【公務員向け】すぐできる!?動画で変わる自治体広報の常識
はじめに
動画広報の世界に革命が起きようとしています。デジタル技術の進化と新型コロナの影響で、オンライン発信の重要性が一気に高まりました。特に動画は、即時性と訴求力の高さから、自治体広報の新たな主役として注目を集めています。
でも、公務員「あるある」なんですよね。動画を作ってウェブに載せれば、それで終わり・・・。残念ながら、そう簡単な話ではありません。そんな表面的な取り組みでは、予算と時間の無駄遣いになってしまうかもしれません。本当に動画の力を引き出すには、もっと戦略的に考えていく必要があります。私がかつて勤務した東京都の戦略広報部でも、都庁が発信する政策広報動画の質向上は大きな課題でした。全ての動画を広報部員がチェックするのはもちろん、仕様書作成段階から伴走支援する形を取っていました。それほど動画発信に重きを置いていたんです。
そこで本ガイドでは、「作って満足」から一歩先へ進むための実践的なノウハウを惜しみなく公開します!動画広報を最大限に活用するためのコツを、企画から制作、運用まで、わかりやすく丁寧にお伝えしていきます。
さあ、一緒に自治体の動画広報の新常識を学んでいきましょう!一見カンタンそうに見えて、実は奥深い世界が待っています。でも大丈夫、このガイドがあなたの羅針盤になります。きっとあなたも動画広報のプロになれるはずです!
第1章 動画広報の基本、知っておきたい重要ポイント
1.そもそも、動画広報ってなに?何がスゴイの?
動画広報の一番の目的は、市民の皆さんに正確でわかりやすい情報をお届けすること。文字や写真と比べると、動画にはこんな強みがあります。
まず、複雑な情報もわかりやすく伝えられるのが大きな特徴です。例えば、新しい行政サービスの使い方や、防災の避難ルートの説明。こういった手順や空間的な情報は、動画なら順を追って視覚的に説明できるので、とても理解しやすくなります。抽象的な内容も、具体的にイメージしやすくなるんです。
それに、雰囲気や感情もリアルに伝えられるのが動画の魅力。地域の魅力発信やイベント紹介などは、映像を通して現場の空気感や人々の表情が伝わると、より臨場感があって心に響きます。文字や写真だけでは伝えきれない、その場の空気感を感じ取ってもらえるんです。
若い世代への訴求力の強さも見逃せません。いわゆるデジタルネイティブと呼ばれる彼らにとって、動画は情報収集の定番ツールになっています。YouTubeやTikTokの普及ぶりを見ても、動画抜きではもはや語れない時代になっているのは明らかですよね。
そして動画は、記憶に残りやすいのも大きな特徴です。人間の記憶のメカニズムとして、見たことと聞いたことの両方から情報を得た方が、より強く印象に残るんです。つまり動画なら視覚と聴覚の両方にアプローチできるから、より効果的に情報が伝わるというわけです。
でも、こうした動画のメリットを最大限に活かすには、ただ闇雲に作ったのでは意味がありません。戦略的に企画を練り、制作段階でもしっかりとしたマネジメントが必要不可欠なのです。特に自治体は限られた予算と人員の中で、いかに効果を出すかが勝負どころ。簡単そうに見えて、実は戦略なくしては本当の動画広報は実現できないんです。
2.戦略的アプローチが大事な理由
効果的な動画広報を実現するには、いくつかの要素を総合的に考える必要があります。その第一歩は「何を、誰に、どのように伝えるのか」という基本的な問いに明確に答えることです。
例えば、新しい行政サービスの告知をする場合、そのサービスの対象となる市民の属性(年齢、居住地域、ライフスタイルなど)を詳しく分析して、彼らがどんなメディアによく接しているかを把握することが大切です。そして伝えるべき情報の優先順位を明確にし、限られた尺の中でいかに効果的にメッセージを届けるか、戦略的に考えていく必要があります。
予算配分も慎重に検討しなければなりません。制作費、広告費、運用費のバランスを取ることで、限られた予算内で最大の効果を生み出せるはずです。特に最近のデジタル広告は、ターゲティングや効果測定がとても緻密にできるので、予算を賢く使い分けるチャンスが広がっています。ちなみにサラッと言いましたが、最後の「運用費」は忘れがちなので、よーく覚えておいてください。動画は「運用」が最重要なんです。
そして効果測定の指標設定も欠かせません。単なる再生回数だけでなく、視聴完遂率、エンゲージメント率、さらには最終的な行動変容(サービス利用につながったかなど)まで、多角的に評価の物差しを設けることが大切です。数値目標を設定して、それを達成するための戦略を立てていくことが成功の鍵を握ります。
こうした要素を事前にしっかり考え、綿密な計画を立てることで、はじめて効果的な動画広報が実現できるのです。特に以下の5つの観点は入念にチェックしておきたいポイントです:
目的の具体化 ・最終的に達成したい状態は? ・中間目標は何か? ・数値目標は具体的に?
