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SNS炎上対策ガイド~自治体担当者のための危機管理・予防・対応策~

第1章 はじめに

1.1 SNS炎上の現状と自治体への影響

SNS炎上の定義と影響
 近年、SNSの普及に伴い、「SNS炎上」が大きな社会問題となってきています。SNS炎上とは、企業や個人のSNS投稿に対してネガティブな反応が殺到し、ブランドイメージやレピュテーションを著しく損なう事態を指します。自治体にとっても、SNS上で施策や対応に対する批判が集中すれば、住民の不信感を招き、事業の遂行や財政に支障を来す可能性があります。また、職員個人による不適切な発言がSNS上で拡散すれば、自治体全体のイメージダウンにもつながりかねません。

対策が重要な理由
 炎上対策が重要な理由として、発生件数が年々増加傾向にあることが挙げられます。コロナ禍によるデジタル化の加速もあり、SNSの利用者が拡大し、炎上のリスクが高まっているためです。また、一度炎上すると自治体のイメージや職員の社会的評判を根本的に損なうことが多く、回復が極めて難しくなることも重要な理由です。

1.2 本稿の目的

 本稿では、自治体職員の皆さまが、SNS炎上の本質を深く理解し、その予防と適切な対応方法について、広報理論を交えながら解説していきます。リスクコミュニケーションと危機管理の観点から、潜在的な危機を未然に防ぎ、発生時の対応と収束に向けた取り組みを体系的に示していきます。

第2章 SNS炎上の歴史的変遷と現状

2.1 時代による炎上の変化

2015年以前:モラル欠如による炎上
 2015年以前は、主に企業や個人の倫理的問題や不祥事が原因となっていた炎上が多数を占めていました。例えば、ペニーオークション詐欺事件では、企業の違法行為への批判が集中し、ブランドイメージが一気に失墜しました。

2016年以降:社会問題化する炎上
 2016年以降は、社会問題に端を発した炎上事例が増加しています。#MeToo運動やBlackLivesMatter運動など、ジェンダーや人種差別といった問題をめぐる議論が、SNS上で大きな波紋を呼んでいます。これらの炎上は、特定の企業や個人ではなく、社会的な問題に対する議論の一環として捉えることができます。

2.2 コロナ禍の影響

 直近では、コロナ禍による状況変化もあり、SNS上での炎上事案がさらに増加しています。2019年には1,228件だった月間平均炎上発生件数が、2021年には1,766件にまで増えています。SNSの利用者が増え、社会的な関心も高まったことで、自治体の些細な失態がすぐに炎上の的になってしまう状況となっています。

第3章 SNS炎上の本質的理解

3.1 建設的な対話の機会としての炎上

 SNS上の炎上は、しばしば「悪」とみなされがちですが、それは必ずしも正しい見方とは言えません。炎上の背景にある要因は多様で複雑です。自治体の不適切な対応に対する批判や、公共政策に関する議論など、炎上の原因は必ずしも悪質なものばかりではありません。むしろ、炎上は新しい価値観の対立や社会的な変革の機運を示す一つのサインとして捉えることができます。

3.2 炎上の構造とその意味

 SNS炎上の構造を見ると、炎上する側と支持する側が存在していることがわかります。炎上に巻き込まれた自治体にとっては、敵対者と味方が同時に存在しているのです。炎上の背景にある社会的課題に共感する支持者に対しては、建設的な議論を行うことで、新しい価値観の創造につなげられる可能性があります。一方、無条件に非難する敵対者に対しては、冷静な説明と粘り強い対応が求められます

第4章 SNS炎上への基本的な対応フレームワーク

4.1 初動対応の重要性

 炎上の収束には通常30日程度かかると言われていますが、初動が遅れると状況がさらに悪化してしまうリスクがあります。広報担当者は、SNS上での住民の反応の変化を細かくモニタリングし、早期にその兆候を把握する必要があります。24時間以内の初期対応を心がけることが望ましいとされています。

4.2 誠実なコミュニケーション

 自治体は、自らの過失や誤りを素直に認め、真摯な謝罪と改善策を提示する必要があります。一方的な主張ではなく、住民の声に耳を傾け、建設的な対話を重ねることが重要です。単に早期対応を行うだけではなく、自治体の姿勢や説明の内容が誠実であるかどうかが、炎上収束への鍵を握っています。

