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中国のスポーツ施設とスポーツ環境の現在地——2025年の視点から
※筆者は2007年、こちらのレポートを発表し、2008年北京五輪を前にした中国のスポーツ施設の現状について論じました。今回のルポは、その18年後の「答え合わせ」です。
大学を拠点としたスポーツの発展と課題
中国におけるスポーツ施設の活用において、大学の役割は年々拡大している。北京大学や北京理工大学、中国科学技術大学といった主要大学では、かつて国際大会で使用された施設が現在もスポーツ教育の中心となっており、学生や地域住民に開かれた運営が進められている。
一部の大学では、授業の一環としてスポーツ施設を活用し、学会や講演会にも対応できる多機能スペースとしての利用が定着している。しかし、全ての大学が順調にこのモデルを実現できているわけではない。施設維持費の負担が大きく、十分な資金を確保できずに老朽化が進むケースも報告されている。特に、利用者数が限られる大学では、施設の維持管理が財政を圧迫し、運営に苦慮しているのが現状である。
プロスポーツとの連携と大学スポーツの進化
大学を拠点としたスポーツ振興は、プロスポーツとの連携を強化する狙いもあった。現在、中国のプロサッカーリーグでは、北京理工大学のサッカー部が一定の競争力を持ちながらリーグ戦を戦っている。大学スポーツとプロスポーツの融合を促進する試みは、サッカーを中心に一定の成功を収めているが、他の競技ではそれほどの広がりを見せていない。
バスケットボールやバドミントン、卓球といった中国国内で人気のある競技においても、大学チームがプロリーグに参戦する試みは一部行われたものの、安定した競争力を持つに至っていない。これは、大学チームがプロの舞台で戦うための支援体制や予算が十分に確立されていないためであり、今後の発展に向けた重要な課題となっている。
五輪施設の現在の活用と維持問題
かつて国際大会の舞台となったスポーツ施設は、現在もさまざまな形で活用されている。国家体育場(通称:鳥の巣)は、引き続きスポーツイベントや文化イベントの開催地として使用されているものの、維持費の問題が依然として大きな課題である。年間維持費が5千万元に達するにもかかわらず、入場料収入の減少が進んでおり、収益の確保が求められている。
国家水泳センター(水立方)は、多目的利用の方針のもと、一般市民向けのプールとしての開放や、冬季には室内スケートリンクとして運営されるなど、柔軟な運営戦略を採用している。これにより、施設の有効活用と財政面のバランスを取る試みが進められている。
スポーツ教育の現状と今後の方向性
中国のスポーツ教育においては、国家主導型のエリート育成システムが依然として強い影響を持ちつつも、大学スポーツの重要性が増している。現在のスポーツ教育システムは、エリート育成と大学スポーツの二本立てへと移行しつつあり、より多くのアスリートが学校教育を受けながらトップレベルを目指す環境が整いつつある。
しかし、この流れには新たな課題も伴う。少子化の影響でスポーツ人口の確保が難しくなっている点や、eスポーツの台頭による伝統的なスポーツへの関心の相対的な低下が顕著になっている。また、環境問題への意識の高まりにより、大規模施設の維持が社会的に疑問視されるケースも増えている。
変化する社会ニーズとスポーツ界の課題
中国のスポーツ施設とスポーツ環境は、大規模なインフラ整備からより持続可能な活用モデルへの転換を迫られている。国際大会のために建設された施設が単なる遺産として残るのではなく、教育・市民スポーツ・プロスポーツの各分野で機能し続けるための戦略が必要とされている。
現在の状況を踏まえると、中国のスポーツ界は、社会ニーズの変化に適応しながら、新たな持続可能な発展モデルを模索する段階にある。施設の適切な維持管理、大学スポーツとプロスポーツの連携強化、少子化やライフスタイルの変化に対応したスポーツ教育の再構築といった課題を克服することが、今後の中国スポーツの発展における鍵となるだろう。