ターゲット層の分析 ・年齢や性別などの属性は? ・メディア接触の傾向は? ・ライフスタイルや価値観の特徴は?
メディア戦略の策定 ・主要な配信先は? ・補助的なメディアの活用は? ・クロスメディア展開の可能性は?
予算計画の立案 ・制作費の見積もりは適切か? ・広告費はどう配分する? ・継続運用の費用は確保できる?
実施体制の構築 ・庁内の担当者やリソースは? ・外部パートナーの選定は? ・役割分担は明確になっている?
こうした地道な準備があってこそ、本当に効果的な動画広報が花開くのです。特に自治体は税金を使う以上、慎重な計画が求められるのは当然です。「何を、誰に、どう伝えるか」をしっかり見定め、最適な手段を選んでいくことが何より大切なのです。
第2章 カンタン?いえいえ、見極めが大切!動画制作の基礎知識
1.尺は命!動画の長さと情報量の関係
動画の長さ、つまり尺は、効果に直結する超重要な要素です。一般的な目安としては以下のようになります。
テレビCMは15秒または30秒、SNS動画は30秒から2分、YouTube解説動画は5分から10分、講座やセミナーは15分から30分の長さが一般的です。これらの時間設定は、視聴者の集中力や情報の処理能力に密接に関連しています。たとえば、テレビCMが15秒を基準にするのは、この長さが視聴者の注意を引き、必要なコアメッセージを伝えるのに適していると考えられているからです。実際、15秒というのは、重要な情報を「全て」伝えるには十分な時間です。初心者は「それでは短すぎる」と感じるかもしれませんが、CMディレクターはこの15秒間に何を伝えるか、その一瞬に全てをかけます。私もそのような仕事には深い敬意を表しています。
一方で、もっと詳しい説明が必要な場合は、YouTubeの動画講座が適しています。ここでは5~10分くらいが一般的ですが、内容次第では15~30分になることもあります。でも、その場合は視聴者の集中力を保つ工夫が必須です。テンポのいい編集や、適度な区切りの演出などが大切になってきます。そして、こういった長めの動画を見せるのは「意図を持って見ている人」、つまりセミナーの参加者など、そう簡単には離脱しない人が対象の場合に限ります。
動画の長さと情報量のバランスは、配信先のメディアや視聴者層の特性をよく見極めて、慎重に決める必要があるのです。動画の目的や対象者に合わせて、最適な尺を見つけ出すことが何より大切なんですね。
3.配信先が変われば、動画の作り方も変わる!メディア特性を知ろう
動画を作るとき、配信先メディアの特性をよく理解しておくことが、超重要なポイントです。
まずテレビCMは、年代を問わず幅広い層にリーチできて、信頼感も高いのが強みです。視聴者にとってテレビは、公共性の高い情報源だと認識されているんです。でも制作や放送のコストは高めですし、放送局の審査も厳しい。そこは覚悟が必要ですね。
街なかでよく見かけるデジタルサイネージは、音が使えないことが多いので、視覚的な訴求が特に大切です。人通りの多い場所に設置すれば、思わぬ注目を集められます。文字情報は必須ですし、設置場所に合わせた見やすさの調整も必要です。費用は比較的安めなので、予算内で有効活用できる魅力的な媒体と言えるでしょう。
SNSの動画は、若い層への訴求力が高くて、双方向のやりとりができるのが最大の特徴です。拡散力も魅力ですし、制作費を抑えられるのも大きなメリットですよね。でも、一瞬で視聴が終わってしまうことも多いので、ぐっと引き込む演出が不可欠です。瞬間最大風速的なインパクトが求められる媒体なんです。
このように、配信先が変われば、求められるものも大きく変わってきます。だから視聴者層の特性とメディアの特性、両方をよく見極めて、最適な組み合わせを見つけ出すことが大切です。この検討抜きでは、本当に効果的な動画広報はできないんですね。
4.若者もシニアも、みんな違う!世代別アプローチを極める
2023年のメディア接触調査によると、世代によって情報の入手方法は大きく異なります。この違いをしっかり押さえることが、効果的な動画広報の大前提になるのです。