4.3 状況に応じた情報発信手段の選択

 SNSとWebサイトの連携やプレスリリースの活用など、炎上発生時のコミュニケーション手段を組み合わせて活用することが重要です。SNSでは簡潔に問題の指摘に対する自治体の初期の見解を示し、Webサイトには詳細な背景説明や改善計画などを掲載することで、情報の完全性と説得力を高められます。

第5章 具体的事例分析と教訓

5.1 成功事例:りゅうちぇるさんの対応

 タレントのりゅうちぇるさんの離婚告白に対する対応は、炎上への適切な対処として評価できます。離婚を自ら発表し、「新しい家族の形」として受け入れてほしいと訴えかけました。自らの状況を素直に認め、真摯な説明を行い、前向きな姿勢で新しい可能性を示したことで、建設的な議論の実現につなげることができました。

5.2 失敗事例:ヴァレンティノの広告コントロバーシー

 ファッションブランド「ヴァレンティノ」の広告では、モデルが着物の帯を踏みつけるシーンが問題視されました。日本の伝統文化に対する敬意が欠如しているとの指摘を受け、結局、広告は撤回に至りました。この事例は、文化的な配慮の不足と、問題の早期認識・迅速な対応の重要性を示しています。

5.3 個人の炎上事例:ジャスティン・サッコ氏

 PR担当者のジャスティン・サッコ氏は、人種差別的な投稿をツイッターに行い、世界規模の炎上を招き、職を失う結果となりました。この事例からは、SNS上の一時的な投稿でも即座に思わぬ影響を及ぼし得ること、個人の非道徳的な行為が所属組織全体のイメージダウンにつながる危険性が示されています。

5.4 企業によるステルスマーケティングの事例

 ディズニー映画「アナと雪の女王2」では、SNS上の偽装広告が問題視されました。広告性の不明示により消費者の信頼を損なう結果となり、批判を招きました。この事例は、特に公共性の高い自治体において、より一層の倫理的配慮が求められることを示しています。

第6章 予防的アプローチと実践的対策

6.1 リスク評価とモニタリング

 SNS上での住民の反応の変化を定期的にチェックし、潜在的なリスクを把握することが重要です。SNS上での自治体の評判の推移を数値化して管理したり、特定のキーワードやハッシュタグの検索を定期的に行うことで、炎上の前兆を見逃さないようにします。早期発見ができれば、迅速な初期対応が可能となります。

6.2 ガイドラインの整備と組織内教育

 自治体は組織内のガイドラインを整備し、SNS投稿の際の注意点を明確化する必要があります。投稿内容の事前チェック体制を構築し、文化的配慮など、状況に応じたルール化を行うことが重要です。また、炎上リスクとその適切な対応方法について、広報担当者やSNS運用者に対して周知徹底することで、予防と初動対応の力を高めることができます。

6.3 クライシスマネジメント体制の構築

 万が一の炎上に備えて、自治体の広報部門と経営層が密接に連携し、迅速な意思決定と適切な情報発信ができるよう、あらかじめ対応手順を定めておく必要があります。事前に危機シナリオを検討し、広報や法務、総務など、関係部門が連携してリスクに備えておくことで、発生時の混乱を最小限に抑えられます。

6.4 ダイバーシティの推進

 自治体における多様性の推進も、炎上への有効な予防策となります。広報担当者チームに多様な性別、年齢、背景を持つメンバーを配置することで、投稿内容の偏りを防ぐことができます。また、広聴活動を通じて住民の多様な意見を直接集めることも重要です。広報活動においても、性別、人種、障がいなどへの配慮を忘れずに実施することが求められます。

第7章 まとめ

 SNS炎上は、自治体にとって深刻な影響を及ぼす重大な問題ですが、建設的な対話の機会を提供する可能性も秘めています。適切な対応のためには、24時間以内の迅速な初期対応、誠実なコミュニケーション、根気強い継続的な対応が不可欠です。また、リスク評価やモニタリング、組織内ガイドラインの整備、職員教育、クライシスマネジメント体制の構築など、予防的なアプローチにも取り組む必要があります。

 今後も、SNSの利用者増加や社会的関心の高まりから、自治体にとってのSNS炎上リスクは一層高まっていくことが予想されます。本ガイドの知見を活かし、適切な対策に取り組むことで、自治体のイメージと信頼を守り抜いていただきたいと思います。

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