつもの席周辺は空いていた。
急ピッチで気持ちを高める。

ホーム三連戦の初戦だ!
大宮との再試合に向けて弾みをつけるためにも絶対勝つぞ!

ようこそ!FC大阪の皆様!


この試合について
多くを語りたいパルセイロサポーターは皆無であろう。
前半の内に2失点。
大阪の強度と速さに太刀打ち出来ず
ほぼなす術なく0-2の完敗。
スコア以上の惨敗だった。
大宮戦のような躍動感はなく
相模原戦のような粘りもなかった。
スタンドが最も盛り上がったのは
昨年パルセイロのキャプテンを務め、今季FC大阪に移籍した秋山が試合後に挨拶に来てくれた時だった。
弾みをつけなければならなかった試合は
今季ワーストゲームで幕を閉じた。

屈辱的敗戦…

大宮戦が成立していないため一試合少ない状況とはいえ
降格圏との勝点差は4となってしまった。
大宮との再試合は絶対に落とせない!
大きな重圧と不安を背負い戦うこととなった。



2024年9月11日
この日は朝からそわそわと落ち着かない気分だった。
私は何を目撃することになるのか?
私は何を体験することになるのか?
期待と不安が交互に押し寄せる。

何とか仕事を調整し15時前には出発出来る手筈を整えた。
(15時からあった村のイベントの会議をすっかり失念しておりました。関係者の皆様、大変申し訳ありませんでした🙇)

15時半前にはスタジアムに到着した。
駐車場には、ちらほらと大宮サポさんの姿もあった。
知り合いから頼まれ事があり、パルセイロの運営の方とお話させてもらう約束をしていたので受付へと向かった。
選手バナーやのぼりはいつもの通りなのだが
やはりいつもとは違う空気が漂っているような気がした。
運営の方との話が終わり、一人になった。
女房殿は仕事終わりで駆けつけることになっているので、今日は別行動だ。
スタジアムの周辺をぶらぶらしてみることにした。

試合開始3時間前。
いつもなら、スタグルが賑わい始めオレンジを身に纏った人達がどんどん増えて行く時間帯だ。
だが今日は様相がまるで違う。
チケット売場に列が出来ることも
ガチャの行列が出来ることも
ライオーがグルメストリートで愛想を振りまくことも
バス入り待ちの準備が始まることも
ない。
試合のない日とも違う。
高校選手権の予選の時とも違う。
パブリックビューイングやファン感の時とも違う。
そこには
私が見たことのない長野Uスタジアムの姿があった。

人気のないチケット売場
スタグルの姿はない
ショップも開いていない
何か不思議な気分

アリーナのシャトルバスもUスタに到着し、大宮サポさんの姿も増えて来た。
平日の夜、たった十数分のために
どのくらいの人が大宮からやって来るのだろう?

車に戻り一服している内に、開門の時間が迫って来た。
準備を整え、入場口へと向かうことにした。

ビクトリーロードの辺りで知り合いのサポさんと遭遇し話し込んでいると
いつもより短い待機列がざわつき始めた。
選手バスが入場してくるようだ。
幾人かのサポーターと一緒にバスを見下ろす。
「頑張れよ!」
「頼むぞ!」
「勝つぞ!」
バスを降りて来る選手達に声援が飛ぶ。
私は黙って選手達を見つめ祈っていた。

一緒に勝とう!


太鼓の音もコールもチャントもないバス入り待ちが終わり、開門の時間となった。
わずかばかりの待機列の最後尾から入場し
ゴール裏へと向かった。

ゴール裏の出店ブースに臨時のグッズショップが開店していた。
いつもなら、焼きそば、チャーハン、牛乳パン、といったスタグルが並ぶ場所だ。

今日はお目当てのグッズがあった。
大宮アルディージャさんとのコラボ缶バッジ!
本日限定で売り切れは必至と思われた。
女房と知り合いに頼まれた分も買わないといけない。
席を取る前にショップへ向かい、無事購入することが出来た。

GETだぜ!