まずシニア層、60代以上の方へのアプローチを考えましょう。この世代にはテレビCMが圧倒的な効果を発揮します。地域情報誌との連動も効果的です。シニア層は、ゆっくりと丁寧な説明を好む傾向にあり、テレビをよく視聴し、地域の情報にも関心が高いという特徴があります。だからこそ、この2つのメディアを軸に展開することが鉄則なのです。
一方、40~50代の中年層は、テレビとインターネット、両方をうまく使い分けているのが特徴です。実用的な情報を求める傾向が強いので、タイミングの良い情報提供が重要になります。例えば共働き世帯が多い年代ですから、仕事帰りの夕方にアプローチするのが効果的かもしれません。
そして10~30代の若者層は、スマートフォンが圧倒的な主力メディアとなっています。特に最近人気の縦型動画は、めちゃくちゃ効果が高いんです。この世代へのアプローチでは、SNSとの連携が絶対に外せません。TikTokやインスタグラム、YouTube Shortsなど、若者がよく利用するプラットフォームを効果的に活用することで、一気にリーチを広げることができます。
このように世代によって情報との接し方は千差万別です。だからこそ、動画の長さ、配信先、表現方法など、視聴者の特性に合わせて最適化していくことが何より大切なのです。視聴者をしっかり分析して、メディアの特性を深く理解する。その上で、効果的なアプローチ方法を組み立てていくことが、成功への近道と言えるでしょう。
第3章 動画制作の舞台裏、知られざる実務プロセス大公開!
1.締め切りは絶対!制作スケジュールの立て方とコツ
動画広報を成功に導くには、制作スケジュールの適切な管理がめちゃくちゃ大事です。一般的な制作期間は3ヶ月程度ですが、その中にもいくつかの重要なステップがあります。
まず企画構成に1ヶ月かかります。この段階では動画の目的と対象者の明確化、伝えるべきメッセージの決定、大まかな構成案の作成と調整、そして関係部署との打ち合わせなどを行います。実はこの段階での入念な準備が、その後の制作を大きく左右するのです。方向性をしっかり定めておかないと、後から大きな手戻りが発生しかねません。
東京都では「ディレクションシート」を作成して打ち合わせを進めていました。このシートには動画の目的やターゲット、視聴者に期待する変化、そして予算などを記入します。最も重要なのは「伝えたいメッセージ」を1行で書く項目です。職員の皆さんはここで悩まれることが多いのですが、動画を通じて発信したい内容を数個の単語または一行の文章で言えない間は、打ち合わせが十分とは言えません。
なお東京都ではこの段階から、部局レベルの上司の決裁を受けていました。
次に制作期間の2ヶ月。ここで特に重要なのが撮影です。ロケーション選び、出演者の手配、天候対策など、やることが山積みです。カメラアングル、照明、音声録音など、細かい技術的な配慮も欠かせません。プロのカメラマンやディレクターの力を借りることで、高品質な撮影が実現できます。
そして編集に1.5ヶ月を要します。ここでは仮編集から始まって、細かい部分の調整、テロップや効果の追加などを行います。仮編集は「オフライン」と呼ばれることがあり、色々と意味はあるのですが、まずは業界用語として覚えておけば十分です。
撮影した素材をどう組み立てるか、伝えたいメッセージを最大限に引き出すためのポイントを見極めながら、丁寧に編集を進めます。特に情報量が多い場合は、視聴者にわかりやすく伝わるよう、構成の工夫とタイミングの調整が必要です。
音声編集にも1日かかります。ナレーションの収録、BGMの選択、効果音の挿入など、音の演出も動画の説得力を左右する重要な要素です。ナレーションの言葉選びや声質、BGMの雰囲気やボリューム調整など、細部へのこだわりが求められます。音声を収録し、最終的に整える作業は「MA」と呼ばれます。
最後の入稿審査に2週間。関係部署の確認、修正対応、最終承認などを経て、ようやく完成となります。この段階では、動画の出来栄えを隅々までチェックして、必要な修正を施していきます。関係者全員が納得のいく仕上がりになるよう、入念な確認作業が欠かせません。
私も東京都で仕事をしていた時期は、この段階が最も大変でした。各部局の担当者とその上司から細かくテロップや映像について指摘が入りますし、最終的にトップの承認がないと発信できません。私の担当案件ではありませんでしたが、都の重要イベントのCM動画が最終的にトップの決裁でNGとなり、お蔵入りになってしまったという泣くに泣けない「事件」もありました。
このように動画制作の各工程には、それぞれに重要な作業とポイントがあるのです。特に企画段階での綿密な準備と、撮影・編集・音声における質の追求が、効果的な動画広報の実現に直結すると言っても過言ではありません。制作スケジュールの適切な管理は、予算や人的リソースを最大限に活用する上でも非常に重要なのです。
ちょっと舞台裏話が長くなってしまいましたが、ここで一旦休憩しましょう。次は各メディアの規定や注意点について、もっと詳しく見ていきたいと思います!
2.テレビ?Web?それとも屋外?配信先ごとの規定と落とし穴
動画広報を効果的に進めるには、配信先メディアの特性をよく理解して、それに合わせた制作手法を取り入れることが大切です。実は各メディアには、知っておくべき規定や注意点がたくさんあるのです。
例えばテレビCM。15秒か30秒の尺にきっちり収めなければなりません(ここにはもっと細かい搬入規定がありますが、いったん「専門家におまかせ」で片付けておきましょう)。しかも放送局の厳しい審査、いわゆる「考査」を通過する必要があります。表現規制への対応や著作権処理には細心の注意が求められます。短い尺の中で、いかに印象に残るメッセージを届けられるか。伝えたいことの本質を見極め、凝縮することが何より大切です。
また医療や薬に関することなど、国民の安全に関わる内容については、より厳しい考査が行われます。各放送局とも独立した部署で審査を行っていることが多く、場合によっては局ごとに判断が分かれることもあります。
続いて、デジタルサイネージ。街中の電子掲示板で情報を表示する、あのシステムですね。音が使えないことが多いので、視覚的な訴求が命です。文字情報は絶対に欠かせませんし、設置場所に合わせた見やすさの調整も必須です。シンプルで一目で伝わるメッセージ設計と、印象的なグラフィック表現がポイントになります。
動画をテレビやネットに加えて、デジタルサイネージにも「併用」することも多いと思いますが、その場合は詳細なテロップ(文字情報)が「ありバージョン」と「なしバージョン」の2つを用意しておくとよいでしょう。
YouTubeの広告にも、いくつかのタイプがあります。詳しくは今後お伝えしますが、ユーザーの動画再生前に流れる「インストリーム広告」は5秒後にスキップできるようになるため、最初の5秒で強烈な印象を残すことが勝負です。バンパー広告は6秒間スキップできないので、一瞬で伝わる簡潔なメッセージとインパクトのある映像が必須になるなど、種類によって作り方が異なります。
このようにメディアによって、求められるルールやポイントは大きく異なります。これらをしっかり理解した上で、最適な制作手法を選んでいくことが何より重要です。新しい配信先が登場したら、その特性をすぐに学んで、臨機応変に対応する姿勢も大切ですね。
動画制作では、単に「画面映え」するだけではダメなのです。それぞれのメディアの制約を踏まえた上で、いかに効果を最大化できるかを考え抜くことが求められます。企画から制作、配信に至るまで、常に配信先の特性を意識しながら、最適解を追求していく。それこそが、プロの動画制作者に求められる力なのかもしれません。
ここまで読んで、「動画制作って、想像以上に奥が深いんだな」と感じた方も多いのではないでしょうか。でも大丈夫。次の章からは、もっと具体的な表現のコツについて解説していきます。一緒に学んで、動画広報の達人を目指しましょう!