ゴール裏のいつもの席に向かう。
一旦荷物を置いて辺りを見回す。
中心部に近いエリアに空席が目立つ。
せっかくの機会だ、いつもより中心部に近い場所で応援してみよう。
荷物を持って移動する。
少し場所を変えただけなのに、空気が違う気がした。

アウェイゴール裏にも、ぞくぞくと大宮サポさんが集まっている。
スゴい人達だ。

練習前のピッチに目をやると、違和感があった。
センターサークル付近にゴールが置いてある。
いつものピッチ内練習とは違うやり方をするようだ。
目に映るもの全てが、特異な試合であることを示唆していた。

おわかりいただけただろうか?

試合開始まで一時間ほどとなった。
大宮サポーターが声を出し始める。
パッと見でも百人は越えている。
屋根で反響しているとはいえ、流石の声量だ。

それにしても
平日だよ?
試合時間十数分しかないんだよ?
何で長野まで来てるの?
ヒマなの?(誉めてます)
バカなの?(超誉めてます)
変態なの?(最大級に誉めてます)

再びようこそ!

俺たちも負けてはいられない!
短い時間に全てをぶつけなければならない!
もたもたしてる暇はない!
最初から全開!フルスロットルだ!

AC長野!!!AC長野!!!

さぁ!やっぞ!!

最初から全力で行くための準備は急ピッチで進む。
出し惜しみのないように声を張り上げる。
ゴール裏もバクスタもメインも、徐々に人が増えて来た。
あの日バクスタで一人ずぶ濡れになりながら拳を振り上げていた男も、いつもの席に鎮座している。

もうすぐ、数十分の死闘が始まるんだ!

熱は高まり続けて行く。

ピッチ内練習が始まった。
そこには監督の姿もあった。
ピッチ内練習でのリキさんの姿というのも、二度と見られないものだろう。
いつもなら、ボール回しやシュート練習に費やす時間はミニゲームに変わっていた。
試合時間残り10分のテンションに持って行くためなのだろう。
その間、ゴール裏ではチャントが続く。
今日はもう休んでる暇などない。
歌い続け、叫び続けるんだ!

開始30分ほど前になって、ようやく女房が合流した。
さっきまでの出来事について話してると、女房が笑い出した。

何笑ってんの?
「もう声枯れてるし(笑)」
本当だ…。
まだ試合前なのに声ガラガラだ…。
これも、初めての経験だ(笑)

試合開始が迫る。
選手紹介も選手入場も簡易的なものだった。
DJポリの登場もなくSKYも歌わない。
ゴール裏は
すでに試合中かのごとく、テンションMAXで歌い続けていた。

試合は長野のゴールキックからスタートする。
ビジョンに表示された時間は79分。
主審の笛が鳴り
キムミノの蹴ったボールが空高く舞い上がった。

「あの日」の続きが始まった。

試合はいきなり激しいぶつかり合いとなった。
両チーム共に、様子を伺う素振りなど微塵もない。
一歩でも一秒でも早くゴールへ向かおうとする姿勢は
8月24日から、そのままタイムスリップして来たかのようだった。

83分、長野陣内で大宮ボールのスローイン。
大宮はロングスローを選択する。
長野の右サイドからニアに放り投げられたボールは
長野の選手に当たり大宮の選手の前に流れた。
大宮の選手に当たったボールは、そのまま長野ゴールへ吸い込まれた。

やられた!

一瞬そう思ったが、逆サイドの副審がフラッグを上げている。
判定はオフサイド。
まさに命拾いだった。

白熱した試合は続く。
難しいことは何も起きない。
蹴り合い、競り合い、ぶつかり合い。
この数十分に全てをかける男達の意地と魂が交差する。
サッカーの根源的な熱さが凝縮されているように感じた。

ゴール裏も休むことはない!
全力で一気に駆け抜けるんだ!
歌い!叫び!跳び!手を叩き!
選手と共に勝利を目指した。

時間はあっという間に過ぎた。
ビジョンの時間は90分を示す。
アディショナルタイムは、4分。

行け!
最後まで走り続けろ!
ゴールを!
勝利を!

思いを乗せた「千尋の谷」がスタジアムに響く。
選手の躍動とスタンドの熱気が一体となる。

もう少し!
あと少し!
時間を!
チャンスを!