第4章 伝え方が9割!動画表現の極意に迫る
1.男女、老若男女、みんな違ってみんないい!多様性に配慮した表現を
行政の動画広報では、性別、年齢、障がいの有無など、あらゆる市民の多様性に配慮することがとても大切です。これは単なる形式的な対応ではなく、全ての人に平等に情報を届けるための基本姿勢と言えます。
例えば、ある職業を描写するとき、特定の性別に偏らないよう注意が必要です。家庭や地域での役割も、男女の古い固定観念に縛られず、多様なあり方を示すことが求められます。高齢者も、障がいのある方も、外国にルーツを持つ方も、誰もが等しく尊重される表現を心がけることが肝心なのです。
でも、これって本当に難しいと感じる人も多いはずです。差別や偏見につながりかねない表現は、時に無意識のうちに使ってしまうことがあるからです。
だからこそ、シナリオを練る段階から、登場人物の設定やセリフ回しに注意を払うことが大切です。例えば、こんな点をチェックしてみましょう。
・特定の性別に職業や役割が偏っていないか?
・年齢による決めつけや、ネガティブなステレオタイプはないか?
・障がいのある人が、社会の中で活躍する姿が描かれているか?
・外国にルーツを持つ人が、自然な形で登場しているか?
こうした視点を常に持ちながら、一つ一つの表現を磨いていく。それは手間のかかる作業かもしれませんが、誰もが暮らしやすい社会を作るための第一歩なのです。
実はこの多様性への配慮は、行政の信頼を高める大きな鍵でもあります。特定の属性の人を排除せず、全ての市民に開かれたメッセージを発信することで、行政への親近感や安心感が自然と高まっていくはずです。
東京都で、多くの子どもたちが登場して講座形式で政策をわかりやすく伝える動画を制作した時、私たちはあえて肌の色の異なる外国人の子供さんにも参加してもらいました。
具体的にどんな工夫ができるのか、もっと考えてみましょう。きっとみなさんなりのアイデアが浮かぶはずです。多様な価値観を認め合える、豊かな社会を作るために。私たちにできることから、少しずつ始めていきましょう。
2.誰にでも優しく、誰にでも開かれた動画を目指して
もう少しこの点を掘り下げてみましょう。行政情報を発信するとき、常に意識したいのがアクセシビリティ、つまり情報のバリアフリー化です。障がいのある人もない人も、誰もが等しく情報を得られる環境を整えること。それは、公平性を重んじる行政の大切な責務と言えます。
でも、具体的にはどうすれば良いのでしょうか。動画コンテンツのアクセシビリティを高めるには、いくつかの工夫が必要です。
まず基本中の基本が字幕の提供です。単に音声を文字化するだけでなく、BGMや効果音なども適切に伝えることが大切です。文字サイズ、コントラスト、表示速度など、読みやすさにもこだわりたいところです。
音声ガイドの追加も効果的です。画面の情報を音声で説明することで、視覚障がいのある方にも内容がしっかり伝わります。色覚の多様性に配慮して、色の使い方にも気を配る必要があります。色覚に障がいのある方が認識できない色の組み合わせは避けるべきです。これは東京都でも、動画制作やホームページなどデジタルだけでなく、印刷物でも徹底していました。
こうした細やかな対応の積み重ねが、アクセシビリティの高い動画を生み出すのです。その結果、行政サービスの利用促進や、防災意識の向上など、様々な目的を、より多くの人に届けることができます。
アクセシビリティへの配慮は、行政の社会的責任でもあります。「誰一人取り残さない」というSDGsの理念を、動画制作の現場で実践していく。そんな覚悟と使命感を持つことが、私たち制作者に求められているのです。
でも正直に言うと、ここまで配慮するのはハードルが高く感じる人もいるでしょう。予算や期間に限りがある中で、どこまでできるか不安になることもあります。
だからこそ大切なのは、できることから一つずつ始めていくこと。まずは字幕付けから始めてみる。効果を実感したら、音声ガイドにもチャレンジする。そうした小さな一歩の積み重ねが、いつかは大きな変化を生み出すはずです。
アクセシビリティの向上は、一朝一夕にはできません。でも、その理念を心に刻み、日々の制作の中で意識し続けることは、私たちにもできるはず。より開かれた、より優しい社会を作るために。動画の力を通して、私たちにできることがきっとあります。
第5章 効果を最大化!動画広報のアクション戦略
1.一発じゃ届かない、計画的な訴求を
動画広報では、「撮って終わり」「作って終わり」ではなく、その先の戦略的な発信計画が何より重要です。ここがものすごく大事なポイントなので、何度でも言わせてください。「発信計画が重要」なのです。単発の動画をただ公開しても、多くの人に見てもらうのは難しいものです。どのような媒体で、どんなタイミングで、どのように活用していくのか。そのシナリオづくりが、効果的な動画広報の生命線と言えます。
残念ながら、東京都でもせっかく質の良い面白い動画を制作したのに、都の公式ホームページに掲載して終わりというパターンが目立ちました。閲覧数が数えるほど・・・という残念な結果に終わることも少なくありませんでした。
まずは動画の活用先、つまり主要な配信媒体を見極めることから始めましょう。ターゲットとなる層の特性を分析し、その人たちがよく接するメディアを洗い出すのです。例えば、若者向けならSNS中心、高齢者向けならテレビCMなど、対象に合わせて最適なチャンネルを選ぶことが肝心です。
また、クロスメディア展開にも目を向けたいところです。同じ動画コンテンツを、複数の媒体で多角的に活用することで、より多くの人にリーチできます。テレビCMで注目を集めた後、SNSで詳細情報を発信する。YouTubeで解説動画を公開しつつ、ウェブサイトにも誘導する。メディアごとの特性を生かした、有機的な連携プランを練ることが効果アップのカギとなります。
例えば、こんなクロスメディア活用例が考えられます:
テレビやネットCMで新施策の魅力を15秒で訴求し、「詳しくはウェブで」と告知
専用サイトにて、サービスの詳細や利用手順を動画で丁寧に解説
SNSでは使い方のコツや活用事例を紹介し、専用サイト・アプリへの誘導を設置
アプリ内でも操作ガイド動画を配信し、プッシュ通知で利用を促進
テレビ、Web、SNS、アプリ。それぞれの接点で段階的に情報を展開し、ユーザーの行動を喚起していく。こうした入念な設計があってこそ、動画コンテンツが真価を発揮するのです。
もちろん、すべての動画を多角展開する必要はありません。コンテンツの目的や性質に合わせて、最適な切り口を選ぶのがポイントです。でも、発信の幅を広げる意識は常に持っておきたいものです。「せっかくの動画を、もっと活用できないか」。そんな発想が、効果的な動画広報への第一歩となります。
そして大切なのは、しっかりと展開のための予算を用意しておくことです。ネット広告は有用ですが、効果が出る規模で実施しようとすれば、それなりの予算が必要になります。
2.予算内で最大限の効果を ~経費対効果の視点を忘れずに~
その予算の話です。いくら素晴らしい動画コンテンツでも、予算オーバーでは本末転倒です。特に税金を使う行政広報では、適切な予算管理と効果検証が欠かせません。無尽蔵にお金があるわけではないからこそ、一つ一つの施策に経費対効果の視点が重要なのです。
まず、予算計画を立てる際のポイントを押さえておきましょう。過去の事例を参考に、制作費用の適正な見積もりを行うことが重要です。例えばYouTube広告なら1再生あたり6円程度が目安となります。また、イベント開催や広告出稿など、拡散やPRにかかる費用も忘れずに計上する必要があります。
このような積み上げによって、トータルの必要額とその内訳が明らかになります。その上で、各施策の費用対効果を見極め、メリハリのある予算配分を心がけていきましょう。
時には次のような判断も必要になってきます。制作費が高すぎる場合は内製化の検討も選択肢の一つです。広告費がかさむ場合は、ターゲットを絞った配信で無駄を削減できます。また、二次利用が見込めない場合は、汎用性の高い素材を優先的に制作するという方法もあります。