熱狂を静めるかのように
主審の長い笛の音が響く。

試合終了。

長い長い90分は
刹那のごとく短い15分を経て
スコアレスドローという結果に終わった。

お疲れ様でした

疲れた~!
それが偽らざる本音だった。
勝てなかったのだから満足はしていない。
当然、悔しさもある。
だが、それとは別に貴重な体験をしたという充足感があった。
90分の試合以上に感じた疲労は、心地よいものだった。
ピッチを見つめながら、一つ大きく息をはいた。

選手達が挨拶にやって来る。
皆、一様に悔しそうな表情だ。

次だ!次勝とう!

そう思いを込めて、拍手した。

メインスタンドに挨拶をし終えた選手達に
コールの声が飛ぶ。
いつもなら、これで選手達はロッカールームに引き上げるのだが
この日は違った。

選手達はアウェイゴール裏へと歩を進める。
クラファンへのお礼だろう。
大宮サポーターの前で深々と一礼する。
両チームサポーターからの拍手がスタジアムに鳴り響く。
特別な背景を持った試合だ。
過酷な戦場でこうした光景を目にするのは
素直にいいものだと思った。

選手達がピッチを後にする。
コールリーダーからの熱い言葉を聞いて解散。
と、その前に。
横断幕の撤収作業への協力依頼があった。
時間も人手も足りないらしい。
今日は時間的にも余裕がある。
手伝うことにした。

横断幕の掲出作業は何回か手伝ったことがある。
何となく様子はわかったので、二階へと向かうことにした。
この日、二階席は使用されなかったため階段の照明は点いていない。
スタジアムの照明が洩れる薄暗い階段を慎重に登って行く。
指示に従いながら急いで撤収作業に取りかかる。
ふとピッチを見下ろすと
何人かの選手達がランニングしたりボールを使って身体を動かしたりしていた。
コンディション調整のための措置だろうか。
これもまた、二度と見られない光景だろう。

撤収作業も終わり、週末にまた再会する約束をして駐車場に向かった。
振り返ると
激闘を終えた長野Uスタジアムが静かに佇んでいた。

8月24日
期せずして生まれた
「オレンジの絆」とそれに纏わる物語。
特別な余韻を残しながら
その第一章が幕を閉じた。


一夜明け
昨日のことを振り返る。
Jリーグ史上最短の再試合。
平日夜の15分。
集まった観客は、2043名。
大宮からは150名ほどが訪れたらしい。

本気で思う。
とんでもねぇバカ野郎共だ!
(これ以上ない褒め言葉です)

いつものようにXのTLに目を通す。
長野サポも大宮サポさんも、昨夜の余韻に浸っているように見えた。
悔しさもあり充実感もあり。
シャトルバスに手を振ってくれた長野サポの話や橙宴を訪れた大宮サポさんの話やアリーナ本社を訪れてくれた大宮サポさんの話。
優しさと人間味に溢れたポストに
ニコニコしながらいいねを押し続けた。

一部でオフサイド判定について物議が醸されていたが、そこまで大きな話題にはなっていなかった。
あれはまぁ…
うん…
ノーコメントで(笑)

私は、8月24日に始まった一連の出来事を振り返っていた。
大宮から襲来した1400名を越えるサポーター。
白熱した試合展開。
突然の雷雨による中止。
その後に起きた大きなトラブルと対応。
それに対する感謝と恩返し。
全てが繋がって行った。
対戦相手、天候、クラファンのタイミング、等々。
何か一つでも欠けていたら
ここまでの物語にはならなかったのではないか。
少なくとも
この短期間に、私がこんなに文章を書くことにはならなかっただろう。

私は伝説に立ち会ったのだろうか?
私は歴史の目撃者となったのだろうか?
当事者ではない人達がどう評価するかはわからないが
私は
生涯色褪せることのない思い出と宝物を手に入れた。

あの日、あの時
俺は、あの場所にいたんだぜ!

そう言えることの喜びは
唯一無二の喜びである。

大宮さんとの物語は
ここに一つの完結を見た。
そしてまたいつか
新しい物語が生まれるだろう。
そのためにも
俺たちは、もっと強くならなきゃいけない。
そう、固く心に誓った。

必ずや!再戦を!





日本中で
世界中で
いくつもの物語が生まれ
そして
それぞれの物語は
そこかしこで
繋がり続けて行く。
これまでも
そうであったように
これからも
そうあり続ける。


「サッカーが繋ぐ物語」に
ENDマークがつくことはない。


to be  continued…


























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