ただし、予算がないからといって、「企画段階」を内製化して実際の制作を外注するというのは避けた方がよいでしょう。企画というのは、実際の制作を見据えて行うものです。途中から事業者に「はい、よろしく」というのは、いくらプロでも困ります。それならば思い切って、編集やナレーションも含めて職員で実施してみるという選択肢もあります。最近は優れた編集ソフトも多く、趣味程度に動画編集をしている職員もいるはずです。内容や発信形態によっては、そういった味のある動画も魅力的です。
限られた予算の中で最大の効果を生むための創意工夫。それこそが行政広報の醍醐味であり、プロの技量が問われるところです。
また、PDCAサイクルによる効果の定期的な検証も忘れてはいけません。再生数、視聴完了率、行動変容など、さまざまな指標での評価を積み重ね、次の施策につなげていく。その積み重ねが、予算の有効活用を支えるのです。
正直に申し上げて、これは本当に難しい課題です。効果をどう測るのか、改善にどうつなげるのか。正解のない世界だからこそ、担当者の力量が問われることになります。
東京都でも、「目標をどう設定すれば良いか」と悩む職員が多く、相談を受けることがありました。効果目標の立て方についても改めて解説できればと思いますが、他の自治体が作成した動画の再生数を参考にする(ベンチマークと呼びます)など、「まずは設定してみる」ことも大切です。
そして重要なのは、先進事例に学びつつ、仲間とアイデアを出し合うことです。経費対効果の考え方をチームで共有し、より良い判断を導き出していく。そうした地道な取り組みの積み重ねが、きっと予算の最大活用につながっていくはずです。
予算管理と効果検証。表舞台からは見えにくい部分かもしれませんが、実は動画広報の生命線なのです。数字に明るくなくても、その重要性は肝に銘じておきたいポイントです。施策の意義を最大化するためにも、経費対効果の視点を大切にしていきましょう。
第6章 未来を見据えて ~変化の時代を生き抜く力~
1.新技術の波に乗る ~VRやARの可能性~
近年、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)といった新技術の発展には目を見張るものがあります。これらの技術がもたらす没入感は、従来の動画表現の限界を大きく広げる可能性を秘めています。行政の動画広報でも、こうした技術革新の波を活用することが、これからの重要な鍵となるでしょう。
例えばVRを活用すれば、行政サービスの内容や公共施設の案内を、より臨場感を持って伝えることができます。利用者の視点で、まるでその場にいるかのような疑似体験を提供できるのです。書類や図面だけでは伝えきれない、空間の雰囲気や使い勝手を、リアルに感じてもらうことが可能になります。
また、地下にある大型の下水道トンネルなど、普段は見学することのできない場所をVRで配信することで、定期的に行われる自治体の工事への理解を深めてもらうこともできます。
ARならば、スマートフォンをかざすだけで、目の前の風景に行政情報を重ねて表示することができます。道路工事の説明や観光スポットの紹介など、現地に直接情報を重ね合わせる。そんな新しい情報発信の形が、私たちを待っているのかもしれません。
さらに、インタラクティブ性を取り入れることで、より双方向の対話型コンテンツも実現できます。例えば防災マニュアルの動画では、視聴者の選択に応じて展開が変わるようにする。そのような参加型の学習体験によって、主体的な理解を促すことができるでしょう。
ただし、こうした新技術を活用するには、それなりのスキルと知識が必要です。VRやARのコンテンツ制作には、専門的なノウハウが欠かせません。全てを内製化するのは難しいかもしれませんが、まずは外部の専門家と協力してみる。そこから学びを得て、徐々に組織内のスキルを高めていく。そのようなステップを踏んでいくことが大切です。
未知の技術に挑戦するのは、確かに勇気のいることかもしれません。しかし、チャレンジを恐れずに一歩を踏み出すことが、私たち行政広報の使命でもあるのです。変化の時代を生き抜くために、新しい表現力を身につける。そこから生まれる、新しい市民との対話の形。期待を持って、模索していきたいものです。
2.組織の力を結集する ~業務効率化と人材育成~
新しい技術を取り入れていくためには、組織としての対応力も問われます。動画広報に関する知見やノウハウを組織内で共有し、活用する仕組みを作り上げていくことが、持続可能な広報活動の鍵となります。
まず重要なのは、業務の標準化と知識の蓄積です。動画制作を担当する部署では、制作の流れやルールを文書化し、誰でも一定の品質で業務を行えるようにすることが大切です。過去の失敗や成功事例を共有できるデータベースを構築するのも有効な手段です。暗黙知を形式知に変えることで、担当者が変わってもクオリティを維持できる体制を整えることができます。
計画的な人材育成も欠かせません。動画制作のスキルを持つ職員を増やすことで、より柔軟に動画広報を展開できるようになります。まずは意欲のある人材に研修の機会を提供し、リーダー役を育成します。そこで培われたノウハウを、実務を通じた指導(OJT)などで他の職員に広げていきます。将来的には全庁的な動画活用を目指し、各部署に動画制作のできる人材を配置する。そのような長期的な視野に立った取り組みが、組織力の向上につながっていくのです。
専門性の高い部分については、外部のリソースも効果的に活用したいところです。動画制作会社やフリーランスのクリエイターなど、プロフェッショナルの力を借りることで、組織内のリソースを補完できます。ただし、その際も単なる丸投げは避け、組織の担当者がしっかりと伴走することが重要です。目標や進め方を共有し、密なコミュニケーションを取りながら、共に良い成果物を作り上げていく。それが、外部リソースを活かした賢い協働の在り方と言えるでしょう。
このように組織内の情報共有を進め、人材を育て、外部パートナーと連携する。地道な取り組みの積み重ねが、組織の広報力を底上げしていくのです。同時に、PDCAサイクルをしっかり回して、常により良い広報活動を目指す。そうした学び続ける姿勢が、変化の時代を生き抜く原動力となるはずです。
動画広報の高度化は、一朝一夕には実現できません。しかし、明確なビジョンを持ち、できることから一つずつ始めていくことが大切です。組織一丸となって動画広報の可能性を追求する。チーム全員の知恵を結集し、新たな挑戦を楽しむ。そのような体制を作り上げることが、皆様、行政パーソンに課せられた使命なのです。
さて、ここまで動画広報の基本を学んできましたが、まだまだ探求は続きます。新しい技術や表現への興味を持ち続け、仲間と知恵を出し合う。そのような前向きな姿勢こそが、私たちの成長の源となるでしょう。変化を恐れず、期待を胸に未来を切り拓いていく。そんな気概を持って、これからも市民のために質の高い動画広報を追求していきましょう。
おわりに
ここまで動画広報の極意をお伝えしてきましたが、「カンタンそう」と思われるのか、そうでないのか。しかし、本当の意味で動画広報を成功させるには、戦略的な思考と創意工夫が欠かせません。現代ではYouTubeやTikTokが日常となり、誰もが気軽に動画を視聴する時代です。だからこそ、行政広報の動画には、より高い完成度が求められているのです。
今回ご紹介した考え方は、あくまでも入口に過ぎません。実際の現場で実践していく中で、きっと新しい発見やアイデアが生まれてくるはずです。そうした学びを仲間と共有し、互いに高め合っていくことが大切です。
また、動画広報を通じて、多様な市民の声に耳を傾けることも忘れてはなりません。性別、年齢、障がいの有無など、あらゆる人に開かれた情報発信を心がける。そうした姿勢こそが、行政への信頼を高め、より良い社会を作る原動力となるのです。
動画広報の可能性は無限に広がっています。だからこそ、常に高い志を持ち、新たな挑戦を楽しむ気持ちを大切にしたいものです。一人一人の創意工夫が、やがて大きなうねりとなり、行政広報のあり方そのものを変えていく。そんな未来を信じて、これからも学び続けていきましょう。
動画の力で市民の心に寄り添う。その志を胸に、今日からさっそく一歩を踏み出してみませんか。きっとそこには、新しい広報の地平が広がっているはずです。
本ガイドを片手に、ぜひ動画広報の旅をスタートさせてください。未来の行政広報を切り拓くのは、他でもない、あなた自身なのですから。